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群集と集合
群集の分類と集団との関係
群集(Crowd)の性質
群集の分類
―ブルーマーによる4分類(Blumer, 1951) 1. 日常的群集: 街頭に集う人々 2. 習慣的群集: スポーツの試合や劇場の観客 3. 活動的群集: 革命、リンチなどに参加する攻撃的な人々 4. 表出的群集: 祭りや踊りに興じる人々 ―ブラウンの2分類と下位カテゴリー(Brown, 1954) 1. おとなしい聴衆 2. 活動的なモッブ(Mob) ―モッブは攻撃的モッブ、逃走的モッブ、利得的モッブ、表出的モッブの4種に分かれる
引用文献:
社会心理学 (キーワードコレクション)
古典的な群集理論の系譜
―群集とは危険で破壊的な暴徒であるか、なぜ容易にそのような存在に変わりうるのかという認識 ―群集が等質的な行動を取るメカニズムを説明する理論の登場
1. 感染説(Le Bon, 1895)
―群集は、お互いの感情や思考に容易に感染し、結果的に等質化していくとする説 ―匿名性による責任感の欠如、感情的になりやすく動揺・興奮しやすい、暗示にかかりやすい特性を想定 ―類似の説にタルドの模倣説がある(Tarde, 1901)
2. 収斂説(Allport, 1924)
―等質的な人々が集まり、その類似した特性が強化され一つの方向に収斂されることで、群集行動が表出 ―感染や模倣の結果として群集が等質になるとした感染説とは逆のプロセス ―感情や思考の感染が否定されるわけではなく、等質的な人々では感染が起こりやすいと想定 ―感染説と収斂説は背反的なものではなく、相補的な説
3. 創発規範(Emergency Norm)説(Turner & Killian, 1957)
―群集行動が等質性を帯びるのは、個々人がその群衆内に生起した新しい規範に同調するため ―匿名性による群集の異常性、隠れた力の存在の仮定を一切おかない説 ―集団行動の延長線上に群集行動を捉えた →群集行動と他の集団行動の間の連続性を強調する事で、伝統的な群集理論を打破した
引用文献:
社会心理学 (キーワードコレクション)
集団と群集の連続性
―集団と群集の連続性を視野に増えた研究が増えている ―従来は、比較的永続的な組織体に属するものを集団、一時的で明確な組織を持たない集合体を群集と呼んだ ―本来、集団と群集は明確に区別できるものではない
マートンの区別(Marton, 1957)
―集団ではないが、その「準備状態」にあるものとが存在すると指摘 集団とは ―確率されたパターンに従って相互作用する人々であり、自分自身をこうした集団の成員として規定し、 他者からもその集団に所属していると規定される、多数の人々のこと 集合体とは ―共通の価値を共有することによって一種の連帯感を抱き、期待される役割を担うための道徳的義務感 を身に着けた、集団を構成する準備状態にある人々のこと →すべての集団はもちろん集合体であるが、成員間の相互作用の基準を欠く集合体は集団ではない
ブラウンの分類(Brown, 1954)
―人々の集まりを、大きさ・集会性・成極性・同一視の4次元によって分類 1. 大きさ: 集まりの大きさ 2. 集会性: 人々の物理的接近の程度 3. 成極性: 特定の対象に対して興味や関心が集中している状態 4. 同一視: 個人がその集合体に自己を重ね合わせる程度 ―群集は一時的、不定期な地盤の上で集会し、成極された集合体で、一時的な同一視しか含まない
社会的アイデンティティー(Social Identity)理論の立場(Hogg, 1988)
―群集は集団の初歩の形 ―群集の行動の同質性は、成員が共通した社会的アイデンティティーに基づいて行動した結果 ―人々は「没個性化」しているのではなく、群集成員としての社会的アイデンティティーを顕現化している →社会的アイデンティティーによって群集全体としての統制が果たされている ―社会的なレベルでの自己統制を考慮しないとして、古典的な没個性化理論を批判
引用文献:
、
