臨床心理学的アセスメント

臨床心理学適介入を始めるために重要な点
　�@クライエントがどのような症状や問題をどのように示し、何を訴え、どのような変化を希望しているかを十分に理解する必要
　�Aクライエントがどのような人となりなのか、どのような発達の状態にあるのかを理解しておく事が必要

当該の事例に関して収集されるべき資料
　1. 主訴の把握: 何が問題で来談したか
　2. 成育歴: 出産前妊娠中から、出産、そして現在に至るまでの諸問題
　3. 問題歴: 問題となる行動がいつ、どのように生じてきたか、また、それに対する周囲の人の態度や反応などの諸問題
　4. 家族関係: 家族構成、家族成員の性格、家族内の人間関係、夫婦関係などの諸問題
　5. 教育歴: 学級内での態度、適応度、人間関係、学業成績などの諸問題
　6. 相談歴: 過去の相談の有無、相談内容と治療内容、面接に対する動機づけなどの諸問題
　7. 身体状況と疾病歴、医学的所見
　8. 行動観察
　9. 各種心理検査結果
　　―こうした情報を得るためには、客観的で信頼できる臨床的アセスメント(査定、評価)が必要

心理アセスメントが関わるプロセス
　1. 上述した資料を収集する時点
　　―当該の行動問題がどのような機序で形成され、いかに持続してきているのか、また現在の行動問題の把握
　2. 臨床的介入を行い、それを終結するかどうかの判断を行う際
　　―介入の後、どのような変化が生じたのかの分析
　3. 介入の効果を判断する資料を収集する時点
　　―介入によって、どこがどのように改善されたかの分析
　　　⇒これらの結果、何らかの「治療仮説」のもとに介入の具体的なプログラムの立案が可能となる

臨床アセスメントの領域
　1. パーソナリティ: 個人がどのような心理的特性を持っているかに関するアセスメント
　2. 行動: その個人がどのような行動の特徴を示すかという理解
　3. 発達: 問題が発達がらみで生じることが多いゆえに、個人の発達の状態を適切に把握しておくことが必要
　4. 病理: 誤診をなくし、適切な診断が行われるために、症状の病理的な特徴を知っておかなければならない
　5. その他: どのような環境(環境)、家族関係(家族)、社会的支援システムの中で(ソーシャルサポート)生活しているか

プリ・アセスメントとポスト・アセスメント
　―アセスメントは大きく分けて2つの時点で行われる
　　1. 介入を開始する前の時点(プリ・アセスメント)
　　　―プリ・アセスメントの結果によって以下の事が可能になる
　　　a. そうした症状や行動問題がどのようなメカニズムが形成され、いかに持続してきているかを考える
　　　b. どのように働きかけると、症状や問題のどの部分がどのように改善されるかという「治療仮説」を考える
　　　c. 治療仮説に基づいた具体的な介入のプログラムを考える
　　2. 介入終了時のクライエントの様子を記述し、評価する事(ポスト・アセスメント)
　　　―ポスト・アセスメントは以下のために必要なもの
　　　a. いつ介入を修了したり、働きかけをフェードアウトすればよいかという介入の終結の見通しをつける
　　　b. 症状や行動問題にどのような変化が生じ、どの程度改善したかなどに関する情報を収集分析し、効果を判定する
　　　c. どのアプローチがどのような問題の改善に対して有効であったかという判断を行い、治療仮説の是非を検討
引用文献: 臨床心理学 (ベーシック現代心理学)

診断基準
　―アセスメントを行うには、その客観性を保証し、診断基準を持つことが必要
　　―援助に携わる専門家の間で異なった説明が行われると、最も困惑するのはクライエント
　　―異なった説明の結果、適切でない対応がとらわれることで、臨床心理学的援助の道義的、社会的責任も問われる
　DSM(Diagnostic and Statistical Mannual of Mental Disorders)
　―アメリカ精神医学会が刊行している精神疾患の診断・統計マニュアル
　　―「病因論」に基づく診断ではなく、クライエントや患者の訴える臨床症状の分類を基本とした精神疾患の診断が可能
　　　→診断の客観性が高い
　　―「多軸システム」の採用で、1つの問題を評価するだけでなく、身体疾患や心理社会的要因を考慮しながら総合的に理解可能
　　　→臨床現場で、生物・心理・社会的モデルという観点から症状総合的に理解できる
　　　第一軸; 臨床疾患・臨床的関与の対象となることのある他の状態
　　　　―精神疾患の分類と診断基準、重症度の判定、臨床経過、他の疾患との関連、文化的要因への配慮、人口学的特徴、
　　　　　有病率、家族発現様式、鑑別診断etc……
　　　第二軸; パーソナリティ障害・精神遅滞
　　　第三軸; 一般身体疾患
　　　第四軸; 心理社会的および環境的問題
　　　第五軸; 機能の全体的評定
　国際疾病分類(ICD: International Classification of Diseases)
　―世界保健機関(WHO)によって作成された国際疾病分類のこと
　　―もともとは国際死因分類として作成されていた基準が、国際疾病分類として用いられ、改訂が加えられ現在に至る
　　―精神疾患や精神衛生に関する諸問題は、「精神および行動の障害」として10の診断カテゴリーがまとめられている

