問題行動と健康な心

―問題行動の概念は、時代により、場面により、説く人によって異なる
倉光(1995)の6分類の心理的問題
�@神経症レベルの反応
　―臨床心理学や精神医学における神経症は中枢神経系における以上が認められない場合
�A精神症レベルの反応
　―精神病と呼ばれるもののほとんどは、中枢神経系における何らかの異常が疑われるもの
　　―精神病レベルの症状が出ていると認められるときは、通常、医師による投薬等の処置が求められる
�B心身症と薬物依存
　―心の傷から体の病が引き起こされるように見えるもの
　　―心の傷が体の病を引き起こすような場合は、その心の傷は一般にかなり深刻な場合が少なくない
　　e.g., 上司の叱責が心理的ショックを引き起こし、それが内分泌系に異変を引き起こし、結果的に胃潰瘍が発生
�C知的障害
　―知的能力の発達が遅れる場合と、いったん獲得された知的能力が失われる場合
　　―知的障害の多くは中枢神経系の異常と対応している
　　―心の病は知的能力がどのようなレベルであっても生じうる
�D社会的行動の問題
　―望ましい行動を取らない「非社会的行動」と望ましくない行動をとる「反社会的行動」が含まれる
　　―その程度が深刻で持続期間も長い場合は「人格障害」として分類されることがある
　　―深刻なケースでは、かつて非常に深い「心の傷」を受けたのではないかと推測されることが多い
�E人生の問題
　―人間関係や生き方に関わる心理的問題をとりあげる
　―災害や犯罪の被害にあって、一時的に不眠や虚無感に苦しむケースも含まれる
　　―しばらくすると、悲惨な体験を自分の人生にいかに統合するかという人生の問題が浮かび上がる
　　―心の傷が深く、それに対する処置が不適切な場合には心の病が生じることもある
―�@〜�Dは広義の心の病
―�Eは心の傷に該当する訴えや行動
　―これらの分類の単位は相互に他を排除しない

佐藤ら(1996)の発達段階ごとの問題行動の分類
�@乳幼児期
　―乳幼児期に見られる問題は、人が生きていく上で最も重要な能力の獲得に関わるものが多い
　　―基本的生活習慣の自立や言葉の獲得、人間に対する基本的信頼感の獲得など
　　e.g., 言葉の障害、夜驚、自閉症、精神遅滞、夜尿etc……
�A学童期
　―学校場面における他者との関わりに関する問題や学習問題が多い
　　e.g., 恐怖症、選択性緘黙(場面緘黙症)、引っ込み思案、チック、学習障害、無気力etc……
�B思春期(Puberty)
　―思春期は児童期の後、性的変化が始まり生殖能力がそなわるまでの２〜３年
　　―性毛の発生、慎重・体重の急激な増加、第二臼歯の発生、変声の終了、乳房の突出、月経の開始など
　　―急激な身体変化とそれに伴う心理的動揺を特徴とする
　　e.g., 登校拒否、家庭内暴力、いじめetc……
�C青年期(Adolescence)
　―一般には子どもから成人へと移り変わる時期
　　―幼さから脱皮し、これまでとは異なる新しい自己概念を形成し、社会的にも責任ある行動が期待される
　―青年期は不安と安定、強さと弱さ、鋭敏さと鈍感さがまじりあい、危機も平穏も表裏一体の関係にある
　　―神経症的、精神病的あるいは非社会的な症状傾向と酷似した諸特徴を持つ
　　e.g., スチューデント・アパシー、神経症(ノイローゼ)、対人恐怖症、境界例etc……
�D成人期・中年期
　―20歳代後半から30歳代前半
　　―職業への適応と経済的自立、結婚生活への適応が一般的な発達課題
　―成人期・中年期には様々な心身の問題が見られる
　　e.g.,　うつ病、神経症、心身症、アルコール症、子どもの誕生によるストレス、更年期障害etc……
�E老年期
　―老年期にはそれまで人が経験することのなかった様々な変化が訪れる
　　―運動機能の低下、身体機能の低下、認知機能の低下、記憶能力の低下、退職
　―上述の変化によって生じる、老年期特有の問題が見られる
　　e.g., 退職に伴うストレス、老年性痴呆、一般的認知機能の障害etc……
引用文献:臨床心理学キーワード (有斐閣双書―KEYWORD SERIES)、現代心理学入門〈5〉臨床心理学、臨床心理学 (ベーシック現代心理学)

―倉光(1995)の６分類に基づいた問題行動の区別
�@神経症レベルの反応
　ヒステリー(Hysteria)
　　症状
　　　―感覚マヒ、運動マヒ、失神、硬直、痛みetc……
　　基準
　　　―上述の症状を引き起こすような体の病が推定(発見)されない場合につけられる
　　特徴
　　　―クライアントはヒステリー症状にそれほど苦しんでいるようではない
　　　　―ヒステリー反応を示さなければ、症状によって引き起こされる苦痛よりも強い苦悩を味わうことが、当人
　　　　　には(無意識に)予期されているということかもしれない
　　　　―ヒステリー症状は「無意識的感情」や「無意識的思考」によって引き起こされる?
　不安神経症(Anxiety Neurosis)
　　症状
　　　―心臓のあたりが苦しくなり、頻脈、呼吸困難、発汗、めまい、吐き気、ふるえ、頻尿などが発作的に起こる
　　　　―「不安発作」とよばれる代表的な症状
　　基準
　　　―体の病が見出されないことが確かめられなければならない
　　特徴
　　　―体の病が否定された後もクライアントは同様の発作を体験している
　　　―しばしば、非常に強い「死の不安」にとらわれる
　　　―発作が治まった後も、また発作が起きるのではという「予期不安」にさいなまれる
　　　　―多くのケースでこの予期不安が高じた直後に発作が再発する
　　　　　―不安神経症では、不安と発作が悪循環を招く
　心気症(Hypochondria)
　　症状
　　　―体にわずかの異常を発見して、ガンやエイズや梅毒などの重病にかかったのではないかと強く恐れること
　　　　―一方で、心気症の人はその人がかかりそうな病気をあまり心配しない傾向がある
　　　　　e.g., 肝機能の低下を示す検査結果が得られているのに多量の飲酒をするetc……
　　基準
　　　―神経症レベルの心気症では、身体症状に基づいて重病を「疑っている」程度
　　　　―精神病レベルの心気妄想になると、医師がどんなに言っても、その病気にかかっていると確信する
　　特徴
　　　―死や社会的地位の喪失などに対する恐怖によって引き起こされるとも考えられるので、「恐怖症」にも分類される

