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臨床心理学とは
臨床心理学(Clinical Psychology)の定義
臨床心理学の諸定義
辞書的定義
―主として心理・行動面の障害の治療・援助、およびこれらの障害の予防、さらに人々の心理・行動面のより健全な向上を 図ることを目指す心理学の一分野
倉光(1995)の定義
―「心の病」や「心の傷」とその癒しに関する実践的学問 ―「病」や「傷」とその治療に関連する領域・また、学問分野で実践やフィールドワークにあたる領域を「臨床」と呼ぶため ―心の病とは、通常の環境における異常な心理的反応のこと ―一般的に、マイナスの方向に偏移した心理的反応 e.g., 非常な恐怖のために飛行機に乗れない、帰宅すると何時間も手を洗わなければ気が済まないetc…… ―心の傷とは、困難な環境に置かれた時に多くの人が体験する「正常な」心理的苦痛 ―心理的ショックやストレス、葛藤や欲求不満、心理的苦痛やそれに伴う苦悩etc…… ―サイコセラピスト(Psychotherapist)として「心の傷」とその癒しについて学ぶ事も臨床心理学の重要な課題
「心の病」や「心の傷」をどう扱うか
―「心」そのものはモノのように測定したり、同定したりすることが本質的に不可能 ―実際は、心的状態を反映していると思われる症状や問題行動、訴えや表現を心の病や心の傷と等価に見る必要 ―目に見える反応や行動から心の病や心の傷の程度、それがどれくらい癒されてきたかを推定する
福屋(2002)の定義
―個人または集団に生じた悩みと困難といった問題行動を心理学や関連諸科学の知識と技術によって健康な方向へと 援助する専門的な学
米国心理学会の定義
―科学、理論、実践を統合して、人間行動の適応調整や人格的成長を促進し、さらには不適応、障害、苦悩の成り立ちを研究し、 問題を予測し、そして問題を軽減、解消することを目指す学問 ―単に病理の理解や解消を目指すだけでなく、適応や成長といった人々のより肯定的な側面にも関心を持つもの
精神医学との違いと共同
―精神医学の対象は何らかの症状や障害を抱えた人 ―役割は、病理を理解して疾病の診断をし、その病理の軽減あるいは治療は薬物両方を中心に行う ―客観的な疾病(Disease)としての病理を扱う ―臨床心理学の対象は、そうした症状や障害を抱えた人の病理経験としての病(Illness)を扱う ―病理経験についての主観的世界を共感的に理解し、患者が自分自身の病を受け入れられるようになることを援助 →両者は相反するものではなく、それぞれの専門性を活かした共同が必要となる
引用文献:
現代心理学入門〈5〉臨床心理学
、
よくわかる心理学 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)
、
心理学辞典
、
臨床心理学とは何だろうか―基本を学び、考える
KEWORD:
臨床心理学の定義
心と体
心の病と体の病
―心の病と体の病の関係は、極めて複雑 ―体の病は発見されないが、心の病が推測されるケースもあり、一方で体の病が見出されても心の病は生じないケースもある ―体の病から心の病が引き起こされる場合もあり、心の病から体の病が引き起こされる場合もある ―体の病から心の病に影響を与える要因は多くある ―ガンのような大きな病気にかかることは、非常に大きな精神的負担を生じさせる ―再発への不安などのストレスのために、適応障害や抑うつ状態などを呈しやすいetc…… ―心理的原因によって身体的症状が生じる事に注目した初めての研究はシャルコーやジャネらのヒステリー研究 ―その後、多くの病気に関して心理的要因が影響する事が分かっている 1. 配偶者の死後、残された片方の配偶者のリンパ球の反応性が2〜8週間後に低下する 2. 乳がんに罹患した妻を持つ夫のリンパ球幼若化能が低下する 3. 試験ストレスによってナチュラルキラー細胞やインターフェロン産生能が低下する 4. ストレスの自覚が風邪の発症率と最も関連している 5. タイプC行動パターンの人はガンの再発リスクが高いetc…… ―臨床場面では、セラピストと医師がチームを組んで取り組むケースも少なくない
心と体(脳)の因果関係
―心的現象は一般に生物の神経系の活動に伴って発生すると考えられている ―しかし、神経細胞における物質的現象と心的現象との関係は、単純ではない ―両者の因果関係は非常に微妙 ―人がある状況において、複数の選択肢の中の1つを選ぶという過程は、「物質的には」自動的に決定されると捉えること もできるし、「心理的には」本人が自由意志によって決定していると捉えることもできる ―脳の物質的活動と心的現象との関係を単純に固定化して捉えないということは、明らかな脳障害を伴う個体に対して 心理的アプローチを行う上で非常に重要 e.g., 大脳が病気や外傷によって相当深刻な器質的異常を被った場合でも、近親者の声や姿に反応する ―このような仮定は臨床心理学を学ぶ上でどうしても必要になるわけではないが、実際の臨床場面では、重要
