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マスメディアとインターネット
マスメディアの効果
―マスメディアは現実の再構成物であって、現実以上に強調された部分もあれば、見えなくなった部分もある ―マスメディアは人々にどのような影響をどのぐらい与えているのか
マスメディアの効果研究の歴史
@弾丸効果論、即効理論の第一期(20世紀初頭〜1930年代) ―マスメディアが絶大な影響力を持つことを前提に効果が研究された時期 A限定効果論の第二期(1940年代〜1960年代前半) ―実証研究の結果に基づいて、効果は第一期の想定ほど大きくはなく、限定的であるとした時期 B新効果論、新強力効果論の第三期(1960年代後半以降) ―限定効果論に対する批判的検討が行われ、議題設定効果などに代表される理論が提出される時期
引用文献:
新・心理学の基礎知識 (有斐閣ブックス)
マスメディアの限定効果論
―オピニオンリーダーが一般大衆とマスメディアの間に立って後者の影響量を媒介したり、緩衝材となるという仮説 ―戦前の、大衆がマスメディアに容易に振り回されるという仮説を否定
マスメディアの強力な影響力を実証しようとしたラザスフェルドの調査(Lazarsfeld et al., 1944)
―マスメディアを通じて膨大な情報が流れるアメリカ大統領選挙を対象とし、世論調査の手法を用いてデータ の代表性を確保した上で、同一人物に対して毎月調査を行い、個人の意見の変化を測定した。媒体は40年代 の代表的であった新聞であった。調査の結果によると、人々は大量のマスメディアの報道に接したにも関わ らず、それによって意見を変えることは少なかった。むしろ大半の人は意見を強化する傾向が見られた。 ―意見を変更したケースを分析した結果、マスメディアよりも調査対象者の周囲に居る他者の影響力の方が強かった ―「コミュニケーションの二段階の流れモデル」研究への発展(詳細は“ソーシャル・ネットワーク”を参照) ―「マスメディアの情報が人々に直接届くと影響力が自動的に発生する」という「弾丸効果論」が否定された →同時に、メディアが「限定」された役割しか果たしていないのかという疑問も提示された
引用文献:
社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
議題設定効果(Agenda Setting Effect)Comb & Shaw, 1972
―メディアが主要争点として取り上げたものは視聴者にも主要な争点として受け止められるようになるという効果 ―地方新聞に見られる記事の重要性の優先順位とその地域の住民が重要だと考える政治争点の重要性判断の間に 対応関係が見られるという指摘があったことから、この考えが提唱された ―メディアは「意見形成や態度変容」を促すのではなく「注意の喚起と認知の変化」を問題にした点で重要 ―その後も理論的、方法論的に発展したが、「強力効果」というほどの強力さは見いだせていない(相田・池田, 2007) ―その理由 1. 複数のメディアが異なる争点を強調する可能性があること 2. 受け手によって情報の受け取り方の枠組みがことなることでインパクトも変化すること
引用文献:
新・心理学の基礎知識 (有斐閣ブックス)
、
社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
第三者効果(The Third Person Effect)Davison, 1983
1. マスメディアによる説得は「自分」や「自分の同類」よりも、それ以外の人たちに大きな効果を持つと考える認知傾向 e.g., 自分は選挙キャンペーンの影響を受けないが、他の多くの人たちは影響を受けるだろう 2. 1の認知によって、認知した者の行動が変化する e.g., 「他の多くの人たちが説得される」ことを予想し、想像上の多数派に同調する ―「沈黙の螺旋」現象との関わり ―2の行動に関する第三者効果の存在は十分に実証されているわけではない →新しい視点からマスメディアの効果という概念自体を問いなおした点で重要
引用文献:
新・心理学の基礎知識 (有斐閣ブックス)
教化効果、培養効果(Cultivation Effect)Gerbner & Gross, 1976