発達診断法
　発達診断法の意義
　―発達の順序に沿った無理のない指導を行うためには、発達の様子を診断することが重要
　　ｅ.ｇ., 1歳児が夜、睡眠中に尿を漏らしても問題にならないが、7歳児で同じことがあれば問題
　　―年齢や発達段階に応じた行動の在り方を知らなければ、有効な援助ができないだけでなく、問題の把握もできない
　　　⇒発達診断機能の1つは、問題を明確にし、問題形成や維持の要因を知ること
　　―問題が無い場合にどのような生き方がありうるのかという視点が無ければ、援助が行き詰ってしまう
　　　⇒発達診断機能の1つは、問題解決の規範的な姿を知ること
　基準データの確立
　―知能に関しては、その内容と評価方法の研究が発展しており、その構成についても研究が進んでいる
　　―年齢ごとに平均的な能力のデータがあるため、データベースをもとに知能診断が行える
　―言語発達や、身辺自立の発達などに関しても基準データは蓄積されており、言語発達検査や精神発達検査も可能
　　―しかし、社会状況における行動の基準データは少なく、ある行動がどの程度問題になるのかの根拠は乏しい
　　　―社会状況における行動の基準データがあるとどうなるか
　　　　1. クライエントの問題の様子を評価できる
　　　　2. 治療で取り上げる目標行動の選択や、治療効果の判定が可能
　　　　3. 治療を開始すべき時期や、取り組むべき行動の種類についての情報が提供される
　治療技法の選択と発達水準
　―心理療法の技法は数多く開発されているが、その実践で発達水準をどのように考慮すべきかは多く言及されない
　　―技法自体は正しく用いても、効果的な介入が出来ない場合がある

行動検査法
　―症状の根本的な表現型である行動・認知・生理の評価から治療をスタートする
　行動アセスメントとは？
　―問題行動を、本人を取り巻く環境との相互作用として評価する
　　―問題行動の変容のためには、どのような環境の変化が必要であるかを吟味する評価の在り方
　―行動アセスメントのプロセス
　　1. 何が問題なのか(生理・行動・認知面から)を明らかにし、標的行動を設定
　　2. 問題行動がどのように形成されてきたかを明らかにする
　　3. 問題行動がどのように維持されているかを明らかにする
　　4. 問題行動を取り巻く環境を操作して、問題行動の変化を吟味する
　―環境との相互作用のために
　　―問題行動に先立つ環境条件(先行条件)と、問題行動に続く環境条件(結果条件)、問題行動自体とを分けて記述
　　　―3者間の因果関係を吟味
　　―面接、他者による評定、質問紙などへの反応、生理学的アセスメントによって、行動のサンプルを取る
　問題の明確化と標的行動の観察
　―評価に先だって、主訴を具体的な行動のレベルで明確化することが必要
　　―行動の測度に用いるもの
　　　1. 一定時間内の標的行動の出現頻度(生起確率)と持続時間
　　　2. 特定の先行条件における標的行動の生起確率
　　　3. 特定の弁別刺激から行動生起までの反応潜時
　　　4. 標的行動の結果として生じた事態(直接観察できない遺尿の結果の濡れた下着)の頻度
　　　5. あらかじめ行動の種類をいくつかにカテゴリー分けしておき別々に記録する
　　―標的行動の観察
　　　1. クライエントの行動を直接観察できる
　　　　a. 本人に普段通りにしてもらい、観察する自然観察法
　　　　b. 治療者側が特定の状況を設定し、特定の環境と標的行動の関係を吟味する実験的観察法
　　　　　―ロールプレイングで問題に関連する場面を構成する方法
　　　2. 本人や周囲の人の報告や記録による場合
　　　　―クライエント自信に標的行動の記録を報告してもらうセルフモニタリング
　　　　　―データの信頼性が低いとの批判もあるが、この手続き自体に治療効果があることも知られる
　　―観察の手続き
　　　1. リアルタイムの観察(事象と持続時間の記録)
　　　　―最も望ましいが、時間と労力がかかりすぎる
　　　2. 走査サンプリング(ランダムな時刻を設定して、その時刻の標的行動の有無を記録する方法)
　　　3. 時間間隔記録(観察セッションをいくつかに細分して、各インターバルで標的行動があったかを記録する)
　　　―観察者の存在自体の影響を抑えるために
　　　　a. 順応する時間をとってから正式なデータ収集する
　　　　b. ワンウェイミラーを使用する
　　　―観察のバイアスを減らすために
　　　　―観察者を適切に選択し、訓練することも必要
　　―観察の信頼性の判定
　　　―2名の観察者が同じ行動について別々に記録し、その一致率を吟味する
　　　　―一致率は、一致した判断の割合、コーエンのκ、一致限界、一般化係数(ICC)等を用いる
　治療効果の評価
　―治療効果の評価のために
　　1. 治療前・治療中・治療後のデータの比較
　　2. 基準となる他者との比較
　　―多層ベースライン計画などの単一事例の実験計画法を用いる
　―治療効果の評価側面
　　1. 数か月後など一定期間を経過しても変容が安定しているか(維持)
　　2. 特定の場面だけでなく、日常の様々な場面に効果が及んでいるか(般化)
　　3. 他者との相互作用に変化が及んでいるか