社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
、
社会心理学 (キーワードコレクション)
KEWORD:
群集、集団、感染説、収斂説、創発規範説、モッブ、社会的アイデンティティー理論
緊急時の群集の集合行動
緊急時の集合行動に対する社会的イメージ
―群集は単なる人の集まりであり、各人の役割もない ―組織性がなく、匿名性ゆえに理性が低下しやすい ―異常な雰囲気に巻き込まれると、混乱と無秩序が重なりあって不足の事故が発生する ―群集はパニックを引き起こしやすいというイメージ ―ル・ボン(Le Bon, 1895)をはじめとする古典的な群集心理に対する「群集は危険なものである」という理解 →近年の成果は、群衆が必ずしも非理性的で無秩序とは言えないことを示唆
引用文献:
、
社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
緊急時の集合行動における実際と現代の集合行動論
―パニック(Panic)とは、ヒステリー的信念に基づく集団的逃走(Smelser, 1963) ―ヒステリーには不安と恐怖が含まれる ―一般のイメージと異なり、災害時の群集が恐れを感じることで理性を失い、必ずしもパニックを起こすわけではない ―むしろ、人々は緊急事態においても、限られた認知能力の中で合理的な意思決定を行おうとしている(e.g., 池田, 1986) →サイモンの「限定合理性論」的考え方と一致(Simon, 1947) →ただし、平時以上に情報処理能力や意思決定能力に限界はある
緊急時の情報処理(Information Processing in Emergency Situations)プロセス
―緊急事態に巻き込まれた人は、思考の焦点が狭められる(Quarantelli, 1957) ―ただ逃げる事に思考が集中し、逃走路を選択したり逃走後の見通しを立てることが出来ない ―緊急事態に巻き込まれた人は、情報処理に混乱が生じる(Janis & Mann, 1977) ―ストレスが高まり「過剰警戒」状態となり、情報の評価が不十分になったり多くの選択肢を考慮できない →限定合理性に加え、認知的なバイアスや情動、外界の状況が持つ圧力の影響にも注目する必要(池田, 1986)
引用文献:
社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
緊急時の群集行動とその制御
―緊急時の情報処理には、よく学習され身に着いた行動「スクリプト」に従った行動が出現しやすい(池田, 1986) ―緊急事態だからこそ、普段無意識に行っている行動が、強く全面に出てくる(釘原, 2001) 1. 自分がいつも使っている出入り口や階段に向かう「日常的潜在行動」 2. もと来た道を引き返す「逆戻り行動」 3. 慣れ親しんだ光景に戻りたいという重いから明るい方へ向かう「走光性」 4. 他者に同調してその後を追いかける「先導効果」etc…… ―スクリプトに従った非難行動の例(岡田, 1993) ―スクリプトを利用した群集の避難に関する現場実験(杉万ら, 1983) ―誘導役が出口はあちらですと大声で叫び、出口を指さす「指さし指導法」より、自分のごく身近な人に「自分 についてきてくださいと働きかけ、ともに避難する「吸着指導法」の方が、より多くの避難者がより素早く 避難できた。 ―吸着誘導法の避難プロセスでは、第一段階に誘導者が身近に居たごく少数の避難者に対し、自分についてくる 働きかけ、第二段階では、誘導者に直接働きかけられた避難者およびそれに気づいた数名の避難者が誘導者に 追随、第三段階では、さらに周囲にいた多数の避難者が順次、誘導者を核とする小集団に追随した。 →「先導効果」に基づいた避難誘導の効果性が示唆された
群集事故を誘発する構造的要因
―人は限られた資源に基づき、状況の定義づけを行いながら合理的な対応行動を起こしている ―非理性的な集団などではない ―「パニック」が原因でないとすれば、なぜ大規模な群集自己が生起するのか?