　恐怖症(Phobia)
　　症状・基準
　　　―本来それほど危険性の高くない事物や状況を極度に恐れる場合
　　　　―その対象がそれほど恐ろしくないことを本人も知的には認識しているが、激しい恐怖にとらわれる
　　　 e.g., 高所恐怖症、不潔恐怖症、対人恐怖症、乗物恐怖症、赤面恐怖症、自己臭恐怖症etc……
　　特徴
　　　―不安などに比べ、恐怖の対象は比較的明確な特定の事物や場面であるとされる
　　　　―実際には不安と恐怖は区別しにくいところもあり、神経症の分類は、かなり便宜的なもの
　強迫神経症(Obesessive Compulsive Neurosis)
　　症状
　　　―強迫観念と強迫行為に分けることが出来る
　　　　―強迫観念(Obession); 制しがたく湧き起ってくる観念やイメージ
　　　　―強迫行為(Compulsion); 強迫観念に伴う行為
　　基準
　　　―正常なレベルのものもある
　　　　e.g., 出かける前には必ず門の端を軽くたたくetc……
　　　　―神経症レベルのものはこうした観念や行為をおかしいと感じるけれども、日常生活にも支障が及ぶ場合
　　特徴
　　　―強迫行為によって、わずかではあるが、安心感が得られる
　　　　―同時に多くのクライアントは強迫観念や強迫行為によって、同時に強い苦しみを体験する
　　　　　―意識的にそういう観念を取り払おうとして、かえってそれにとらわれる
　離人神経症(Depersonalization Neurosis)
　　症状・基準
　　　―自己や外界の実在感が失われる状態で、離人症と言われることもある
　　　　―神経症レベルのものでは現実吟味は認められず、現実が奇妙に疎隔された「感じ」がする
　　特徴
　　　―強迫神経症と同様に、症状自体がもたらす苦痛が非常に大きい
　　　―離人症の後で精神病の症状が引き起こされるケースもある
　内閉神経症(Seclusive Neurosis)
　　症状
　　　―身体的・経済的には戸外で社会的活動をすることが可能なのに、何日も自室や自宅に閉じこもっている場合
　　　　―本人は出て行かないのではなく、「何故か分からないが出て行けない」ように感じる
　　基準
　　　―症状の背後に、何らかの心理的葛藤や欲求不満が推測され、また、現実吟味が大きく障害されない場合
　　特徴
　　　―不登校やアパシーの一部が含まれる
　　　　―このような行動が相当長期間、恒常的にみられる場合は、回避性人格障害に分類されることもある
　神経症性うつ状態(Neurotic−Depressive Conditions)
　　症状
　　　―うつは全般的に活動性が失われる状態
　　基準・特徴
　　　―神経症レベルのうつ状態では、心の傷が本人にはあまり明確に意識されない
　　　―うつ病と違い、現実吟味は正常に保たれるし、抗うつ剤の効果も認められない
　　　　―環境条件を調べていくと、心の傷がきっかけになって生じている事が示唆される
　　　　―環境条件の変化によって症状に明らかな変化が認められれば、この分類名を用いる妥当性が高まる
　チック(Tic)
　　症状
　　　―筋肉が不随意的に頻繁に動いてしまうこと
　　　　―思いがけない悪口や汚言を口走ってしまうチックもある
　　基準
　　　―現実認識に明らかな歪みが無く、症状に関連する身体的異常が見出されず、場面によって出現頻度が異なる場合
　　特徴
　　　―多くのケースで、苦痛を避けたい、注目を浴びたい、誰かを攻撃したいといった欲求が無意識に潜在する
　吃音(Stuttering)
　　症状
　　　―(特定の音で始まる)単語や文章を話し始める時に、冒頭の音を繰り返し発音してしまう症状
　　基準
　　　―場面によって発症頻度が大きく変化したり、不安や緊張と関連していたり他者の吃音を模倣したことがきっかけの場合
　　特徴
　　　―吃音の背後にはチックと同様の潜在的な動機が推測されることもある
　場面緘黙(Elective Mutism)
　　症状・基準
　　　―学校や街中など特定の場面でことばを発しないこと
　　　　―特定の場面以外では、家族やごく親しい友人とふつうに会話できる
　　特徴
　　　―背後には、不安や緊張、あるいは怒りや他者の要求に対する強い抵抗感が推測される場合も多い
　　　―不安や緊張が大きい時には手紙や筆談によるコミュニケーションが可能であるが、怒りや抵抗が強い時にはそれも難しい
　遺尿(Enuresis)・遺糞(Encopresis)
　　症状・基準
　　　―着衣のまま排泄してしまうこと
　　　　―睡眠中の遺尿のことを夜尿と呼ぶ
　　　―身体的異常が発見(推定)されず、10歳以降に遺尿が、5歳以降に遺糞が生じた場合は「心理的問題」に分類されることも
　　特徴
　　　―トイレット・トレーニングが不十分であった場合に生じる
　　　―何らかの(無意識的)葛藤に対する非適応的な反応として捉えられる場合も少なくない
　指吸い(Thumb Sucking)・爪噛み(Nail Biting)
　　症状・基準・特徴
　　　―幼児期以降に、指吸い、爪噛みといった行動が頻繁に観察され、その背後に無意識的葛藤が推測される場合
　　　　―例えば、「母性的なケアを欲している」「攻撃的欲求が自分に向かってしまっている」etc……
　　　　―こうした解釈は、他の行動全体のコンテクストを視野に入れたうえで、行う必要がある
　抜毛癖(Trichotillomania)
　　症状
　　　―髪の毛を引っ張って抜いてしまう症状
　　基準
　　　―本人がそれを止めた方が良いと認識できている時には神経症レベルの症状とみなせる
　　特徴
　　　―女子に多く、攻撃的衝動が自分に向かう
　　　　―一種の自傷行為とも言える
　　　―類似の行動に爪の周囲の皮膚をむしる、手をかむ、頭部や胸を強くたたくなどがある
　神経性無食欲症(Anorexia Nervosa)
　　症状・基準
　　　―心の病が発見(推定)されず、身長から期待される平均体重の80%以下になっている
　　　　―何らかの無意識的葛藤が推測される場合に、この分類名が使われる
　　　―神経性過食症と合わせ、摂食障害とも分類される
　　特徴
　　　―「思春期やせ病」「拒食症」と呼ばれることもある
　　　―思春期の女性がダイエットなどをきっかけにして陥ることが多いが、男性でも増えつつある
　　　　―重症になると、栄養不足で死亡する事がある
　　　―空腹感を感じないか、たとえ空腹感を感じてもごくわずかしか食べない、まったく食べないでいようとする
　　　―極端にやせていてもその方が美しいと感じたりする
　　　―かなり活発に活動し、時には力仕事をしたりするケースもある
　　　―自分がごくわずかしか食事を取ろうとしないが、身近な他者には多くの、手の込んだ食事を作る場合がある
　　　―多くのケースでは、突然の大食と意図的な嘔吐が認められる。下剤を多用するケースもある
　　　―痩せと肥満を繰り返すタイプもある
　　　―長期間拒食すれば、身体の異常が引き起こされるので、心身症に分類もできる