心理検査とテストバッテリー
　―人格理解の方法には面接法や、観察法に加え心理検査による方法がある
　　―通常は心理療法の方針決定に心理検査を行うが、経過の変化を確認するため、終結時の効果測定にも実施
　　―ロジャーズのように検査による客観的診断をしない立場も
　心理検査の種類
　1. 質問紙法
　　―自己の様々な側面について構造化された質問項目に被検者自身が応える方法
　　　―主に被検者に意識された自己像や自己評価が測定される
　　　e.g., Y-G性格検査、ミネソタ多面人格目録(MMPI)、モーズレイ性格検査(MPI)、顕在性不安尺度(MAS)、CMIetc…
　　―質問紙法の特徴
　　　長所
　　　a. 検査の実施が簡単で、短時間の研修で実施でき、集団に実施しやすい
　　　b. 採点や結果の数量化が容易にでき、結果の解釈に主観が入りにくい
　　　短所
　　　a. 質問項目に対する理解が被検者によって一定でない可能性がある
　　　b. 反応の歪曲が起こりやすい
　2. 投影法
　　―曖昧で抽象化された刺激を被検者に提示し、言語的・非言語的な反応から、その人格構造を理解する方法
　　　―被検者には自分の反応の意味が分かりにくい
　　　e.g., 文章完成法テスト(SCT)、ロールシャッハテスト、主題統覚検査(TAT)、P-Fスタディ、バウムテスト、DAPetc…
　　―投影法の特徴
　　　長所
　　　a. 被検者が自由に反応でき、反応の意図的歪曲が起こりにくい
　　　b. 反応結果の処理は統計的規準による部分が少なく、解釈するものの技量に依存する
　　　c. 単なる査定に留まらず、治療的な役割を果たすものもある
　　　短所
　　　a. 理論的根拠があいまい
　　　b. 解釈が主観的になりやすい
→投影法に対する批判に関しては『心理テストはウソでした (講談社＋α文庫)』を参照
　3. 作業検査法
　　―一定の作業課題を与え、その作業経過や結果に基づいて人格を理解しようとする方法
　　　e.g., 内田クレペリン精神作業検査、ベンダー・ゲシュタルト検査etc…
　　―作業検査法の特徴
　　　長所
　　　a. 言語を用いないため、言語障害のある人にも使える
　　　b. 集団に実施できる
　　　c. 採点や結果の数量化が容易
　　　d. 反応の意図的歪曲が起こりにくい
　　　短所
　　　a. 解釈が主観的になりやすい
　　　b. 人格の主に意図的な側面に限られる
　心理検査実施上の留意点
　1. 実施方法に成熟し、決められた実施方法のとおりに施行する
　2. 使用する検査について十分な知識と経験を有している
　3. 実施の目的を明確にする
　4. 結果の解釈は慎重にし、その結果が全てと決めつけたりしない
　5. 被検者との十分な信頼関係を作る
　　―投影法は、それ自体が治療的効果を持つことがあるが、それだけ負担も大きいので、むやみに検査はしない
　テストバッテリーの考え方
　―心理検査はそれぞれが特有の背景理論を持っており、その理論に基づいて人格を理解しようとする
　　―1つをもって人格の全体像を明らかにすることは無理があり、現場では複数の検査を比較照合し総合的に判断する
　　　⇒テストバッテリー
　　―テストバッテリーを組むことによって、人格の異なる側面、意識水準へのアプローチが可能
　　　―多面的な理解に基づいた関わりも可能になる
　テストバッテリーの組み方
　―どのようなテストを組み合わせるか決まったやり方は無い
　　―被検者や目的に応じて考慮すべき
　―解釈の際に注目すべき点
　　―それぞれがどのような関係にあるのか、違いや矛盾はあるのか
　　―(矛盾があるとすれば)それは何を意味するのか、被検者はどのように認知しているか