引用文献:
新・心理学の基礎知識 (有斐閣ブックス)
、
現代心理学入門〈5〉臨床心理学
KEWORD:
心の病と体の病、心と体の因果関係
心の構造
心の世界の構造は水平面における3領域と垂直軸における3層によって、捉えられる
@心の3領域
1. 感覚・知覚
―通常、感覚はあるまとまり(ゲシュタルト)をもったものとして知覚される ―感覚や知覚によって、われわれは外界ないし自己の身体についてのリアルタイムな情報を得ることが出来る ―この領域での「心の病」には、たとえば「幻覚」がある
2. イメージ・思考
―感覚や知覚とは対照的に、現実の時空間から自由な領域 ―視点を変えてみた場合の知覚についての推測、現実では起こりえない状態についての空想もここに含まれる ―この領域での「心の病」には、たとえば「妄想」がある
3. 感情・欲求・動機づけ
―感情、気分、動因、欲求、動機づけなどの「感じ」 ―ほとんどつねに、感覚やイメージと連動して生起する ―この領域での「心の病」には、たとえば「うつ病」がある ―2と3の領域が結合し、未来のイメージの実現が強く動機づけられた時に起こる感じを「意志」と呼ぶことができる ―人は意志によって行動をコントロールするが、「ヒステリー性の運動マヒ」などの心の病では、コントロール能力が失われる ―3領域における心的現象は、ほとんどつねに発生しており、内省によって、ある程度、相互に識別できる ―3領域に生じる現象間に「感覚→思考→感情」といった一定の時間的継起を考慮することも可能 ―心の病とは、環境とそのうちに置かれた個体の行動との関係の異常ないし未熟 ―心理療法とは、セラピストという新たな環境を用意することによって、両者の関係をより正常化ないし発達させようとする試み
引用文献:
現代心理学入門〈5〉臨床心理学
A心の三層
心の世界は、3つの平面的領域が、相互に区別されにくい部分を持ちながら広がり、それが垂直層に沿って形成していると捉えられる ―いくつかの心の病は、3つの構造が上手く形成できていない状態として捉えることもできる
1. 表層(覚醒者の視座)
―第一の層は、意識の層 ―覚醒時には、通常、この視座を中心として、感覚や知覚、思考やイメージ、感情や動機づけが現れる ―覚醒時の知覚は外界の物理的性質を正確に反映しているわけではない ―覚醒時に意識される感覚や知覚、感情や欲求、思考やイメージのかなりの部分は言語化することができる ―通常の意識は言語と密接なつながりがある ―いくつかの心の病では、この覚醒者の視座が失われる
2. 深層(夢見者の視座)
―第二の層は、無意識の層であり、潜在意識の層 ―催眠に誘導されたり、ある種の薬物を搾取したり、過呼吸を続けたりするとほとんど意識されなかった世界が現れることがある ―この心的状態の代表的なものとして夢を挙げることができる ―夢見者の知覚は、その大部分が覚醒者からすると無意識に存在していたイメージ e.g., 夢は覚醒者の過去の記憶や未来の予想がイメージ化されたもの、現在の欲求や感情がイメージ化されたものetc… ―夢は「心の深層」を理解するには有益なデータになりうる
3. 超越的層(たましいの視座)
―第三の層は、「たましい」の視座が存在すると仮定される層 ―脳が位置する時空間を超越した心的現象 ―いかなる科学をもってしても「あるのか無いのか分からない」層 ―この視座に立つ経験をしたと言う人でさえ、それは通常、一生の間のごくわずかの時間に限られる e.g., 瀕死の状態に陥った人が、その時点での自分の姿や周囲の状態を「身体から離れた視座」から見て、描写することetc… ―たましいが存在するかどうかは分からないが、現象として、体験として語る人は少なくない
引用文献:
現代心理学入門〈5〉臨床心理学
KEWORD:
心の3領域(知覚・思考・感情)、心の3層(表層・深層・超越的層)
臨床心理学の研究法の独自性
伝統的心理学との違いから
対象者への介入
―伝統的心理学は、実験や調査を主たる方法とし、研究対象に影響を与えるような現実生活への介入を避けるように場を設定 ―臨床心理学は、対象の現実生活に直接かかわり、介入していく実践活動が重要になる ―対象の理解(アセスメント)とそれに基づく介入の循環過程から成り立つ ―アセスメントに基づいた介入をし、その結果によってアセスメントを修正し、さらに介入に活かすという作業の繰り返し
引用文献:
よくわかる心理学 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)
仮説検証的研究と事例研究
