自己
自己とは
自己と自我(Self and Ego)
自己とは、自分が自分を客体的に認知する時の対象
自我とは、個人の心理的働き、その主体を指す
―自己の定義にはかなりの不一致が見られる
―近年では、その客体的な部分を指して自己ということが多い
ミードの自己(Mead, 1934)
―自己を主体としての自己(I=主我)と客体としての自己(me=客体)とに分けている
サービンの自己(Sarbin, 1954)
―自己とは個人が自分を内省的にとらえ、それを第一人称で「私は～だ」と記述しうるもの
―自我とは他の人がある人の永続的な統一性を第三人称で記述しうるもの
→いずれにせよ、「私」を指し示すものを主体か客体かの2側面でとらえることは多くの研究者の一致するところ
引用文献:社会心理学用語辞典
自己の側面
ジェームズによる区分(James, 1890)
①身体的自己:自己の生命や身体が含まれ、身体の全体を指す身体像など
②社会的自己:地位や職業、名声、評判など、自分の社会的存在としての側面、また、家族や所属団体、国家、所有物なども含む
③精神的自己:自分の欲求や感情、意志、思想の内容、自分の能力や性格、また文化や社会基準を内面化したもの
中村による区分(中村, 1983)
①自己意識(Self-Consciousness):自分自身に注がれる意識であり、自身を認知的に把握していく過程
―自己の形成過程は「強化理論に基づくしつけ」「同一視による取り入れ」「シンボリックな相互作用による役割取得」がある(蘭, 1986)
②自己概念(Self-Concept):自己意識過程の結果としての、自己の行動や態度に関する一貫した認知
―近年では、スキーマなど認知心理学的用語を用いた説明がされている(“自己概念”を参照)
③自己評価(Self-Evaluation):自己概念の内容である自己の行動や態度に対する評価
―他者との比較で現実の自分を価値づける評価過程の表現であり、その評価結果についての本人の受容度が自尊感情(Argyle, 1978)
引用文献:社会心理学用語辞典
自己の機能
梶田による区分(梶田, 1980)
①人は自分との関わりを基準として環境を認知する
②人は自己概念に一致するものを容易に認知し学習する
③人は自身を高揚させるような認知や行為をする
④人は自身を明確化させる材料を求めて自他を認知し、行為する
⑤人は成長動機をもち、自身の志向方向への自己実現を目指す
引用文献:社会心理学用語辞典
KEWORD：自己、自我、身体的自己、社会的自己、精神的自己、自己意識、自己概念、自己評価、自己の機能
自己の側面
ジェームズによる区分(James, 1890)
①身体的自己:自己の生命や身体が含まれ、身体の全体を指す身体像など
②社会的自己:地位や職業、名声、評判など、自分の社会的存在としての側面、また、家族や所属団体、国家、所有物なども含む
③精神的自己:自分の欲求や感情、意志、思想の内容、自分の能力や性格、また文化や社会基準を内面化したもの
中村による区分(中村, 1983)
①自己意識(Self-Consciousness):自分自身に注がれる意識であり、自身を認知的に把握していく過程
―自己の形成過程は「強化理論に基づくしつけ」「同一視による取り入れ」「シンボリックな相互作用による役割取得」がある(蘭, 1986)
②自己概念(Self-Concept):自己意識過程の結果としての、自己の行動や態度に関する一貫した認知
―近年では、スキーマなど認知心理学的用語を用いた説明がされている(“自己概念”を参照)
③自己評価(Self-Evaluation):自己概念の内容である自己の行動や態度に対する評価
―他者との比較で現実の自分を価値づける評価過程の表現であり、その評価結果についての本人の受容度が自尊感情(Argyle, 1978)
引用文献:社会心理学用語辞典
自己の機能
梶田による区分(梶田, 1980)
①人は自分との関わりを基準として環境を認知する
②人は自己概念に一致するものを容易に認知し学習する
③人は自身を高揚させるような認知や行為をする
④人は自身を明確化させる材料を求めて自他を認知し、行為する
⑤人は成長動機をもち、自身の志向方向への自己実現を目指す
引用文献:社会心理学用語辞典
自己概念(Self-Concept)
私たちの自分自身に関する膨大な知識や信念
自己知識の構造と機能
自己知識の2つの分類(榊, 2010)
①抽象度の違いに基づいて自己知識を区別しようとするアプローチ
―エピソード的自己知識(Episodic Self-Knowledge)と意味的自己知識(Semantic Self-Knowledge)の2種類の区別
1. エピソード的自己知識: 自分が経験した具体的なエピソードに関する詳細な知識
2. 意味的自己知識: 個々の具体的なエピソードから抽象化された、自己に関する知識