精神生理学的アセスメント
　―身体的なわずかな変化からクライエントの情動的・認知的側面の変化を探る
　　―心理学的な情動変化は自律神経系を中心とした身体的・生理学的変化にも影響を及ぼす
　自律神経系の指標
　―自律神経系の測定は精神生理学的アセスメントの中核
　　1. 特に、心臓血管系は心理状態との関連性が深く、さまざまな測定が行われる
　　　a. 心電図(ECG: 心臓の収縮・拡張に伴った電気的活動を記録したもの)の変動係数
　　　b. 心拍数(HR)の変動係数
　　　　―不安や緊張といった心理的変化に対応して増加
　　　c. 心電図PR感覚(心電図の隣接する２つのR派の測定)の変動係数
　　　　―不安や緊張といった心理的変化に対応して減少
　　　　―PR間隔の変動の手がかりとして、交感神経系と副交感神経系がどのように変動するかを手がかりとする方法も
　　　d. 指尖容積脳波(心臓拍動によって生じた波動が動脈を伝わって末梢まで到達した状態を、容積の変動として記録)
　　　　―身体状態に及ぼす心理学的要因の評価や交感神経系機能の評価に有用
　　　e. 血圧(心臓拍動と同期して変化する指標)
　　　　―心臓が収縮する収縮期で最高となり、次の拍動前に心筋が弛緩する拡張期で最低となる
　　　f. 末梢皮膚温(交感神経系の賦活によって血管の収縮が起こると皮膚温は低下する原理を利用した指標)
　　2. 心臓疾患系の指標と並んで重要なものは汗腺の指標
　　　―皮膚電気活動(EDA: 皮膚の電気抵抗の変化や皮膚そのものの電位の変化などの総称)
　　　　―EDAは、皮膚電気反応(GSR)として測定される
　　　　e.g., SCR(皮膚電導反応)、SCL(皮膚電導水準)、SPR(皮膚電位反応)、SPL(皮膚電位水準)etc…
　　3. 瞳孔反応も自律神経系の指標として用いられる
　体性神経系、中枢神経系の指標
　�@体性神経系の指標
　　1. 筋電図(筋肉収縮時の活動電位を測定したもの)
　　2. 表面筋電図(皮膚の表面に装着した表面電極を用いて、筋肉全体の活動電位を見たもの)
　　　―神経・筋肉骨格系の心身症のアセスメントに限らず、身体症状を訴えるクライエントの病態の理解にも有用
　�A中枢神経系の指標
　　―脳波に関しては多くの波成分に分類可能
　　　―臨床心理学ではクライエントのリラクセーションの指標としてα波(8〜13Hz)が用いられることが多い
　精神生理学的指標の測定と治療
　―精神生理学的指標は、ポリグラフを用い、いくつかのチャンネルを用いて各指標を同時記録することが多い
　―指標によって導出の方法が多様性に富み、測定には機器の操作を含めて専門性の高い知識と技術が必要
　―これらのアセスメントは、バイオフィードバックなどの技法の基礎となる重要な方法