―仮説検証的研究は、普遍的な法則を見つけることが目的で、客観性が重視される ―いつでもだれでも、同じ方法を行えば同じ結果を得られることが、普遍的法則の条件 ―臨床心理の実践活動は客観的には成り得ないうえ、いつも同じ方法で関わるわけにはいかない ―不変的法則を得ることを目的とした科学研究は、臨床場面にそぐわない
臨床的記述研究(下山, 2001)
―臨床場面でのカウンセラーとクライアントとの関係の場においてデータ収集を行うことに臨床心理学研究の独自性がある ―臨床場面で生じていることを記述し、臨床場面を理解するためのモデルを構成する事が大きな目的 ―普遍的法則の発見が第一目的ではない e.g., カウンセリングの事例を複数記述して、その共通要素を探り、カウンセリングのモデルを作成する
引用文献:
よくわかる心理学 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)
臨床心理学研究の循環性(下山, 2001)
―臨床心理学の研究は「臨床的記述研究」に加え、「心理臨床活動の評価研究」と「因果関係を探る科学的研究」がある
心理臨床活動の評価研究
―心理臨床の実践活動を評価する研究 ―「臨床的記述研究」で得られたモデルを検討する行為 ―カウンセリングのモデルの本質的特徴を示すカウンセリングを行う群と、カウンセリングを行わない群を作り、効果を比較する ―実践の場を評価対象として行われる「実践に関する研究」 ―臨床的記述研究でモデルを構成し、心理臨床活動の評価研究でモデルを検討する →実践の場は研究の場にもなり、研究対象にもなる
因果関係を探る科学的研究
―人間行動に関する基礎研究であり、臨床心理の実践活動を行う際の基礎資料となり、実践活動を支える研究 ―臨床心理学の実践の背後には、心理学一般の基礎知識が無ければいけない
引用文献:
よくわかる心理学 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)
実践と理論との絡み合いから
−臨床心理学は、人間とその心の関わる様々な理論と、心理療法に関わる様々な理論との集合 ―臨床心理学の理論は、基本的に以下の4つの分野から成り立つ
@人が問題にしている事を理解する理論。また、その人を取り巻く、あるいは形作ってきた重要な関係性を理解する理論
―援助にあたっての「見立て」の基盤になる理論 ―心理学の諸領域に様々な理論があるため、どの立場を強調するかは研究者によって異なる ―個人として心の内面や個の発達の道程に注目するだけでなく、グループとして捉える必要 ⇒ グループアプローチやデイケア ―従来の科学の方法論だけでは不十分であり、関係性の文脈や社会・文化との関係の中で人の心を捉える視点⇒ ナラティブ
A心理療法における援助の過程、および、援助者の機能・技能・あり方に関する理論
―心理療法の中核。援助を、どのようにしたらよいのか、その過程で何が起こるのかを取り扱う理論 ―援助の理論はいずれも、どうあるのが人にとって望ましいかについての目標や理念を含んでいる(Dryden & Mitton, 1999) 1. 問題の原因を心の中に見出せるという考え ―精神力動的心理療法は「すべての行動には特定の原因があり、その原因はその人の無意識の中に探し出せる」と考える ―目標は「無意識の考えや感情を意識にのぼらせて気づかせることは、その人が現在の問題を意味づけるのに役立つ」 ―問題の原因を理解することによって、現在の葛藤を解決することができる 2. 自己実現傾向の阻害によって問題が生じるという考え ―パーソン・センタード・アプローチでは「心理的な問題は主として実現化傾向に対する阻害によって生じる」と考える ―どの人にも潜在している自己実現傾向を発揮できることが望ましいこと ―それを可能にするのが、セラピストが作り出す風土であり、共感的理解と、無条件の肯定的配慮と自己一致・ジェニュインネス 3. 体験を意味づける信念によって問題が生じるという考え ―認知行動療法では、「私たちをパニックに陥れているのは、私たち自身の経験している事に対する不合理な信念」と考える ―その信念の変化を目指す ―セラピー終結後も永続して自己カウンセリングが可能になるような心理教育的な側面もある 4. 個人を含む全体の関係性への理解から解決が生まれるという考え ―家族療法では、家族内の関係性の構造や歴史、文化、コミュニケーションの在り方に注目 ―原因―結果が直結するような発想を脱する考え方
B @とAを探求するための研究の方法論
―心理療法は、援助者が働きかけ、それを修正していく繰り返し ―援助を実践する途中で、あるいは終結後に何が起こったのか、何が有効な介入であったのかを同定していく作業⇒ 事例研究 ―複数の事例について分析して効果を評価する⇒ メタ分析 ―何らかの介入をした群としない群とを比較するデザイン⇒ 効果研究 ―心理療法におけるセラピストの言動とクライアントの変容のプロセスを検討する⇒ プロセス研究