�A精神病レベルの反応
　精神分裂病・統合失調症(Schizophrenia)
　　症状
　　―幻覚や妄想を主とする精神症状、すなわち精神病状態を示すことが主な特徴である精神疾患がまとめられている
　　　―主な症状は幻聴、妄想、思考奪取、思考吹入、作為体験etc……
　　　―症状によっては、セネストパチー、言葉のサラダ、カタレプシー、痴呆化するケースもある
　　　　―通常、記憶力などの知的機能は保たれることが多い
　　基準
　　―以下のような特徴的な精神病症状が一か月間以上、ほとんどいつも存在している
　　　1. 妄想、2. 幻覚、3. 解体した会話、 4. 行動にまとまりがない、話していることとすることが一貫しない
　　　　―1〜4の症状を陽性反応と呼び、抗鬱精神薬によく反応する
　　　5. 陰性症状; 感情の起伏が平板化する、発想や会話の内容が乏しい、意欲が低下
　　　―障害の診断には障害の持続的な兆候が6か月以上存在する事が必要
　　　　―これより短い場合は統合失調症様障害などに分類され、本来の統合失調症より予後が良い
　　特徴
　　―もともと素因を持つ人が日常的な刺激から脳の機能障害を発症するというストレス―脆弱性モデル説が、有力
　　―人が一生の間に統合失調症にかかる率は１%で、恐怖症や物質関連障害、気分障害よりも低い
　　―初回発症例の95%は1年以内に社会的適応が可能なレベルにまで回復する
　　―退院後2年間で40〜70%が再発する
　　―陰性症状や残遺症状は現在利用可能な向精神薬では十分に治療する事ができない
　　―薬物を服用している患者でも対人関係に障害が残る場合がしばしばある
　大うつ病(Major Depression)
　　症状
　　―精神病レベルのうつ病では、憂うつ感や行動の抑止が見られるだけではない
　　　―現実吟味が歪められ、ときには罪業妄想や心気妄想、未来に対する非現実的な絶望が生じ、自殺を企図することも
　　―躁とうつの両方の相があるものや、それを繰り返すものもある
　　　→躁うつ病 (Manic-Depressive Psychosis)、双極性障害(Bipolar Disorder)
　　―気分の変化を主な特徴としてもつ精神疾患がまとめられて「気分障害」「感情障害」とも呼ばれる
　　基準
　　―気分障害は症状で診断はつかず、経過が重要
　　　―患者と一度面接するだけでは診断は決まらない
　　―状態像の診断として、以下の点を診断し、それぞれについて重症度や幻覚・妄想の存在、非定型症状の存在を評価する
　　1. 大うつ病エピソード
　　　―抑うつ気分、興味や喜び、楽しさの減退、食欲低下・体重減少、不眠または浅眠、精神運動抑制または焦燥、疲れ
　　　　やすさ、気力の減退、空しさ、自己評価の低下、絶望感、思考力・集中力・体力の低下、希死念慮・自殺企図
　　　　―これらが2週間以上続くものが病的と診断される
　　　　―うつ病は、高血圧治療薬や脳梗塞、アルコールなどによっても起こるので、身体の検査が必要
　　　―その後、過去の経過を調べて、エピソードの回数、起こり方、エピソードの持続月数などを調べて、診断分類をつける
　　　　―診断分類それぞれにエピソードの頻度、時期、経過の特徴などから、間歇期の回復の有無、季節性、休息交代型を評価
　　特徴
　　―病気の起こる状況や患者の性質に合わせて様々な名前が発案されることがある
　　　―それらに本質的な差があるわけではない
　　　e.g., 青年期無気力症、思春期周期性精神病、五月病、マタニティーブルー、退行期うつ病、仮面うつ病etc……
　　―人が一生の間にうつ病にかかる率は4〜9%であり、小学生から老人まで男女を問わずに見られる
　　　―思春期から青年期男女の死因のトップは自殺であり、自殺の多くは背景にうつ病があると考えられる
　　―精神科を受診する患者の中で最も多いのが気分障害であるにもかかわらず、見過ごされる事の多い疾患
　　―気分障害はSSRIのような新しい抗うつ薬の開発や認知療法、行動療法、対人関係療法の試みが活発に行われている
　　―診断基準が著しく変化する領域
　　―気分障害は思い身体の病気やパーソナリティ障害、不安障害にしばしば合併して起こる
　　―気分障害の原因は分からない
　　　―血縁者に気分障害の患者がいると気分障害の発症リスクが高くなるので、遺伝負因があることは確か
　　　―幼少期に両親と離別した体験がある人、あるいは一定の世代にうつ病が多くみられることから環境要因が大きいとされる