神経心理学的アセスメント
　―大脳を中心とした中枢神経系の損傷によって生じる症状を査定する
　　―複合的な要因を含む検査が多い
　総合的な神経心理学的検査法
　―ハルステッド=ライテン・バッテリー(標準化された日本語版はない)
　　1. カテゴリーテスト(抽象化能力)
　　2. 触覚動作テスト(記銘力)
　　3. リズムテスト(非言語性聴覚認知)
　　4. 言語音認知テスト
　　5. 指タップテスト(巧緻性と動作速度)
　認知症
　―標準化された検査はWAIS-R
　―スクリーニング用としては、HDS-R、精研式スクリーニングテスト、MMSEetc……
　―非言語性の検査としては、レーヴン色彩マトリックス検査も有効
　注意
　―注意の集中や維持に関する検査は、多数の刺激の中に埋め込まれた文字や図形を見つけ出す課題が中心
　　e.g., 連続遂行テスト(Continuous Performance Test: CPT)、数唱etc…
　行動の発動や調整
　1. ウィスコンシン・カードソーティングテスト(発想や視点の転換)
　　―3元(色、形、個数)4価のカードを、各次元に従って並べる課題
　2. ストループテスト(ステレオタイプな行動や認知傾向の抑制)
　　―文字という妨害刺激に対抗して塗られた色名を答える
　3. リーセンシーテスト(記憶における時系列化、複数情報の組織化)
　　―継時的に提示した項目中、任意の2項目の時間的前後関係を問う
　認知障害
　―視覚失認、視空間性知覚障害、聴覚失認、触認知障害などの症状に対応して非計量的な検査が存在
　　e.g., 図形の模写、自発描画、線分の二等分etc…
　記憶障害
　1. WMS(ウェクスラー記憶尺度)
　　―論理的記憶や数唱などの下位検査があり、記憶指数(MQ)が計算される
　2. MMS記憶検査
　　―文字を記憶させることで、短期記憶と長期記憶の複合した成績が得られる
　3. 脳記銘力検査(三宅式)
　　―語の対連合学習をさせることで、短期記憶と長期記憶の複合した成績が得られる
　4. ベントン視覚記銘検査
　　―即時再生、5秒後再生、模写、15秒後再生の4種類
　　　―視覚性注意、視覚性運動反応、視覚認知、視空間認知、視覚記銘、視覚構成力、視覚性言語概念が関連
　5. レイのテスト
　　―複雑な図形の再生
　　　―視覚性注意、視覚性運動反応、視覚認知、視空間認知、視覚記銘、視覚構成力、視覚性言語概念が関連
　6. リバーミード行動学的記憶検査(RBMT)
　　―日常の記憶機能のアセスメントが目的
　言語障害(失語症)
　1. SLTA(標準失語症検査)
　　―聴く、話す、読む、書く、計算の5モダリティに分類される26項目の正答率を算出
　2. 日本語版WAB失語症検査
　　―自発語、話し言葉の理解、復唱、呼称、読み、書字、行為、構成の8つの下位検査で構成
　　　―全失語、ブローカ失語、ウェルニッケ失語、健忘失語が分類される
　3. その他の市販検査
　　―ITPA(イリノイ言語学習能力検査)、CADL実用コミュニケーション能力検査
　4. トークンテスト
　　―形(2種類)、大きさ(2種類)、色(5色)からなる20種類の色板を用いて、口頭命令に従って反応させるもの
　　　―失語症の有無の判別には有効だが、複数の側面が影響していると考えられる
　行為の障害
　―肢節運動失行、観念運動失行、観念失行、着衣失行、構成失行などに対して否定量的な検査が多くある
　　―その一部をまとめたものが、WAB失語症検査の下位検査と標準高次動作性検査
引用文献: 、臨床心理学キーワード (有斐閣双書―KEYWORD SERIES)