C実践と研究に関する倫理の理論
―心理臨床実践と研究にあたって倫理的判断は不可欠 ―必要な情報を提供して判断・自由意志での選択・納得をしてもらった上で同意をえること ―害を与えない、訓練や研修を受けた経験から自分にできることだけをする、相手を利己的に利用しない ―セラピスト‐クライアント関係以外の関係を結ぶのを控える、プライバシーの侵害を避けて個人情報を守秘する ―倫理に関しては正解と言えないようなグレーゾーンが大きいため、判断に迷う点も多い ―倫理的判断は臨床心理学の理論として考究される必要がある
引用文献:
臨床心理学とは何だろうか―基本を学び、考える
KEWORD:
仮説検証的研究と事例研究、臨床的記述研究、倫理的判断、実践と研究
臨床心理学における事例研究
事例研究(Case Strudy)法
―特定の個人や集団を1つのサンプルとして取り上げ、サンプルの詳細な資料を収集して、特徴や変化していくプロセスについて分析する ―どういうクライアントに、どういうカウンセラーが、どのようなことをして、どうなったのかについて注意深く検討することが中心
事例研究の意義(小林, 2000)
1. 事例の特殊性、性質について知ること ―事例研究には、事例独自の症状や現象、あるいは変化過程の特徴について知ることを目的とする場合がある ―事例研究の結果、そこで得られた知見が周知されることで、同業の者に情報を提供することが可能になる ―特殊事例を検討することを通して、それまで支配的であった理論や、パラダイムに見直しや修正を図ろうとすることもある 2. 特定の治療技法の効果を知ること ―特定の症状や現象に対して、一定の対応や治療技法を導入した結果について詳細に記載するもの ―治療技法の効果測定であり、特定の治療技法がどのような症状や現象に、どのように効果的に働くのかの影響要因を明らかにする ―単一事例でも、用いる技法を時期によって変化させたり、それまで行っていた技法を行わないなどの方法を取る場合がある ―度の心理技法が事例の変化にどのような影響を与えているのかを明確に示すことが可能 ―1つの事例に絞って、条件や処理の効果を検討する方が望ましいとする行動主義の伝統的考え方によるもの 3. 特定の事例から一般的、普遍的な法則の可能性があることを示すこと ―母集団を代表する特徴的な事例を少数取り上げ、事例に密着した緻密な分析を行う ―普遍的にあてはまる法則性や傾向性を探索しようとする仮説発想法的研究 4. 平均値に埋没することなく、特定の事例に焦点をあてる事 ―ある臨床グループの平均値に埋没することなく、特定の事例に焦点をあてることで、査定や介入方法を検討できる 5. 現在進行形の事例について治療方針を吟味すること ―事例研究と言う場合、現在進行形の事例について、専門家同士が会議を行う場合を指すことがある⇒「事例会議」 事例会議の意義 a. 話題提供される事例の理解を深め、今後のカウンセリングや治療の技法や対応に関する指針を得るために行う b. 事例担当者自身が相談事例の診断や事例理解を深め、相談技量を向上させる c. 参加者の事例理解の幅を広げたり、特定の治療技法について学ぶ機会ともなる
事例研究の有用性(小林, 2000)
―科学的な妥当性を持つ分析を行うことで、有用な示唆を与えることができる e.g., 対象をその生活の中で全体として把握し、全体状況の中で時系列的に理解する 個人の複雑な行動間の関連についての構造を明らかにするなど ―特定の現象を切り出す法則定立的研究と補完的に用いることで、科学的にも意味ある研究法として位置づけられる
事例研究の限界
1. 全ての特徴、あるいは変数が同一の事例はなかなか存在しない ―単一事例からどこまで普遍化できるか不明 2. 一回性のために再現の可能性が低い、要因の系統的操作が行い難い、効果を持った要因を特定化しづらい ―多くの変数が複雑に影響しあっているために、特に複合的要因が変化する介入を長期に実施する場合に生起する ―療法の参加者が母集団を正確に反映しているとは限らない 3. 資料を臨床的判断を中心として解釈する場合には、個人の判断に負うところが大きい ―客観性に疑問が生じる ―カウンセラーの自己正当化バイアスが含まれる可能性 ―1、2、3は群比較研究で解決できるので、事例研究は群比較研究と補完し合うように用いることが望ましい
引用文献:
臨床心理学キーワード (有斐閣双書―KEYWORD SERIES)
、
新・心理学の基礎知識 (有斐閣ブックス)
、
現代心理学入門〈5〉臨床心理学
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