�B心身症と薬物依存
　心身症(Psychosomatic Diseases)
　症状
　―心の傷によって体の病が引き起こされているように見えるケース
　　―心理療法によって体の病の回復が促進される可能性が高い
　基準
　―厳密に言えば、ほとんどすべての身体の病は、人間関係や治療環境を含めた心理的要因によって多少なりとも影響を受ける
　―とりわけ胃潰瘍、十二指腸潰瘍、過敏性大腸炎、円形脱毛症など、心理的因子の影響が大きいケースに限って「心身症」に分類
　特徴
　―アトピー性皮膚炎やアレルギー性のぜんそくなどは明白な身体疾患だが、中には心理的状況によって症状が変化するケースも
　　―心身症の定義を広くとって、こういった疾患を含める研究者もいる
　―ヒステリー性の頭痛や腰痛、神経性無食欲症などを含める研究者もいる
　薬物依存(Drug Dependence)
　症状・基準
　―薬物を大量に長期間常用し、仕事や家庭生活に支障が生じてきた状態
　　―物質によっては離脱症状が起こったり、脳に器質的変化が生じることもある
　特徴
　―症状の背後には、現実の苦痛を回避し、幻想の世界に快楽を見出そうという動機がうかがわれることが多い
　―実際に体に異常が生じることから、心身症に含めることも可能

�C知的障害と自閉症
　精神遅滞(Mental Retadation)
　症状・基準
　―全般的知的機能が平均よりも有意に低く、適応行動の欠陥を伴い、それが発育期に現れるもの
　　 　　―この場合の有意とは、DSM-�W-TRでは、標準化されたIQテストにおいて、70以下を採用している
　　―発育期とは18歳以下を指す
　　―適応行動の障害はABS適応行動尺度などの標準化された検査で測る
　―AAMRの定義では、知的水準よりも社会適応の方が重視されている
　　―IQが基準より低くても、年齢に相応した適応状態を示していれば精神遅滞とは判定されない
　特徴
　―先天性代謝異常と染色体異常が原因となる
　―低栄養、低酸素、感染、毒物及び外傷などの出生前、出生後の問題も原因となる
　―知的障害児・者は注意障害をも伴う傾向にあり、さまざまな不適応行動を示す
　　―幼少時からの生活訓練が必要となる
　学習障害(Learning Disorder: LD)
　症状
　―読み・書き・計算といった基本的な学習能力に困難がある場合
　　―知能が劣っているわけではなく、視覚や聴覚といった感覚器官にも特に問題がない
　　1. 読みの正確さと理解力に問題がある読字障害(Reading Disorder)
　　2. 口頭で綴りを言う力と語を書き出す力のいずれにも問題がある書字表出障害(Disorder of Written Expression)
　　3. 加減乗除のような基本的な計算力に問題のある算数障害(Mathematics Disorder)
　　4. 特定の学習障害の基準は満たさないものの、3領域の全てに問題があるために学業成績を妨害する特定不能の学習障害
　基準
　―学力の到達度は、対象児の年齢、知能、教育程度に基づいて予想される水準を明らかに下回っている必要
　　―知能指数が70以下であることは主要な除外基準となる
　特徴
　―多動や注意集中力の低さ、運動能力の遅れ、対人的な社会的能力の低さなどが挙げられる
　―原因はいまだ不明
　　―単に学習機会の欠如や、後天的な脳損傷や疾患によるものではない
　　―内因としての生物学的な機能不全と環境要因が相互に影響しあって発言すると想定されている
　―女子よりも男子での発現が圧倒的に多い
　自閉症(Autism)※特に早期幼児自閉症(Early Infantile Autism)
　症状
　1. 愛着行動が乏しい
　　―視線を合わせない、ノンバーバル行動の著しい障害、仲間関係の形成の失敗、対人的あるいは情緒的相互性の欠如etc…
　2. 言語によるコミュニケーションに著しい遅れや歪みがある
　　―話し言葉の発達の遅れ、会話の開始と継続の傷害、反復的な言語の使用または独特な言語、抑揚やリズムの異常etc……
　3. 特定のものに強迫的なこだわりがある
　　―限定された興味だけに対する熱中、常同的で奇妙な運動、物体の一部に対する持続的な熱中etc…
　　―これらの特徴がすでに2〜3歳のころから見られる
　基準
　―3歳までの発症、1,2,3から合計6項目以上、1から2項目以上、2と3からは1項目以上が、DSM-�W-TRの基準
　特徴
　―認知障害が想定されており、行動論的なアプローチが効果をあげている
　―年長になると異性のヌード写真を見たりすることから、人間に全く興味が無いわけではない
　　―他者を避けるのは、他者が、彼らの嫌がることや理解できなことばかり要求するからかもしれない
　―心の病のレベルは精神病レベルの深刻さであるとする研究者も多く、精神病に含められることもある
　健忘性障害
　症状・基準・特徴
　―新しい情報を記憶する能力が障害される
　　―最近のエピソードの想起よりも、遠い過去のエピソードの早期が良好
　―場所と時間と人物に対する見当識障害を伴う事が多い
　―記憶の欠落を埋めようとする結果、作話が見られることもある
　認知症、痴呆(Dementia)
　症状
　―成人期以降に発生した知的低下を中心とし、見当識障害や、健忘性障害、思考障害などの精神機能の低下した状態
　　―意欲低下、関心の減退、感情の平板化、気分の抑うつ化、多幸化、性格の先鋭化や退行などの問題を伴う事も多い
　基準
　―DSM-�W-TRでは、記憶の障害を含む種々の認知欠損を示すものと定義している
　　―認知機能の欠損とは、失語、失行、失認、または実行機能の障害のいずれか一つ以上を併せ持つもの
　特徴
　―認知症は一般には進行性で、非可逆性と考えられている
　　―DSM-�W-TRでは、認知欠損の状態によって定義されており、非可逆性とは考えられていない
　―最も多いのはアルツハイマー性認知症で。次に血管性認知症