性格検査
　―さまざまな種類の検査を用いて症状の背景となるクライエントの性格を知る
　　―クライエントの症状のさらなる理解、治療関係の促進、クライエント精神的成長過程や治療過程の検討に用いる
　性格検査の種類
　―質問紙法、投影法、作業検査法などの種類がある
　―検査の実施方法によって「集団検査」と「個別検査」に分類
　―検査手段に言語を用いるかどうかによって「言語式検査」と「非言語式検査」に分類
　―何を指標とするかによる分類
　　1. 一定の作業量にかかる時間を指標とする「測度検査」
　　2. 一定時間内での作業量を指標とする「力量検査」
　　3. 測定しようとする全般的傾向を把握するための「外観検査」
　　4. その特性の構造や変動などそ診断するための「診断検査」
　　―各々は把握できる性格の側面やレベルが異なっており、検査目的にあった検査を実施する必要がある
　質問紙法(自己評定式)
　―性格特性に関する質問項目をあらかじめ決めておき「はい、いいえ、どちらでもない」等で回答させる方法
　　e.g., Y-G(矢田部=ギルフォード)性格検査、MMPI(ミネソタ多面人格目録)、MPI(モーズレイ性格検査)、
　　　　　TEG(東大式エゴグラム)、EPPS性格検査、SPI(下田式性格検査)、精研式パーソナリティインベントリ
　　　　　16PF人格検査、CPI(カリフォルニア人格検査)、SG式向性検査etc……
　―質問紙法の長所
　　1. 施行方法がマニュアル化されている
　　2. 容易に実施できる
　　3. 短時間で集団にも実施できる
　　4. 評価に主観が入らない
　―質問紙法の短所
　　1. 被検者の言語能力や自己評価能力に依存する
　　2. 質問項目以外の事を知りえない
　　3. 意識のレベルしか知りえない
　　4. 回答の意味(意図)を確認できない
　　5. 虚偽または意識的に操作された回答のチェックが困難
　質問紙法(他者評定式)
　―被検者の身近な他者によって評定が行われる質問紙性格検査
　　―何らかの理由で質問紙に記入できなかったり、あるいは発達段階や障害によって自己評価できない方に
　　e.g., PIH心身障害児童生徒性格検査、幼児・自動性格診断検査
　　　―各検査は、評定者の回答が印象に左右されないように、項目を具体的行動で表現するよう工夫される
　投影法
　―曖昧で多義的な刺激を提示し、その反応を分析する方法
　　―非構造的な刺激を知覚する際にその人の内にある固有の感情や欲求、情緒が投影されるという前提
　　主題統覚検査(TAT: Thematic Apperception Test)H.Murray
　　　―被検者に提示された図版に対して作られる物語から性格を理解する検査
　　　―児童版はCAT（Children's Apperception Test）
　　　―日本文化に即した版が開発されているが、その解釈については定式化された方法が定着していない
　　P-Fスタディ(絵画欲求不満テスト)S.Rosenzweig
　　　―欲求不満場面に対するアグレッション、あるいは一般的主張性の反応様式を分析
　　　　―自我防衛水準での被検者の反応の背景に潜む人格の独自性を明らかにできる
　　文章完成法検査(SCT: Sentence Completion Test)H.Ebbinghaus
　　　―「私の母は…」のように未完成の文章を提示し、文章に続けさせ完成させる課題
　　　　―解釈は全体を眺め、問題点を把握する直感的洞察に重点をおくものと、数量的処理を行うものがある
　　ソンディテスト(実験衝動診断法、衝動検査)
　　　―顔写真の刺激図版に対する好悪の評定を被検者に行わせることによって質的・量的分析が行われる
　―鉛筆やクレヨンなどで髪の上に何かを表現させる方法は、「描画法」としてまとめることがある 　　―描画法
　　バウムテスト(樹木画テスト)
　　　―一本の実のなる木を自由に描かせ、その反応を形態的、空間的、運筆的、全体的特徴から整理する検査
　　HTP(House-Tree-Person)テスト(家・樹木・人テスト)
　　　―家、一本の木、人物を描かせ、その反応を解釈する検査
　　DAP(Draw-a-Person)テスト(人物画テスト)
　　　―「1人の人間の頭の先から足先まで全身を描きなさい」という教示が与えられ、検査が行われる
　　―描画法の評価の共通観点
　　　―描画全体の印象、形式分析(配置、筆圧、描線)、内容分析(部分的特徴の解釈)等から解釈
　　―投影法の長所
　　　1. 個人の全体的・力動的な性格の把握が可能
　　　2. 意識レベルにとどまらず無意識レベルを知ることが可能
　　　3. 反応が一定方向に故意に歪められる恐れが少ない
　　―投影法の短所
　　　1. 結果の処理や解釈が難しく検査者の専門的な訓練と経験、深い人間洞察力が要求される
　　　2. 検査の多くは個人法のために実施に時間と労力がかかる
　作業検査法
　―性格特性が現れやすい簡単な作業検査課題を与えて、その作業結果から性格を評価する方法
　　―作業を行う際の緊張、興奮、慣れ、練習効果、疲労、混乱、欲求不満などが性格を反映するという前提
　　内田クレペリン精神作業検査
　　　―2つの1桁数字の連続加算を被検者に行わせ、その作業量の水準と作業曲線の形状の評価を行う検査
　　―作業検査法の長所
　　　1. 実施が容易であり適用範囲が広い
　　　2. 反応が客観的
　　　3. 言語を媒介としない
　　　4. 被検者の意図的操作が入りにくい
　　　　⇒幅広い層に実施が可能
　　―作業検査法の短所
　　　1. 性格の限られた面しか評価できない
　　　2. 被検者に苦痛感を与える
　　　3. 作業課題に対する意欲の有無が検査の結果に影響する
　臨床心理学における性格検査実施の注意点
　　―実施・利用の簡便性や課した労力に応じた利益や情報が得られるかという観点も尺度選択の際に重要
　　　―臨床心理学では、主にクライエントに対して検査を実施するため
　　―検査が標準化された時期にも注意を払う必要
　　　―性格の評価的側面は現実社会からの影響を受けるため