②意味内容やテーマの違いに基づいて自己知識を区別しようとするアプローチ
―特定の状況における行動様式の一貫性と、異なる状況間で柔軟に変化する柔軟性を備えた自己を分類
―自己は状況(Mitchel & Shoda, 1995)、他者(La Guardia & Ryan, 2007)、感情(Sedikides, 1992)、自己複雑性(Linville, 1985)によって変化
引用文献:現代の認知心理学〈6〉社会と感情
自己スキーマ(Self-Schema)Markus, 1977
自分にとって重要な特徴に関する体制化された明確な知識
―多様な知識が結びついているため、自己スキーマに関わる判断や情報の処理が速い
―他者の判断においても自己スキーマに沿って判断がなされやすく、その次元に関する判断は容易(Fong & Markus, 1982)
―他者の行動を解釈する枠組みとしても用いられる(Markus et al.,1985)
―自己スキーマに応じて記憶しやすい他者情報が異なる(Higgins et al., 1982)。対人認知の個人差の原因の1つと考えられている
自己スキーマに関わる情報とそれ以外の情報を区別している神経的基盤
自己スキーマに関わる情報を処理した時と、含まれない情報を処理した時では、使用される脳部位が異なる(Lieberman et al., 2004)
―前者では、より自動的で、より動機的で、より情動的な情報処理をするときに用いられる部位が活性化
―腹内側前頭前皮質、側坐核、扁桃体など
―後者では、より労力を要し、より意図的な情報処理をするときに用いられる部位や、エピソード記憶を想起するときの部位が活性化
―外側前頭前皮質、海馬、頭頂後皮質など
→自己スキーマが形成されると、そこに含まれる知識は感情的で、動機づけの強い、自動的な領域に移動する
引用文献:社会的認知研究: 脳から文化まで
、社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
作業自己概念(Working Self-Schema)Markus & Wurf, 1987
―接近可能性が高まり、活性化した自己概念(現象的自己:Phenomenal Selfともいう)
―そのときにどのような作業自己概念が活性化しているかによって、私たち自身が捉える自己像は変動する
e.g.,家族といる時の自分と学校の自分は共通する部分もあるが、異なっている部分もあり、異なる行動が現れる
重要他者の影響
―自己概念の変動に大きく影響する要因の1つが自身にとって大切な人の存在
―重要他者と一緒に居る時、人間はその人たちがもっている評価基準を用いて自己をとらえやすくなる(Baldwin et al., 1990)
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
KEWORD：自己概念、エピソード的自己知識、意味的自己知識、自己スキーマ、作業自己概念
自己スキーマ(Self-Schema)Markus, 1977
自分にとって重要な特徴に関する体制化された明確な知識
―多様な知識が結びついているため、自己スキーマに関わる判断や情報の処理が速い
―他者の判断においても自己スキーマに沿って判断がなされやすく、その次元に関する判断は容易(Fong & Markus, 1982)
―他者の行動を解釈する枠組みとしても用いられる(Markus et al.,1985)
―自己スキーマに応じて記憶しやすい他者情報が異なる(Higgins et al., 1982)。対人認知の個人差の原因の1つと考えられている
自己スキーマに関わる情報とそれ以外の情報を区別している神経的基盤
自己スキーマに関わる情報を処理した時と、含まれない情報を処理した時では、使用される脳部位が異なる(Lieberman et al., 2004)
―前者では、より自動的で、より動機的で、より情動的な情報処理をするときに用いられる部位が活性化
―腹内側前頭前皮質、側坐核、扁桃体など
―後者では、より労力を要し、より意図的な情報処理をするときに用いられる部位や、エピソード記憶を想起するときの部位が活性化
―外側前頭前皮質、海馬、頭頂後皮質など
→自己スキーマが形成されると、そこに含まれる知識は感情的で、動機づけの強い、自動的な領域に移動する
引用文献:社会的認知研究: 脳から文化まで、社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
作業自己概念(Working Self-Schema)Markus & Wurf, 1987
―接近可能性が高まり、活性化した自己概念(現象的自己:Phenomenal Selfともいう)
―そのときにどのような作業自己概念が活性化しているかによって、私たち自身が捉える自己像は変動する