�D社会的行動の問題
　不登校、登校拒否(School Refusal)
　症状・基準
　―身体的、経済的、家庭的、知的には登校を妨げる要因が無いにもかかわらず、登校しないケース
　　―学校に行っていないすべてのケースを指すわけではない
　―周辺のタイプには怠学(Truancy)型と神経症レベルの障害による不登校がある
　　―怠学は、目立った神経症状はなく、学校をさぼって盛り場などで遊ぶタイプ
　　―神経症レベルでは、通常ヒステリー症状から不登校が始まる
　特徴
　―知的、病理的領域、反社会的行動の領域のそれぞれにおいて、子どもがどのレベルであっても生起する
　　―知的には平均以上、病理的には神経症レベル、反社会的行動としては家庭内暴力にとどまるものが中核をなす
　―家庭環境において、両親ともに健在、高学歴で、経済的にも中流以上である場合が多い
　―閉じこもりの時期は、通常何年も続く
　　―セラピストを探し当てたり、合宿やキャンプへの参加によってうまくいけば少しずつ社会参加を達成する
　アパシー(Apathy)、スチューデントアパシー
　症状・基準
　―無気力状態のことで、大学生などでは学習意欲を失い、授業に行かなくなる
　　―趣味やアルバイトなどの領域ではむしろ積極的に活動するケースが多い
　特徴
　―現実吟味の能力は一般には失われないが、ボーダーラインレベルの病理や、精神病的反応を示すケースもある
　　―アパシーと診断されても、他のクリニックではうつ病や、境界性人格障害などに分類されることもある
　不就労
　症状・基準
　―学校を卒業したり、退学したりした後も仕事に就こうとしない状態が半年以上続く状態
　　―身体的ないし知的に問題が認められないにもかかわらず、就労意欲がお子てこない場合をいう
　　―多くの場合、短期的なアルバイトをすることはできる
　特徴
　―不登校やアパシーの持続型ないし後発型と見ることができる
　非行(Deliquency)
　症状・基準
　―広義には未成年者による反社会的行動全般を指す
　　―法令に増える行為だけでなく、深夜徘徊など、相当広い行為が「非行」に含まれる
　　―たいていの人は成人に達するまでに、何らかの非行を働いている
　特徴
　―当人が罪の重さに応じた罪悪感を当人が感じているかどうかが心理学的に重要
　　―罪の重さに応じた罪意識を持ち、以後再び罪を犯さないで暮らしていけるようになることが臨床心理学的目標
　―非行少年の家庭環境や生活環境については、貧困家庭や欠損家庭が多い
　境界性人格障害(Ｂorderline Ｐersonality Disorder)
　症状・基準
　―子供の時代から成人期にわたって恒常的に観察される非社会的ないし反社会的行動傾向
　特徴
　―特定の他者に対する感情の極端な動揺が見られる
　　―多くのケースではそれに伴って、衝動的行為や迷惑行為が何度も繰り返される
　　―自己や他者に対する認知の分裂があると考えられている
　　―強い愛情欲求不満と見捨てられ不安が内界にあるのではないかという指摘もある
　自己愛性人格障害(Narcissistic Personality Disorder)
　症状・基準・特徴
　―自分が非常に偉い人間だと思っており、他者からそのような人間として扱われないことに対して強い怒りを感じる
　　―他者に対する共感能力に乏しく、しばしば他者を道具のように利用する
　　―対人関係でトラブルが生じることが多い
　　―統合失調症やアパシーにも同様の申請が働いていると言う指摘もある
　反社会性人格障害(Antisocial Personality Disorder)
　症状・基準
　―子供のころから盗みや怠学などの非行があり、成人になっても思い犯罪を繰り返す傾向がある
　―一般に攻撃的で、些細なことにも腹を立てる
　―家庭生活や職業生活において、一貫性のある人間関係を維持する事が困難
　特徴
　―子供時代に親から十分な愛情を受けたと感じていないことが多く、実際に不遇な環境に置かれていたケースも多い
　―学業などで強い劣等感を感じていたことが推測されることも多い
　性行動障害(Sexual Disturbances)
　症状・基準
　―不感症、インポテンツ、同性愛、服装倒錯、露出狂、サディズム、マゾヒズム、近親姦など
　　―文化によってはこうした行動は心の病とは見なされない
　特徴
　―性行動障害は神経症や精神病、ホルモン異常や遺伝子の異常、精神遅滞や脳の病気に伴われることもある
　　―しかし、多くのケースではそうした障害は認められず、子どもの頃の成育環境や性教育に問題が見出される
　　　e.g., 周囲に適切なモデルや性対象が存在しない、性的虐待、性アイデンティティを傷つけられることがあった