知能を評価する
　―知能検査は知的な操作能力、認知的な情報処理能力に焦点をあてたアセスメント用具
　　―測られる能力や知能の概念は検査ごとに微妙に異なる
　　―学習などの基礎的な潜在能力、課題解決のための基本能力を測るという意味で、各検査の能力感は一致
　―知能検査は一対一で行う個別式と、多数に対して同時に実施する集団式の検査がある
　　個別式検査
　　　―全体のIQよりも、個人の知能の特徴を明確にして、個別に対応していくための方法を探るためのもの
　　　　―必要に応じて数種類の知能検査や認知機能を測る検査を組み合わせる(テストバッテリー)
　　　　　→個別の指導プログラムを作成していくために詳細な情報を得られる
　　　　e.g., ビネー式検査、ウェクスラー式検査、K-ABC心理教育アセスメントバッテリー、ITPAetc……
　　集団式知能検査
　　　―知能の精査を行う必要がある子どもを特定(スクリーニング)することが目的
　　　　e.g., 教研式学年別知能検査、様々な集団式の標準知能検査etc……
　知能検査の実際
　　ビネー式検査
　　　―知能の発達水準や発達状態を明らかにし、同時に知的障害の診断や指導に役立つ情報を得ることが目的
　　　　―2歳から成人までが対象
　　　　―言語、動作、記憶、数量、知覚、推理、構成などの様々な内容からなる
　　ウェクスラー式検査
　　　―全体的な知能水準だけでなく、知能の個人内差を、主に言語性知能と動作性知能から診断
　　　　―10を超える下位検査から構成
　　　　　動作性検査
　　　　　　―絵画完成、符号、絵画配列、積木模様、組合せ、記号探し(補助問題)、迷路(補助問題)
　　　　　言語性検査
　　　　　　―知識、類似、算数、単語、理解、数唱(補助問題)
　　　　―児童用(5〜16歳程度)としてWISC、これより年齢の低い幼児用としてWPPSI、成人用としてWAISがある
　　ITPAやK-ABC
　　　―厳密には知能検査ではなく、認知能力検査
　　　―どの領域を苦手とし、どの領域が優れているのかという子どもの能力の「個人内差」を見る事が主眼
　　　　―知的な発達に部分的な偏りを持つ子どもたちのアセスメントに利用されている
　　　ITPA
　　　　―聴覚音声回路と視覚運動回路という2系統の入出力過程を中心に能力の分析
　　　K-ABC
　　　　―問題解決過程で同時処理と継時処理という2種類の情報処理面から認知能力の特徴を明らかにする