e.g.,家族といる時の自分と学校の自分は共通する部分もあるが、異なっている部分もあり、異なる行動が現れる
重要他者の影響
―自己概念の変動に大きく影響する要因の1つが自身にとって大切な人の存在
―重要他者と一緒に居る時、人間はその人たちがもっている評価基準を用いて自己をとらえやすくなる(Baldwin et al., 1990)
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
自尊感情
自己評価に関する肯定的な側面(Baumeister, 1998)
自尊感情(Self-Esteem)に関するジェームズの言及(James, 1890; 1950)
① 自尊感情とは要求に対する成功経験の割合
―基盤は、実際の成功や失敗であり、社会的地位の高低
② 自分自身に抱く感情の、ある一定の平均的トーン
―満足や不満に対する理由とは独立したもの
→この矛盾する主張が、自尊感情の構造に関する3つの研究を生んだ
1. 状況により変動しない「特性自尊感情」と状況によって変動する「状態自尊感情」の区分
2. 特定領域における自己評価と自尊感情の関連に関わる研究
3. 自己概念の認知的特徴と自尊感情の関わりに関する研究
引用文献:現代の認知心理学〈6〉社会と感情
自尊感情の構造
①特性自尊感情と状態自尊感情
―ジェームズの言説は、自尊感情が状況により変動する部分としない部分が存在する可能性を示唆
特性自尊感情(Trait Self-Esteem)
―性格特性のように比較的安定したものとして存在する自尊感情
―特性自尊感情の源泉の1つには、自分に対する他者評価の推測である反映的評価がある(Mead, 1934)
e.g., 過去の養育者の評価的ふるまいがのちの自尊感情に影響(Harter, 1999)
状態自尊感情(State Self-Esteem)
―状況によって変動する自尊感情
―学業成績のフィードバック(Heatherton & Polivy, 1991)、社会的受容や排斥(Leary et al., 1995)などによって変化
引用文献:現代の認知心理学〈6〉社会と感情
②特定領域の自己評価との関わり
―特定領域の自己評価は自尊感情を予測しうるが、各領域の自己評価の総和と自尊感情は同義ではない(Kernis & Goldman, 2003)
―個人的に価値の高い領域での自己評価(Pelham, 1995)、社会的価値の高い自己評価(Marsh, 1993)は自尊感情を予測する
自己価値の随伴性(Contingencies of Self-Worth)Crocker &Wolfe, 2001
―個人が自尊感情を特定領域の自己価値に依拠させること
―個人の自己価値は当該領域における成功や失敗の知覚、規範を満たしているか否かの知覚による
―状態自尊感情との関連を示した理論だが、部分的には特性自尊感情にも影響を与えると想定(Crodker & Park, 2003)
引用文献:現代の認知心理学〈6〉社会と感情
③自己概念の認知的特徴との関わり
―自己概念の認知的特徴、特に自己確信度と自尊感情とが関連(Baumgardner, 1990)
―自尊感情の高い人は、低い人と比べて自己概念が明確(Campbell, 1990)
引用文献:現代の認知心理学〈6〉社会と感情
顕在的自尊感情(Explicit Self-Esteem)と潜在的自尊感情(Implicit Self-Esteem)
―近年、高次心理過程における自動的で非意識的な過程の影響の大きさが指摘されている(Bargh, 2007)
―自尊心にも質問紙で測定可能な顕在的な過程と、言語化できない潜在的な過程の2種類が想定されている
①潜在的自尊感情の測定
潜在的自尊感情の測定に推奨された方法は2つ(Bosson et al., 2000)
1. ネームレター効果(Nuttin, 1985; Koole & Pelam, 2003)
―自分の名前に含まれる文字を含まれていない文字よりも好む効果(Nuttin, 1985)
―この効果には個人差があり、この個人差を潜在的自尊感情の指標とする(Koole et al., 2001)
2. 自尊感情IAT(Greenwald & Farmnham, 2000)
―実験手続き
a. 参加者に自己関連語や他者関連語、肯定後や否定語をカテゴリー分けする課題を行わせる
b. 自己関連語と否定語の組み合わせと、他者関連語と肯定後の組み合わせにカテゴリー分けするときの反応時間を比較
―潜在的自尊感情が高いほど事故関連語と肯定後の連合が強く、相対的に早く反応できる
引用文献:現代の認知心理学〈6〉社会と感情
②顕在的自尊感情と潜在的自尊感情との関連
顕在的自尊感情と潜在的自尊感情との相関は弱い(Bosson et al., 2000)