�E人生の問題
　 　―深い心の傷を与えるような人生の問題が含まれる
　　―クリニックや相談室など場所によって相談内容は多少異なる
　　一般の心理クリニックや心理教育相談室、児童相談所や教育センターの相談
　　　―不登校や非行、自閉症などにたいして親、配偶者がどう対応すればいいかなど
　　学校内のカウンセリング・ルーム、学生相談室の相談
　　　―進路や適性の問題、仲間や異性との人間関係の問題など
　　職場内のカウンセリング・ルームの相談
　　　―仕事の適性や配属の問題、同僚や上司や部下との人間関係、不倫やセクハラなど
　　病院の中の心理相談室の相談
　　　―重い身体病や重度の身体障害にかかった時の心理的問題など
　　一般市民を対象とする心理クリニックの相談
　　　―離婚や転職の問題、中年以降の生き方を問題にした相談
　―災害に遭遇した時、悲惨な光景を目撃した時、自分や家族が強姦などの被害にあった時の心の傷
　　―一時的に心の病のような症状を示すが、むしろこれは自然な反応
　　―悲惨な体験を、どう自分の人生に統合し、どう生きていくかという課題が、心理的問題として浮上することも
引用文献:臨床心理学キーワード (有斐閣双書―KEYWORD SERIES)、現代心理学入門〈5〉臨床心理学

―健康な心を知る前に
　―そもそも「健康」とは一体何か?
WHOの「健康」の定義(WHO, 1948)
　―「健康とは、身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、単に病気あるいは虚弱でないことではない」
　　―健康を身体面だけでなく精神面・社会的な面に広げて総合的に把握しようとした点に意義がある
　―健康な心とは一体何か?
　　―ストレスのないこと?
　　　―始めにストレスを手がかりとしながら、健康な心にアプローチしていく
　�@ストレス
　―人間は、原因・刺激であるストレッサ―を受けると、その結果として、心理的・身体的ストレス反応が起こる
　　―ストレッサーへの反応は、その時の体調や疲労状況、情緒的状態などによって異なる
　　―セリエは、ストレスを「本来、生体を危機から防衛するための合目的的で有益な反応」として捉えている
　　　e.g., 人が危険を感じると身体がその危険に立ち向かうための体制に入るが、その危険がされば元の状態に戻る
　　　―人が生き残るために備わる、適応に向けてのメカニズム
　　ストレスの性質
　　　1. ストレスは悪い物とは限らない
　　　　―ストレスを通して人は効果的なストレッサ―の対処方法を体得したり、ストレッサ―に負けない工夫を編み出す
　　　　―遊園地など、意図的にストレスを楽しむこともある
　　　2. 人間の生活において、ストレッサ―のない生活はありえない
　　　　―ストレッサ―が「生活上の変化や出来事」や「あらゆる刺激や要求」と言う意味であれば、ストレスを避けることはできない
　　　3. 受け手がストレッサ―をどうとらえるかという認知が、ストレッサ―の捉え方や、ストレスの有り様に大きく影響する
　　　　―ストレッサ―には善玉も悪玉もある。誰にとっても一概に悪玉ストレッサ―と言えないものも多い
　　　4. ストレッサ―にはおのずから適度な量がある
　　　　―一般にストレッサ―が多すぎると疲労が募り、心身のバランスが崩れやすい
　　　　―一方、ストレッサ―が少なすぎると、人は適度な緊張感を保てず、かえって心身の不調を招きやすくなる
　　　5. 健康な心とは、ストレスと上手に付き合っていける心、「ストレス耐性の高い心」
　　　　―ストレッサ―がなくなることはないし、ストレッサ―が少なければよいというわけでもない
　　　　　→ストレスとの付き合い方こそが重要
　　ストレス耐性の高い心
　　　1. 年齢・性別
　　　　―一般に、発達に伴ってストレス耐性を身に着けていく
　　　　　―逆に老年期になると、ストレス耐性の力は総じて弱まっていく
　　　　―男女でどちらにストレス耐性が高いとは言えない
　　　　　―ただし、性ホルモンの影響や、性役割によって男性が助けを求めにくく(園田, 2008)、女性が育児ストレスを抱える場合もある
　　　2. 性格
　　　　―ストレス耐性が高い性格・低い性格といった特定の性格が固定的にあるわけではない
　　　　　―真面目な性格は手堅く準備するなど、ストレス耐性を高めるとも言えるが、他の性格と結びつきストレス耐性を低めることもある
　　　　―自分の性格が今感じているストレスとどのような関係にあるかを考えてみる必要がある
　　　3. 遺伝
　　　　―一般にストレス反応やストレス性疾患には、遺伝的な物が関与していると言われる
　　　　　―ストレス反応やストレス性疾患になりやすい素質や体質が遺伝しやすい
　　　　　―ただし、実際にストレスで病気になるかどうかには、環境も作用しており、ストレス耐性を高めていける余地がある
　　　4. ストレス対処行動
　　　　―ストレス対処行動には大別して2種類ある
　　　　　a. スポーツで気分転換を図る、問題解決のために話し合う、リラクゼーションといった積極的な対処
　　　　　b. 酒を飲んで憂さ晴らしをする、人にあたる、タバコの本数が増えるなどの逃避的な対処
　　　　　　―前者は自分にとっても他者にとっても望ましい行動であり、後者はその逆
　　　　　　　―一時的に逃避的な対処をとっても、その後積極的な対処をとって行けるならば、ストレス反応は深刻に至らないで済む
　　　　　　　―自分を対処能力に乏しいとみなすと、わずかのストレッサ―も多大な脅威を感じられ、逃避的な対処行動に走りがちになる
　　　　　首尾一貫感覚(Sense of Coherence: SOC)Antonovsky, 1987; 2001
　　　　　　―ストレスへの対処能力においてはストレスの認知の仕方が重要である
　　　　　　　―SOCは言い換えると、「ある環境の中での自己への信頼感」であり、次の3つの要素からなる
　　　　　　　　a. 自分に要求されていること、自分がすべきことは理解可能である(把握可能感覚)
　　　　　　　　b. 自分に課された課題は解決可能である(対処可能感覚)
　　　　　　　　c. 自分のしようとしていることが価値のある事だと思える(有意味感覚)
　　　　　　　　―人はいかなる状況に遭遇してもこの3つの要素が保持されていれば、心身ともに健康である可能性が高いとした
　　　　→ストレス耐性を高めるには、自分にとっての積極的対処の方法を持つこと、首尾一貫感覚を育成する事
　　　5. 社会的支援(ソーシャルサポート)
　　　　―生きていく上で、様々な場面で他者から受ける有形無形のサポート
　　　　　―ストレッサ―やストレスに対して積極的な対処ができるためにはソーシャルサポート・ネットワークがあることが重要
　　　　　―大きいストレッサ―があり、ストレス反応が出やすいときでも、社会的支援があるならばストレス反応は緩和されやすい
　　　　　―唯一絶対的な信頼できる人からのサポートよりも、種々の人間関係がネットワークとして機能する方が、ストレス軽減に実効的
　　　6. フィードバック
　　　　―人は自分のストレス反応を通して、ストレッサ―に対して前とは異なった反応をすることも出来る
　　　　　―ストレッサ―への慣れだけでなく、ストレッサ―の量や質、ストレス反応を変えていける可能性も大きい
　　　7. ストレス・マネジメント
　　　　a. 十分な睡眠を取る、b. 栄養をバランス良くとる、c. 適度な運動をする、d. リラックスする(山崎ほか, 2003)