―強烈なスリルやサスペンスを含むドラマを見続けると、受け手は世の中を恐ろしさに満ちた社会と捉えるようになる ―アメリカのテレビのプライムタイムのドラマを内容分析し続けるとともに、長時間のテレビ視聴者では短時間の視 聴者よりもこの効果が明確に見えるかを検討し、仮説を支持する結果が得られた。 ―根強い批判はあるが、基本的に支持されている(Morgan & Shanahan, 1997)
引用文献:
社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
プライミングとフレーミング
プライミング効果(Priming Effect)Iyengar & Kinder, 1987; Iyengar, 1991
―争点や候補者について視聴者が評価・判断的に考慮する内容をマスメディアが形作ること
90年代初頭のブッシュ大統領に対する評価についてのプライミング効果研究(Iyengar &b Simon, 1993)
―ブッシュ大統領は、湾岸戦争によって、クウェート侵攻後のイラクのフセイン大統領の立場を大きく弱めたことで 知られる。戦争に至る3つの時期で大統領の評価要因を検討した所、進行前の時期には経済政策のウェイトが重く、 大統領の全体評価はひどい経済運営という認識によって大きく下げられていた。ところが、侵攻後の開戦準備期や 戦争中には対外政策が重いウェイトをもつようになった。戦争報道の膨大さによって戦争という争点が大統領の全体 評価の中でプラス方向に「プライム(点火)」され、彼の対外政策のインパクトを強めるのに大きく寄与したとされる ―ある争点を心の中により検出的に(認知しやすく)させる議題設定効果とは異なる(Scheufele & Tewksbury, 2007)
フレーミング効果(Framing Effect)Iyengar, 1991
―報道の枠組みの呈示の仕方によって視聴者に異なるインパクトが生じる事 ―同じ不況というテーマを扱っても、数か月前に失業したAさんといった現場の生の声を届けた場合は、視聴者がAさん 個人の問題で、彼が何とかすればいいと判断しがちであったのに対し、不況に対していかなる政策が必要か識者の声 を届ける報道では、失業問題は行政的な政策が必要だと主張した。 ―メディアのフレーミングそのものに多様性があるため、フレーミング研究の相互の統一性はあまり高くない e.g., 9.11テロの報道が戦争フレームか犯罪フレームかを分析し、その受け取られ方を研究する(Edy & Meirick, 2007)
引用文献:
社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
沈黙の螺旋(Spiral of Silence)理論(Noelle-Neumann, 1966)
―自分の意見を多数派だと認知すると公に意見を表明しやすくなり、少数派だと認知すると意見を表明しにくくなるとする理論 ―人間には孤立への恐怖があること、周囲を金津氏その意見の動向を把握する準統計的能力が存在すると仮定 ―どの意見が多数派で、少数派であるのかはマスメディアが持続的に提示する事が多い →公的な表明/沈黙が、らせん状に増大することによって世論の収れんが起こる ―第三者効果や敵対的メディア認知などが関連理論として提案されている
引用文献:
社会心理学 (キーワードコレクション)
KEWORD:
弾丸効果論、限定効果論、新強力効果論、オピニオンリーダー、議題設定効果、第三者効果、教化効果、プライミング効果、フレーミング効果、沈黙の螺旋理論
マスメディアの作る情報環境と情報処理する受け手
マスメディア研究の全貌を俯瞰するために必要な3つの視点 @情報環境という視点 A受け手の情報処理という視点 Bソーシャル・ネットワークとの関連性
情報環境
―ニュースに代表されるように、マスメディアは私たちの情報環境を作り出している ―社会の出来事や争点、近い将来に予想される出来事を含めた世の中の今を伝える(マスメディアの環境監視機能) ―何らかの形で選択と編集を経て、伝えられたもの ―政治的バイアスや社会的なステレオタイプが紛れ込むこともある
対人的情報環境
―ソーシャル・ネットワークに代表されるように、対人的な情報環境も存在する ―対人的情報環境が人々に届く情報を妨げ、偏らせている
インターネットの情報環境の1つ
―どこまでバイアスのある情報環境となっているのかはまだ定かではない ―インターネットはマスメディアより能動的な情報集の手段であり、送り手のバイアスを回避する可能性を持つ ―一方で、受け手が自身のバイアスに沿うよう情報収集をすることで、バイアスが強まる可能性もある
情報処理する「受け手」