―互いに独立した存在である可能性(Wilson, 2002)
一方で……
一般に認知資源が低下すると非意識的自動的な過程に依存する
―このような状況では顕在的自尊感情は潜在的自尊感情に依拠することとなり、相関が高まる(Koole et al., 2000)
→将来的には、顕在的自尊感情と潜在的自尊感情の相互作用が期待されている(DeHart & Pelham, 2007)
引用文献:現代の認知心理学〈6〉社会と感情
自尊感情の機能
存在脅威管理理論(Terror Management Theory)Greenberg et al.,1997
―人は「死は不可避」であるという実存的恐怖を解消するために2つの方法で対処することを想定した理論
1. 文化的世界観の構築(Greenberg et al., 1990)
―文化は、その価値体系の中で生きる人々に永続性を感じさせるため、人は共同体、文化を維持する価値体系に固執する
2. 高い自尊感情の維持(Pysczynski et al., 2004)
―自尊感情は死の恐怖に対する緩衝材としての機能を果たす
引用文献:現代の認知心理学〈6〉社会と感情
ソシオメータ理論(Sociometer Theory)Leary & Baumeister, 2000
―自尊感情を、他者が抱く自己価値をモニターするための進化的適応システムと想定
―進化的に他者との関係性維持は生存に直結する重要なことであった
→重要他者と最低限の結合は維持したいという所属欲求の獲得(Baumeister & Leary, 1995)
→周囲の他者から自分がどのくらい価値ある存在として評価されているかを推測するため自尊感情を獲得
引用文献:現代の認知心理学〈6〉社会と感情
KEWORD：自尊感情、特性自尊感情、状態自尊感情、顕在的自尊感情、潜在的自尊感情、存在脅威管理理論、ソシオメーター理論
自尊感情の構造
①特性自尊感情と状態自尊感情
―ジェームズの言説は、自尊感情が状況により変動する部分としない部分が存在する可能性を示唆
特性自尊感情(Trait Self-Esteem)
―性格特性のように比較的安定したものとして存在する自尊感情
―特性自尊感情の源泉の1つには、自分に対する他者評価の推測である反映的評価がある(Mead, 1934)
e.g., 過去の養育者の評価的ふるまいがのちの自尊感情に影響(Harter, 1999)
状態自尊感情(State Self-Esteem)
―状況によって変動する自尊感情
―学業成績のフィードバック(Heatherton & Polivy, 1991)、社会的受容や排斥(Leary et al., 1995)などによって変化
引用文献:現代の認知心理学〈6〉社会と感情
②特定領域の自己評価との関わり
―特定領域の自己評価は自尊感情を予測しうるが、各領域の自己評価の総和と自尊感情は同義ではない(Kernis & Goldman, 2003)
―個人的に価値の高い領域での自己評価(Pelham, 1995)、社会的価値の高い自己評価(Marsh, 1993)は自尊感情を予測する
自己価値の随伴性(Contingencies of Self-Worth)Crocker &Wolfe, 2001
―個人が自尊感情を特定領域の自己価値に依拠させること
―個人の自己価値は当該領域における成功や失敗の知覚、規範を満たしているか否かの知覚による
―状態自尊感情との関連を示した理論だが、部分的には特性自尊感情にも影響を与えると想定(Crodker & Park, 2003)
引用文献:現代の認知心理学〈6〉社会と感情
③自己概念の認知的特徴との関わり
―自己概念の認知的特徴、特に自己確信度と自尊感情とが関連(Baumgardner, 1990)
―自尊感情の高い人は、低い人と比べて自己概念が明確(Campbell, 1990)
引用文献:現代の認知心理学〈6〉社会と感情
顕在的自尊感情(Explicit Self-Esteem)と潜在的自尊感情(Implicit Self-Esteem)
―近年、高次心理過程における自動的で非意識的な過程の影響の大きさが指摘されている(Bargh, 2007)
―自尊心にも質問紙で測定可能な顕在的な過程と、言語化できない潜在的な過程の2種類が想定されている
①潜在的自尊感情の測定
潜在的自尊感情の測定に推奨された方法は2つ(Bosson et al., 2000)
1. ネームレター効果(Nuttin, 1985; Koole & Pelam, 2003)
―自分の名前に含まれる文字を含まれていない文字よりも好む効果(Nuttin, 1985)
―この効果には個人差があり、この個人差を潜在的自尊感情の指標とする(Koole et al., 2001)
2. 自尊感情IAT(Greenwald & Farmnham, 2000)