　�A対人援助要請力
　　―他者に助けを求める力
　　　―健全な依存行動ができ、安心して人に寄ったり、助けを求めたりできる能力の肯定的な意味を強調する
　　　―この観点からは、「健康な心とは、対人援助要請力のある心である」とも表現できる
　　社会的支援を求めにくくしている要因(太田, 2005)
　　　1. 助けを求めることは「自尊心が傷つく」
　　　2. 回りの人や世間から自分がこんな風に思われるのではないかという思い込み
　　　3. 助けを求めると相手の言い分を尊重しないといけないという思考
　　　4. 相手に迷惑をかけるのではないかという考え
　　　5. 誰でもできれば自分1人の力でやりたいという気持ちがある
　　　―太田は自尊心の傷つきに関する事が援助を求めにくい中核的理由だろうと述べている
　　　　―対人援助要請を行うには、困っている自分を認め、ありのままの自分を受け止める自己受容が必要となる
　　　　―自己卑下したり傷ついたりすることなく自己受容するには自尊感情の存在が不可欠
　　　　　→自尊感情とは何か?

　�B自尊感情(Self−Esteem)
　　―人格性の絶対的価値、尊厳を自己において認める意識(遠藤ほか, 1992)
　　　―短所や失敗なども含めて、自分を価値ある人間と見なしている自己評価
　　　―自尊感情は精神的健康や適応の基盤をなすものであり、他者との関わりも大切にしようと志向しやすくなる
　　自尊感情を高める
　　　―フェアな自己評価を心がける
　　　　―長所も短所もバランスよく見ると同時に、一見短所と思われることが長所につながる面もないか考える
　　　―自分の現実と理想との関係について検討すること
　　　　―現実と理想の関係から自分を見直して、両者の距離が適当か、理想に近づくための見通しがあるかを考える

　�Cレジリエンス(Resilience)
　　―困難で驚異的な状況にもかかわらず、うまく適応する過程・能力
　　　―打たれ強さや、精神的な回復力
　　　―子どもがレジリエンスを培う上で、周囲に少なくとも1人、親身になってくれる大人がいることが重要
　　レジリエンスを持つ条件(Wolin, 1993; 2002)
　　　―児童虐待児たちの研究から特定した条件
　　　1. 洞察; 難しい問題について考え、誠実な答えを出す習慣
　　　2. 独立性; 問題のある家族と自分自身の間に境界を引くこと
　　　3. 関係性; 他の人々との親密で充足的な絆
　　　4. イニシアティブ; 問題に立ち向かう事、労の多い課題によって自分自身を強化し試していく傾向
　　　5. 創造性; 悩ましい経験や痛ましい感情の混沌に、秩序や目的などを持ち込むこと
　　　6. ユーモア; 悲劇の中におかしさを見つけること
　　　7. モラル; 良い人生を送りたいという希望を全人類にまで拡大していく良識
　　　　―この中でどれが強いかには性格などの個人差がある
　　　　　―大人になった後でも、自らのレジリエンスを新たに確認したり探し始めたりできる
　　レジリエンスとストレス耐性の関係
　　　―レジリエンスとストレス耐性とは、困難な状況下での人間の心理的な強さを表しているという点で共通
　　　―適応的な回復を導く過程やその結果までを包括的に捉えた概念で、ストレス耐性より広義で、人格的な面が強い
　　　　―レジリエンスには「逆境にもかかわらず残っているのではなく、逆境を通して鍛えられる」という本質がある(小森,2002)
　　　―レジリエンスは1人の個人内のみで完結するものではない
引用文献:臨床心理学とは何だろうか―基本を学び、考える