―情報環境からの情報を情報処理する個人という視点に対する注目の高まり ―議題設定効果では、こうした受け手の情報処理の在り方によって効果が変化することを随伴条件と呼んでいる ―アイエンガーのプライミング効果研究も、個人の支持政党によって効果が変化すると報告されている(Iyengar & Kinder, 1987)
選択的(情報)接触仮説
―情報処理をする人間は、受動的にメディアの影響を受ける一方で、能動的・選択的にメディアに接しているという仮説 ―インターネットのようなメディアの出現によって、ますます注目が集まってきた ―自らの志向性に反する情報に一切接触しなくてもニュースを追える、など ―ソーシャルネットワークの類同性の問題と同様の問題が生じている(詳細は“ソーシャルネットワーク”参照)
引用文献:
社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
制度的送り手と非制度的送り手
―マスメディアは制度的送り手であり、そのマス性によって多くの場合、戦略的中立性を示す ―普遍性という枠組みから外れることは自らの首を絞めることにつながるため ―誤った情報や偏った情報の流布は問題が生じて責任を問われる可能性がある ―20世紀に入って以来、中年層以下のマスメディアへの接触量が相当程度に減少している ―社会の情報インフラが失われてしまう可能性もある
インターネットの制度性と非制度性
―インターネットの制度性は混淆している ―情報の信ぴょう性は読む側の判断に常にゆだねられている ―責任を問われる可能性が低い多め誤ったステレオタイプが流布されることもある
引用文献:
社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
KEWORD:
情報環境、対人的情報環境、選択的接触仮説、制度的送り手と非制度的送り手
対人的情報環境との交互作用
ソーシャル・ネットワークで構成される対人的な情報環境の有力な情報源としてのマスメディアやインターネットの働き ―人は社会を語る時にマスメディアやインターネットのような情報源を引用する(Delli Carpini & Williams, 1994) ―オピニオンリーダーの影響力との関わり ―リーダーは情報を取捨選択し、自集団のリアリティに適したものを選び、集団のイノベーション採用が成功する可能性を高める
広告のアプローチと対人的情報環境
―広告のターゲットを直接の消費者に絞るのではなく、消費者の周辺に居る他者にアピールする e.g., 家族単位の消費に関わる商品である自動車や家の広告、クッキング用品の広告
ニュースのリアリティと対人的情報環境
―人々はニュースに驚くのみならず、事件の感情を共有し、実感としてそれを受け止めるために会話しあう(Greenberg, 1964) ―インターネットでもそうした可能性がみてとれる ―全国調査でニュースメディアと政治的な議論の関連性を検討した研究のまとめ ―「オンラインであろうとオフラインであろうと、市民の対人的なコミュニケーションは、マスメディアからの情報接触と 市民参加とを仲立ちする決定的な役割を果たしている」(Shah et al., 2005) ―「インターネットも含めて各種メディアの利用が、友人や家族との政治的会話を増大させ、それがインターネットを通じ て市民生活について語るコミュニケーションを増大」(岡)
引用文献:
社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
KEWORD:
対人的情報環境、広告、ニュースのリアリティ
インターネット
メディアとしてのインターネット技術は、自らの発信行為によって「参加する」メディアの世界へと変えた ―送り手と受け手との間の双方向性
インターネットの効果研究の在り方
―双方向性という特色が、インターネットの効果研究の難しさをもたらしている ―送り手から受け手への一方向的な影響の矢印が仮定できてこそ、効果を検討出来るため ―オンライン広告研究なども、広告手法などに大きく左右され、実務レベルならばともかく、一般化しやすい研究は難しい
インターネットがもたらした情報処理課題
―受け手の能動性の獲得とともに、どのニュースをどんな形で手に入れるのか選択しなければならない ―どんなサイトや情報を信用するんかという信頼性やリスク判断の課題も突きつけられる
引用文献:
社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