―実験手続き
a. 参加者に自己関連語や他者関連語、肯定後や否定語をカテゴリー分けする課題を行わせる
b. 自己関連語と否定語の組み合わせと、他者関連語と肯定後の組み合わせにカテゴリー分けするときの反応時間を比較
―潜在的自尊感情が高いほど事故関連語と肯定後の連合が強く、相対的に早く反応できる
引用文献:現代の認知心理学〈6〉社会と感情
②顕在的自尊感情と潜在的自尊感情との関連
顕在的自尊感情と潜在的自尊感情との相関は弱い(Bosson et al., 2000)
―互いに独立した存在である可能性(Wilson, 2002)
一方で……
一般に認知資源が低下すると非意識的自動的な過程に依存する
―このような状況では顕在的自尊感情は潜在的自尊感情に依拠することとなり、相関が高まる(Koole et al., 2000)
→将来的には、顕在的自尊感情と潜在的自尊感情の相互作用が期待されている(DeHart & Pelham, 2007)
引用文献:現代の認知心理学〈6〉社会と感情
自尊感情の機能
存在脅威管理理論(Terror Management Theory)Greenberg et al.,1997
―人は「死は不可避」であるという実存的恐怖を解消するために2つの方法で対処することを想定した理論
1. 文化的世界観の構築(Greenberg et al., 1990)
―文化は、その価値体系の中で生きる人々に永続性を感じさせるため、人は共同体、文化を維持する価値体系に固執する
2. 高い自尊感情の維持(Pysczynski et al., 2004)
―自尊感情は死の恐怖に対する緩衝材としての機能を果たす
引用文献:現代の認知心理学〈6〉社会と感情
ソシオメータ理論(Sociometer Theory)Leary & Baumeister, 2000
―自尊感情を、他者が抱く自己価値をモニターするための進化的適応システムと想定
―進化的に他者との関係性維持は生存に直結する重要なことであった
→重要他者と最低限の結合は維持したいという所属欲求の獲得(Baumeister & Leary, 1995)
→周囲の他者から自分がどのくらい価値ある存在として評価されているかを推測するため自尊感情を獲得
引用文献:現代の認知心理学〈6〉社会と感情
自己評価の維持
人間は基本的に自分自身に対する評価を維持しようと動機づけられている
①恣意的規準の採用
―あいまいさのある属性についての判断を求められた場合、自分に都合が良い次元を恣意的に用いて判断する傾向(Dunning et al., 1989)
e.g., 例えば「優しさ」の基準は不明瞭であり、人は自分自身を優しいとみなしやすい基準を用いて自分は人より優しいと判断する
―基準が明確な属性(足の速さ)などの場合は、恣意的な基準を用いにくく、自己の評価を高く維持する事は難しい
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
②自己評価維持モデル(Self Evaluation Maintenance Model: SEM Model)Tesser, 1988
―他者との関係における自己評価において、人が自分に対する評価を高く維持する心理メカニズムに2つの前提を想定したモデル
1. 他者との関係性は自己評価に重要な影響を与える(第一の前提)
a. 比較過程: 心理的に近い他者の自分より優れた(劣った)遂行と、自分の遂行を比較して自分の評価を下げる(上げる)過程
b. 反映過程: 心理的に近い他者の優れた(劣った)遂行により自己評価が高まる(低下する)過程
→いずれも他者が心理的に近い場合に生じる。遂行の重要度が高ければ比較過程が、低ければ反映過程が生じる
2. 人は自己評価を維持・増大するよう行動する(第二の前提)
―SEMモデル研究では、「比較過程」と「反映過程」の働きと「第二の前提」から導かれる予測を検討する
他者と自分の相対的な遂行認知」「他者と自分の心理的距離」「対象に対する関与」の3つの要因のうち2つを独立変数として操作
―従属変数となる残りの要因がどのように条件ごとに異なるかを検討
e.g., 他者との心理的距離が近く、重要な対象に対しては、比較過程が働き、自分の遂行の方が他者よりも優れていると認知しやすい
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
③自己価値確認理論(Self-Affirmation Theory)Steele, 1998
―自己評価維持の目標となるのは、個別の領域ごとの評価ではなく、全体的な自己評価
―全体的な自己評価さえ維持できれば、個々の低下した自己評価に対する対処行動は必ずしも生じない
SEMモデルとの関わり
―自己価値を確認すれば、「自他の相対的遂行認知」「心理的距離」「関与」のいずれを変更せずとも自己評価は維持(Tesser & Cornell, 1991)