事故時の共通要因
1. 局所的に人が高密度となる場所で発生 e.g., 階段、橋、トンネルなど逃げ場のない閉じた空間、出入口の幅に差がある、流路に傾きや段差がある場合etc… ―脱出路が限定、閉ざされつつあるといった「構造的誘発性(Structural Vonfuvtiveness)」があると生起(Smelser, 1963)
群集密度(Crowd Density)と歩行速度の関係に関する実験(岡田, 1993)
―歩行時の密度が1人/u以下であれば自由な速度で歩くことができるが、1.2人/u以上になると追い越しが困難になり 歩行速度は急激に低下し始める。前方の通路が狭くなっていたり、会談があったりすると、密度はしばしば2人/uを 超えるが、この状態では全身を阻まれた人々が順番待ちの状態になる。密度がおよそ4人/u以上になると群集は止ま ってしまう。 2. プラトーン(隊列)効果(Platoon Effect)Pushkarev & Zupan, 1975 ―歩行者流の密度が一定でなく、高い個所と低い個所が断続的に生じる現象 ―歩行者のみならず、自動車交通にも広くみられる ―望ましい群集密度は「平均値では評価できない」ことを示している ―近年では、統計物理学的なアプローチから集合行動とその制御法を研究する渋滞学と呼ばれる分野も台頭している
引用文献:
社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
群集制御(Crowd Control)の方法
@ハード面の制御
1. 動線を分離する ―方向や属性の異なる群集の交差や接触は避ける 2. 動線を長くする ―群集の塊が大きくなると背後からの圧力が強まって危険 ―群集は細く長い帯状に保てるようにする。イベントの際などは蛇行・遠回りさせる 3. ネックを作らない ―出入口・改札・階段などは歩行速度が低下するので通路と同じ幅ではなく、幅員を広げておく 4. 階段よりスロープを用いる ―特に1,2段の階段は見落としやすく危険 5. 動線を明確に示す ―係員の誘導・ロープによる区分通行・床や壁のマークによる行列位置の明示
Aソフト面の制御
1. 群集を常に動かす ―止まった群集は感情的に高揚しやすい。ゆっくり動かす ―流れの中で停止している人や群れを成している人は排除する 2. 豊富な情報提供 ―係員・群集にはこまめに状況を伝える ―言語情報のみではなく、混雑や先の様子を示すモニターなども有効 3. 時差入場・時差退出 ―群集の流出ピークを緩和する ―催しが終わっても急に閉幕せず、一部の人を留め置く軽いイベントを続けるなど
状況の再定義(Situation Redeginition)とその難しさ
―緊急時に、初期状態で状況を再定義する重要性(池田, 1986) ―新しい情報を手がかりとし、「何か平常時と違う」と明確に意識し、暗黙の前提である「事態は平常だ」という状況の定義 に替わって、以上を認めた状況の再定義を意識的に採用する必要性
日常化(正常化)バイアス(Normalcy Bias)Turner, 1976
―新たな情報にふれても、それ以前に自分が前提としていた状況の定義から予期しうる事象のみを期待し、解釈する ―特に集団で緊急事態に直面しているときにはリスク認知が甘くなり、状況の再定義がされにくい(Yamaguchi, 1998)
引用文献:
社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
KEWORD:
パニック、先導効果、構造的誘発性、群集密度、プラトーン効果、群集制御
情報の伝搬と普及のプロセス
流言(Rumor)
―流言には大別すると2つの考え方がある @流言とは人から人に伝えられる過程で変容し社会に流布していくもの ―代表的な理論としてオールポートの考え方 A流言とは公的な情報が欠落しているような曖昧な状況に置かれた人々が共同して意味解釈をする過程で発生するもの ―シブタニらの考え方が代表的 ―現在では後者が一般的な考え方
@オールポートらの流言の定義
1. 真実かどうか証明されない 2. パーソナル・コミュニケーションを通して流れる 3. 多くの人々に信じられていく命題 ―伝達の過程で情報内容が変化する ―変容のプロセス a. 平均化 ―最初の伝達内容の多数の要素が少数になり、表現が簡略化され、差異が縮小される過程 b. 強調化 ―平均化され少数になった要素が強調され記憶されて伝えられる過程 c. 統合化 ―伝えられた要素を全体として意味のある構造にするように変容する過程
オールポートらの公式(Allport & Postman, 1947)
―「流言の流布量(R) 〜 当事者にとっての問題の重要性(i)×状況の曖昧さ(a)」 ※流言の流布量は、当事者にとっての問題の重要性と状況の曖昧さの積に比例するという意味 ―真実を歪めて伝える「伝言ゲーム」のような捉え方
Aシブタニの流言の定義
―あいまいな状況に巻き込まれた人々が、自分たちの知識を寄せ集めることによって、その状況についての有意味な 解釈を行おうとするコミュニケーション(Shibutani, 1966) ―流言は情報の需給ギャップを埋めるために発生し、その伝達過程で徐々に「本当らしさ」を獲得し、「造られていく」