先人の「健康なパーソナリティ」像
　―「健康な心」を具現化した健康なパーソナリティの姿が、先人によって記述されてきた
　オールポートの「健康なパーソナリティ」像(Allport, 1961; 1968)
　　1. 自己感覚の拡大;　自己の外部へ興味を広げ、広範囲の自己以外の物や人に積極的に関わること
　　2. 自己が他者と温かい関係を持つこと; 愛する人と心からの関係を持ち、自らの幸福と同じように相手の幸福を願う事のできる力
　　3. 情緒的安定; 自分の情動を受け入れ、それを生産的な方向へコントロー客観的な自己理解をできること。
　　4. 現実的知覚; 自分をあるがままに見つめ、それを受け入れること
　　5. 技能と課題; 自分の技能を活用し、仕事などへ自分が関わり行う事への責任と、積極的に生き続けていくことの意味を位置づける
　　6. 自己客観化; 客観的な自己理解をできること
　　7. 統一的な人生哲学; 前向きな基本姿勢をもち、長期的な目標や計画によって動機づけられていること
　　→きわめてもっとものようであるが、実現が難しい人物像
　ロジャーズの「十分に機能している人間」像(Rogers, 1959; 2001)
　　―カウンセリングの最終的目標は十分に機能する人間となることであると述べた
　　　―十分に機能する人間とは?
　　1. 自己の経験に開かれていること
　　　　―自己の経験を拒否したりと言う自己不一致でなく、経験に伴う生き生きとした感情を味わうことができる
　　2. あるがままの真実の自己を積極的に生き続けること
　　　　―どのような経験によっても絶えず影響を受け、それを歪みなく受け入れ、新しく自己を再生産し、柔軟に変化できる
　　3. 自分自身への信頼があること
　　　　―自分が正しいと信じ、行う価値があると感じた時にはそれを信頼して行動できる
　　4. 自由の感覚があること
　　　　―未来に対して自分の責任で自由に選択でき、自らの可能性を信頼できる
　　5. 創造性があること
　　　　―行動が自発的であり、人生の豊かな刺激への反応として変化し、成長・発達する
　　→十分に機能している人間は絶えず変化しつつある「過程の中の人間」であり、自己実現へと向かう過程にある状態
　マズローの「自己実現」
　　―人間は誰しも自己実現しようとする生得的な傾向をもつこと、自己実現欲求の達成には、低次の欲求が満たされる必要があるとした
　　　―最高度に健康な人間は自己実現した者で、最高次の自己実現への動機が働いていなければ健康なパーソナリティとは言えない
　　　―自己実現者とは以下のようなパーソナリティを持つものであるとした
　　1. 自分を取り巻く人々や外界の対象をありのままの姿で客観的に認知する
　　2. 自分自身の長所とともに短所や欠点も受け入れ、自分を歪めたり偽ったりしない
　　3. 自分の感情を隠さず、他人に対しても思慮深く思いやりを持つ
　 　　4. 使命感をもって仕事に夢中になり、それは金銭や名声のためではない
　　5. プライバシーを大切にし、孤独をも好む。人間的な接触を避けるのではなく、自分自身の動悸や基準に基づいて決定し行動する力
　　6. 深い宗教的経験に似た恍惚感、無上の喜び、畏敬の念を経験することがある
　　7. 人類のために役立ちたいという願いと同時に、人間に対しての愛情と深い共感を持っている
　　8. 独創的であり、子どものような素朴や創意や創造性があり、物事を素直に見る傾向がある

オールポート、ロジャーズ、マズローの共通点
�@自分を発達させていく成長動機がある
�A現在を大切にしており、過去にとらわれていない
�B自分の生活を自分なりにコントロールでき、自分の行動を方向付けることが出来る
引用文献:臨床心理学とは何だろうか―基本を学び、考える

病理学的規準と臨床心理学的規準
―もしも病理学的規準のみをあてはめた場合
　―そこで疾病と判断された場合が不健康であり、それ以外はそうでないとの明快な区分けが可能
―臨床心理学の枠組みでは
　1. 病理学的規準を活用しながらも、その基準だけが使われるわけではない
　　―健康な心の状態かどうかは、本人の適応感・不適応感も重要な視点
　　　―本人の主観や認知が重要
　　　―本人の在り方だけでなく、周りの人々が社会的支援を提供してくれるかどうかも重要
　2. 身を置いている環境があまりに過酷な場合は、不健康に見える心の状態の方が健康な心の状態であることも多い
　　―一時的に大きな混乱を抱えても、ゆくゆくは本人の自己治癒力・快復力も働きやすい場合もある
　　―このような状況でも何ら問題がないような心的状態を示すことは、健康より不健康な心に近いと言えるかもしれない
　　　→フロイトが指摘した「喪の作業」という言葉で呈示した事と重なる
　3. ある文化で健康な心とみなされる言動が、別の文化では不健康な心と見なされる場合もある
　　e.g., 「自分が成長した証として、祖先の動物がなんであるか分かった」という発言を日本でする場合とナバホ族でする場合
　―健康な心と不健康な心とについて、単純に二分できるものではない
　　→心理学を学ぶことで健康/不健康を簡単に判断できるようになるといった誤解を抱かないようにする必要
引用文献:臨床心理学とは何だろうか―基本を学び、考える

健康な心についての逆説的な見方
―臨床心理学では病や問題行動に対して一般常識とは異なる見方をする面もある
　1. 精神分析家のエレンベルガ―の「創造の病(Creative Illness)」概念(Ellenberger, 1970; 1980)
　―病になり、克服する過程のなかで、今までとは異なる創造的な考え方を生み出したり、生き方そのものが創造的に変容すること
　　―その典型例がフロイト、ユングだとした
　　―河合(1985)は、「創造の病」は特定の人物にのみ生じるものではなく、凡人に適用しても、ある程度、それは言えるとした
　2. 園田(1989)は、人がその時期に示す問題行動は、それ以前の人格の発達のひずみを外在化したサインかもしれないと述べている
　―問題行動は単に否定的な意味を有するだけでなく、問題行動の表出により、確かな発達、人格の統合が生み出される契機にもなる
　―早く問題をなくしさえすればよい、クライアントはそれらを取り除いてもらうためにやってくる対象でしかないという見方をしない
　―臨床心理学における健康な心とは?
　　→病や問題行動を、本人や周りの人々にとって対処不能でない形で表出できることとも言える
引用文献:臨床心理学とは何だろうか―基本を学び、考える