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
④継時的自己評価理論(Temporal Self-Appraisal Theory:TSA Theory)Wilson & Ross, 2001
―遠い過去の劣っていた自分は、現在の自分の評価を高めることができるので、過去の自分は現実よりも劣って想起される
―主観的時間的距離が遠いほど、過去の自分が劣っていたと感じやすい
→過去の自分の想起はそのまま取り出されるのではなく、現在の高い自己評価を維持するかたちで想起される
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
自己評価維持がもたらす影響
ポジティブな影響
ポジティブイリュージョンTaylor & Brown(1988)に関する議論を参考に
―ポジティブイリュージョン(Positive Illusion): 現実より好ましい自己評価や、将来に対する予測、自己統制感を持つこと
1. 精神的健康を保つ効果
2. 課題へ持続的に取り組ませ、成功率を高める
3. パートナーを現実より好ましく思うことで、関係が良好に保たれる
4. 身体的健康を保つ効果(Taylor et al., 2000)
ネガティブな影響
現実より好ましい自己評価である自己高揚傾向(Self-Enhancement)に関する議論を参考に
―ポジティブイリュージョンは適応的という考え方に対する反論
1. 大学生において自己高揚バイアスと成績の間にポジティブな相関は見られなかった(Robins & Beer, 2001)
―自己高揚バイアスが途中退学に繋がる傾向さえみられた
2. 過剰に自己高揚的自己評価をする人物は、最初のうちは好ましく評価をされるが、長期的には否定的な評価をされる(Paulhus, 1998)
①自己高揚バイアスは、ネガティブな面もポジティブな側面も持つ
②ネガティブな影響は主に自己評価が高すぎることに起因
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
KEWORD：恣意的規準の採用、自己評価維持モデル、自己価値確認理論、継時的自己評価理論、自己高揚バイアス
②自己評価維持モデル(Self Evaluation Maintenance Model: SEM Model)Tesser, 1988
―他者との関係における自己評価において、人が自分に対する評価を高く維持する心理メカニズムに2つの前提を想定したモデル
1. 他者との関係性は自己評価に重要な影響を与える(第一の前提)
a. 比較過程: 心理的に近い他者の自分より優れた(劣った)遂行と、自分の遂行を比較して自分の評価を下げる(上げる)過程
b. 反映過程: 心理的に近い他者の優れた(劣った)遂行により自己評価が高まる(低下する)過程
→いずれも他者が心理的に近い場合に生じる。遂行の重要度が高ければ比較過程が、低ければ反映過程が生じる
2. 人は自己評価を維持・増大するよう行動する(第二の前提)
―SEMモデル研究では、「比較過程」と「反映過程」の働きと「第二の前提」から導かれる予測を検討する
他者と自分の相対的な遂行認知」「他者と自分の心理的距離」「対象に対する関与」の3つの要因のうち2つを独立変数として操作
―従属変数となる残りの要因がどのように条件ごとに異なるかを検討
e.g., 他者との心理的距離が近く、重要な対象に対しては、比較過程が働き、自分の遂行の方が他者よりも優れていると認知しやすい
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
③自己価値確認理論(Self-Affirmation Theory)Steele, 1998
―自己評価維持の目標となるのは、個別の領域ごとの評価ではなく、全体的な自己評価
―全体的な自己評価さえ維持できれば、個々の低下した自己評価に対する対処行動は必ずしも生じない
SEMモデルとの関わり
―自己価値を確認すれば、「自他の相対的遂行認知」「心理的距離」「関与」のいずれを変更せずとも自己評価は維持(Tesser & Cornell, 1991)
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
④継時的自己評価理論(Temporal Self-Appraisal Theory:TSA Theory)Wilson & Ross, 2001
―遠い過去の劣っていた自分は、現在の自分の評価を高めることができるので、過去の自分は現実よりも劣って想起される
―主観的時間的距離が遠いほど、過去の自分が劣っていたと感じやすい