集合的な状況の再定義プロセスとして流言の発生と伝搬を捉える
―多くの研究の結果、特に重要なのは「不安」「曖昧さ」「信用度」が重要であるとされている(Rosnow, 1991) ―緊急事態においては、人々の不安が高まるとともに、制度的チャネルからの情報が遮断され、状況の曖昧さも著しく高い ―緊急時の流言は「噴出流言」と呼ばれ、平常時の流言である「浸透流言」と区別される(廣井, 2001) ―噴出流言は、非日常的な内容が含まれることが多く、見知らぬ他者にも著しく素早く伝搬する ―方法論上の制約から実施が難しく、ダイナミックなプロセスを追う研究はほとんど行われていない ―例外として、豊川信用金庫に関わる流言の研究がある(伊藤ら, 1974; 木下, 1977)
豊川信用金庫の事例
1973年に愛知県で「豊川信用金庫が倒産する」といった口コミが広がり、取り付け騒ぎが起きた。 始まりは、下校中の電車内で、女子高校生三人組が「信用金庫は危ない」と話していたことであった。
2003年の佐賀銀行の事例
佐賀県で「佐賀銀行がつぶれる」といったメールが広がり、預金を引き出す人たちが増え始めた。 特に、ATMの現金が一時的に不足し長い行列ができたことが、口こみ、携帯メール、インターネット の掲示板などで広がり、取り付け騒ぎが起きた。始まりは、知人から「佐賀銀行がつぶれる」と聞 いた女性が「友人にも教えなければ」と思い携帯メールを26人に送信したことだった。
引用文献:
よくわかる社会心理学 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)
、
新・心理学の基礎知識 (有斐閣ブックス)
、
社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
流言やデマへの対処
―災害時流言の発生を防ぐ、あるいは流言の沈静化を図る要因(三上, 2004) ―受け手の情報リテラシーが高いこと ―送り手がメッセージを明確にすること ―信頼できる流言打消しメッセージを繰り返し伝えること ―特定の企業を標的とするデマの沈静化を図る要因(三上, 1997) ―デマの否定、デマの無視、自社に肯定的な情報の発信 ―ケース・バイ・ケースで有効
引用文献:
よくわかる社会心理学 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)
情報のカスケード(Information Cascade)Bikhachandani et al., 1992
―先行する他者の行動から自分の得ていない情報を推測し、それに追随した行動を選択することで生じる集合行動のモデル ―投資マーケットの動きを説明する際にしばしば用いられる ―個々の投資家は売りか買いかのいずれをなすべきかについて独自の情報を得ているが、自分の情報と他の投資家の得た 情報を統合して最終的な行動を決定する。実際には、他の投資家がどのような情報を持っているかは分からないので、 市場において先行する他者の行動を観察してその投資家の持つ情報を推測する。最初にアクションを起こす投資家Aは、 自分の得た情報にそのまま従うのだが、2番目の投資家がAの投資家を参考にしAと同じ選択をすると、続く3番目、4番目 の投資家は、自分の情報を軽視するようになり、先行する投資家たちに続くため、全体が一方向に流れやすくなる。 ―公的情報が開示されたり、自分の情報を重視する投資家(Barber & Odean, 2001)が現れるとたやすく消失する可能性もある ―加速度的に勢いを増すデモや暴動、一時的で熱狂的な流行のような集合行動のプロセスの説明にも用いられる
カスケードの生起条件
―個人が手持ちの情報以上に他者の行動に注意を向けるときに生起しやすい ―他者と同じ行動を取ることが最善であることを示す情報が与えられた時、基本的状況が変化したのではないかと疑った時
閾値モデル(Threshold Model)Granovetter, 1978
1. 全体の採用率が、個々人の「ある選択肢を採用するかどうかの特有の閾値」を超えた場合に、自分もその選択肢を採用する 2. 各個人の閾値は、集合体全体で、ある確率分布を持っている 3. 各個人の閾値は時間的に一定である ―近年のネットワーク研究から、閾値モデルと人間関係のネットワーク構造が関連づけられている(Watts, 2003) ―ネットワークがどこかで断絶する場合には、情報が伝わらず大規模なカスケードの生起は阻害される ―ネットワークが緊密な場合、周囲の数多くの他者を参照でき、少数の他者の影響力が小さくなり、カスケードが生起しづらい ―後者は、伝染病の流行モデルには見られないものであり、生物学的伝搬とは異なる社会的伝搬の特徴とも言える
引用文献:
社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
KEWORD:
流言、オールポートらの公式、シブタニの定義、流言への対処、情報のカスケード、閾値モデル
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