発達を評価する
　―発達を評価するために、これまで様々な発達検査が開発されてきた
　―もともと発達検査は、ビネー式知能検査を乳幼児に適用できるよう改良され、発展してきたもの
　　―知能検査は一般に3歳以前の測定ができず、それ以前の知能を測るのが精神発達検査の主目的と理解される
　―本来の発達検査は、言語面や知的能力だけでなく、運動能力や社会性の発達まで総合的に把握する検査
　　―乳幼児の発達では、相互の能力は互いが関連しながら発達するため
　―知能年齢や知能指数に対応する発達年齢(DA)、発達指数(DQ)も求められる
　　発達年齢
　　　―対象児の発達の相当年齢を示す
　　　―発達検査の項目は、該当年齢の子どもが、50〜75％が解決できる課題からなる
　　　　―総合得点をもとに標準化、発達年齢を算出
　　発達指数
　　　―(発達年齢÷生活年齢)×100で算出
　　　　―発達指数100は、生活年齢相当であることを示す
　　　―発達検査は多岐にわたる能力を測定するもの
　　　　―個々の領域についての発達指数を測定し、その上で全体として発達指数を算出することが一般的
　発達検査の種類
　　―検査方法の多くは、育児に関わる人から聴取する質問紙方式のものが多い
　　―子どもに特定の課題を与え、その行動を観察する方法をとる検査方式のものがある
　　　―これらで不十分な場合は、特定の能力について、その発達を測定しようとする検査がある
　　　　e.g., 言語能力や視知覚能力、記憶力、社会生活能力などの特定領域を探る検査
　発達検査の実際
　　―発達検査は心身の発達について、個人の発達が早いか遅いかを判断するためのもの
　　　―発達上の問題を抱えることが予測される子どもを見出すスクリーニング、早期の治療教育的な介入のため
　　―発達検査は後の知能検査によるIQの予測性をあまり持っていないと言われる
　　　―正常児と区別されるような知的な遅れや社会性の欠如を早期に発見する一助にはなるが、絶対視できない
　　　―発達診断の際には、身体面・心理面の両面にわたっての発達をアセスメントする必要

様々な症状や病理を評価する
　―臨床心理学において、クライエントの症状や病理を評価することは最も重要なプロセスの1つ
　　―評価の結果は、治療方針の立案や治療効果の査定の重要な資料
　　―症状や病理の評価を目的とした検査は臨床現場を中心に多くの尺度が開発されている
　　　e.g., 質問紙法、投影法、作業検査法、面接法
　全般的な症状や病理の把握
　―ロールシャッハテスト
　　―左右対称のインクの染みから出来た曖昧な絵の10枚の図版を被検者に提示し、自由反応、質疑の結果を解釈
　　―反応態度要因、反応領域、反応決定因、反応内容、形態水準を記号化し、形式、内容、系列分析を行う
　　―クライエントの様々な病理を査定するのに有用な検査(投影法)
　―RSスケール(抑圧感作尺度)
　　―不安喚起事態におかれた時に見られる防衛的行動スタイルの個人差を測定する質問紙法の検査
　―EPSI(エリクソン心理社会的段階目録検査)
　　―E.H.エリクソンの自我の発達段階図式に対応した課題の達成感覚をどの程度意識しているかを測定(質問紙)
　疾患や病理に結び付く行動傾向の把握
　―検査には疾患に結び付く行動傾向を整理し、クライエントの疾患や病理を行動傾向として予測するものもある
　　―摂食障害傾向を測定する質問紙としてEAT(Eating Attitude Test)、EDI(Eating Disorder Inventory)
　　―冠動脈心疾患の危険因子であるタイプA行動パターンを測定する質問紙としてJAS(Jenkins Activity Survey)
　　　―日本の文化的背景を考慮したJCBS(Japanese Coronary-Prone Behavior Pattern Scale)も
　　―感情を言語化したり他人に伝えられない傾向「アレキシサイミア傾向」を測定する質問紙としてSSPS、TAS
　精神症状の把握
　―クライエントの精神症状は、治療者同士が質的・量的な評価を一致させることは難しい
　―精神症状を把握する客観的な検査が必要
　　―精神症状全般を評価する検査
　　　→BPRS(簡易精神医学的評価尺度)、CPRS(包括的精神病理学評価尺度)etc…
　　―統合失調症を対象とした検査　→　SANS(陰性症状評価尺度)、SRS(症状評価尺度)、WBRS(病棟行動評価尺度)
　　―自閉症児の発達的障害の程度を診断　→　CLAC(Check List for Autistic Child)
　　―障害が生活に必要とされる動作をどの程度阻害しているのかを査定　→　ADL(日常生活動作テスト)
　　―子供の全体的な問題行動を査定　→　CBCL(Child Behavior Check List)
　　―精神障害や心理的不適応の診断を行う　→　TPI(東大総合性格検査)
　ストレス症状の把握
　―様々な自覚的ストレス症状を包括的に測定する検査
　　e.g., PSRS(Psychological Stress Response Scale)、SRS-18(Stress Response Scale-18)、DSI(Daily Stress Inventry)
　　―クライエントのストレス症状を全般的に評価する際に有用