→過去の自分の想起はそのまま取り出されるのではなく、現在の高い自己評価を維持するかたちで想起される
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
自己評価維持がもたらす影響
ポジティブな影響
ポジティブイリュージョンTaylor & Brown(1988)に関する議論を参考に
―ポジティブイリュージョン(Positive Illusion): 現実より好ましい自己評価や、将来に対する予測、自己統制感を持つこと
1. 精神的健康を保つ効果
2. 課題へ持続的に取り組ませ、成功率を高める
3. パートナーを現実より好ましく思うことで、関係が良好に保たれる
4. 身体的健康を保つ効果(Taylor et al., 2000)
ネガティブな影響
現実より好ましい自己評価である自己高揚傾向(Self-Enhancement)に関する議論を参考に
―ポジティブイリュージョンは適応的という考え方に対する反論
1. 大学生において自己高揚バイアスと成績の間にポジティブな相関は見られなかった(Robins & Beer, 2001)
―自己高揚バイアスが途中退学に繋がる傾向さえみられた
2. 過剰に自己高揚的自己評価をする人物は、最初のうちは好ましく評価をされるが、長期的には否定的な評価をされる(Paulhus, 1998)
①自己高揚バイアスは、ネガティブな面もポジティブな側面も持つ
②ネガティブな影響は主に自己評価が高すぎることに起因
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
自己制御
自己制御(Self Regulation)とは、何らかの目標を達成するために自身を制御すること
―幼少時に自己制御能力が高い子どもは、その後の学業成績、社会的スキル、対処能力において優れる(Mischel et al., 1988)
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
理想と義務による自己制御
―自己制御過程には、理想による制御過程と義務による制御過程がある(Higgins et al., 1997)
―理想による制御; 「こうありたい」という理想による動機づけの生起
→動機づけが強いと、現実自己との不一致を生み、希望や願望の達成に関連し、未達成は失望や落胆の感情を生起
―義務による制御; 「こうあらなねばならない」という義務による動機づけの生起
→動機づけが強いと、現実自己との不一致を生み、義務感や責任感に関連し、未達成は不安・緊張感などを生起
引用文献:社会心理学 (キーワードコレクション)
、
自己制御と制御資源
―自己制御研究では自分を制御し、目標に向かって頑張る時、エネルギー(制御資源: Regulatory Resource)が消費されると想定
―制御資源をいったん多くを消費すると、その次の制御が不十分になる(Muraven et al., 1998)
―訓練すれば強化でき、自己制御をするための資源が高められることも(Muraven & Baumeister, 2000)
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
制御資源の枯渇と反社会的行動
―社会的に適切な行動をするためにはしばしば自己制御が必要
―制御資源が枯渇すると、怒りの表出を制御するのが困難になる(Stucke & Baumeister, 2006)
→あくまでも、自己制御の枯渇によって表出するのは“抑えられている反応”(望ましい反応が現れることも)
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
KEWORD：自己制御、理想による自己制御、義務による自己制御、制御資源
理想と義務による自己制御
―自己制御過程には、理想による制御過程と義務による制御過程がある(Higgins et al., 1997)
―理想による制御; 「こうありたい」という理想による動機づけの生起
→動機づけが強いと、現実自己との不一致を生み、希望や願望の達成に関連し、未達成は失望や落胆の感情を生起
―義務による制御; 「こうあらなねばならない」という義務による動機づけの生起
→動機づけが強いと、現実自己との不一致を生み、義務感や責任感に関連し、未達成は不安・緊張感などを生起
引用文献:社会心理学 (キーワードコレクション)、
自己制御と制御資源
―自己制御研究では自分を制御し、目標に向かって頑張る時、エネルギー(制御資源: Regulatory Resource)が消費されると想定
―制御資源をいったん多くを消費すると、その次の制御が不十分になる(Muraven et al., 1998)
―訓練すれば強化でき、自己制御をするための資源が高められることも(Muraven & Baumeister, 2000)
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
制御資源の枯渇と反社会的行動
―社会的に適切な行動をするためにはしばしば自己制御が必要
―制御資源が枯渇すると、怒りの表出を制御するのが困難になる(Stucke & Baumeister, 2006)
→あくまでも、自己制御の枯渇によって表出するのは“抑えられている反応”(望ましい反応が現れることも)
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
自己呈示
自己呈示(Self Presentation): 相手にある印象を与えようとして、自分のある側面を呈示すること
― 特定の他者に対し、自分に関する情報をありのまま言語的に伝達することは自己開示(Self Disclosure)とよばれる
印象管理との関わり
印象管理(Impression Management): 自己に限らず、他者や組織など様々な対象に対する印象操作
―自己呈示は印象管理の下位概念のひとつ
引用文献:社会心理学 (キーワードコレクション)、
自己呈示の機能
自己呈示は3つの働きを持つ(Leary & Kowalski, 1990)
①適切な自己呈示によって社会的・物質的利益を獲得し、損失を避けられる
②自尊感情を高めたり維持することができる
e.g., 失敗に対する釈明を他者が受け入れれば自尊感情の低下を防げる
③アイデンティティを確立できる
引用文献:社会心理学 (キーワードコレクション)、
自己呈示の種類
①取り入り: 好ましい印象を与える
②自己宣伝: 能力が高い印象を与える
③示範(Exemplification): 道徳的な側面を強調する
④威嚇(Intimidation): 相手に危害を加える可能性があることを印象づける
―自分が望む行動を相手に取らせることができる
⑤哀願(Supplication): 自分の弱さを印象づける
―援助の手を差し伸べてくれる
セルフ・ハンディキャッピング(Self-Handicapping)Berglas and Jones, 1978
―何らかの評価を受ける前に、不利な条件を自ら作り出し告げる行為
―失敗した場合は、その原因を能力の低さに帰属されることを回避できる
―成功した場合は、不利な条件があるのに成功したことで能力をさらに高く評価される
引用文献:社会心理学 (キーワードコレクション)、
自己呈示の内在化
―人の作業自己概念が、呈示された自己像の方向に変容する傾向のこと(Tice, 1992)
―他者に自分のある側面をみせることは、私たち自身にも影響を及ぼす
e.g., 明るく外向的に振舞うと、自己評価がが明るく外向的になる
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
KEWORD：自己呈示、印象管理、自己呈示の種類、セルフ・ハンディキャッピング、自己呈示の内在化
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自己呈示の機能
自己呈示は3つの働きを持つ(Leary & Kowalski, 1990)
①適切な自己呈示によって社会的・物質的利益を獲得し、損失を避けられる
②自尊感情を高めたり維持することができる
e.g., 失敗に対する釈明を他者が受け入れれば自尊感情の低下を防げる
③アイデンティティを確立できる
引用文献:社会心理学 (キーワードコレクション)、
自己呈示の種類
①取り入り: 好ましい印象を与える
②自己宣伝: 能力が高い印象を与える
③示範(Exemplification): 道徳的な側面を強調する
④威嚇(Intimidation): 相手に危害を加える可能性があることを印象づける
―自分が望む行動を相手に取らせることができる
⑤哀願(Supplication): 自分の弱さを印象づける
―援助の手を差し伸べてくれる
セルフ・ハンディキャッピング(Self-Handicapping)Berglas and Jones, 1978
―何らかの評価を受ける前に、不利な条件を自ら作り出し告げる行為
―失敗した場合は、その原因を能力の低さに帰属されることを回避できる
―成功した場合は、不利な条件があるのに成功したことで能力をさらに高く評価される
引用文献:社会心理学 (キーワードコレクション)、
自己呈示の内在化
―人の作業自己概念が、呈示された自己像の方向に変容する傾向のこと(Tice, 1992)
―他者に自分のある側面をみせることは、私たち自身にも影響を及ぼす
e.g., 明るく外向的に振舞うと、自己評価がが明るく外向的になる
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)