人間の情報処理能力を拡張したか
―情報処理との記憶能力の制約からの解放という点で、インターネットは巨大な貢献をしている ―一方で、膨大な情報量が情報オーバーロードや信ぴょう性判断の難しさを生む可能性を常にはらむ e.g., ウィキペディアの項目を政府の利害関係者が書き直していたことが発覚した事件(2007年) ―インターネットにおける選択的接触が生み出すバイアスの問題を生み出す可能性もある ―新聞やテレビのユーザーに比べ、インターネットユーザーの選択的接触は高いという報告(Katz & Rice, 2002) ―自分の指示する主要争点に関連するサイトばかりを見て回る有権者は多数派ではないという反証も(Horrigan et al., 2004) →現時点ではどちらが正しいか決定打は出ていない
知識拡大の場としてのインターネット
―上述した問題をはらみながらも、知識共有コミュニティサイトは知識蓄積度も精度も高い ―コミュニティサイトでは、なぜこのようなパラドックスが起きるのか? 1. メディアとしてのオープン性 ―提供された知識のクロスチェックが可能であり、反証ルートの存在が知識提供の手続き的公正さにつながる 2. コミュニティの核となる「正しさ」に対する支持と互恵性規範の存在 3. 検索機能の充実と情報提供者に対する評判の仕組み
引用文献:
社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
人間の社会的制約を拡張したか
―国境を越え、人間社会という共同体が持つチカラを拡張したかのように見える ―一方で、「社会的リアリティ」をメカニズムが欠如がしがちである特徴(池田, 1997)
社会的リアリティを支える3つの層
1. 何が制度的に信頼できるかを見失うことで、社会的信用に必要な情報が欠落する 2. 社会的存在感もしくは対人的感覚が欠落する ―顔を見ないと信用できないという言い回しは非言語情報の重要性の表れ 3. 常識の非共有によって社会的信念が共有できない →リアリティの欠落がインターネットにおける対人コミュニケーションや集団の問題を生む
引用文献:
社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
CMC(Computer Mediated Communication)研究
非対面相互作用場面におけるコミュニケーションの特徴
―攻撃的な感情のやりとり、意見の集団極性化、発言の平等性などが代表的な現象 ―なぜ、このような特徴が生まれるのか?
1. メディア特性論
―CMCは伝達不可能な情報の多い状況であることがコミュニケーションに影響を与えている a. 視覚情報の非伝達は相手がそこにいるという感覚(社会的存在感)を希薄にする b. 外見や表情などの非言語手がかり、視覚情報の伝わりにくさは、対人配慮不足を招く ―視覚情報の多寡がコミュニケーション過程を規定する「手がかりの少なさモデル」「社会的手がかりの減衰モデル」の存在 →社会的抑制のきかない現象が発生し、極端な意思決定がなされやすい
2. 社会的文脈アプローチ
―CMC場面のコミュニケーション過程は、社会的文脈によって基本的な性格が規定され、メディア特性が性格を強化 ―社会的文脈によっては、攻撃的感情のやり取りなどが抑制されるときもある ―関係の進展によって社会的文脈による影響が強くなる
CMCは、対面コミュニケーションと遜色ない媒体になりうるか?
―インターネット上でも相互作用を重ねることで、時間的効率は悪いが、非言語的手がかりの問題を解決(Walther, 1992) ―顔文字文化の成立は、メディアによる制約を克服した例とも言える ―記録として容易に保存可能で、後から参照できることが、リアリティ診断を助ける ―コミュニケーションの蓄積性がオンラインコミュニティで対人関係が強固に形成されることを支える(宮田, 2005)
対人レベルのリアリティ保障のプロセスの抑制
―匿名性の協調、人の出入りの激しさ、信ぴょう性を欠く情報を意図的に流す参加者、リアリティの補償を図る規範の欠如etc… ―そこにある意見や情報のリアリティの制度的、対人的な支持を難しくする ―意見や情報そのものがリアリティの根拠とならざるを得ない ―むしろ、リアリティを問わない、リアリティすれすれのコミュニケーションを楽しみことが目的となることも ―中心的な人物の入れ替わりが緩やかで、同じ場に集まる人々の間では対人的なリアリティが維持しすい e.g., オンラインゲーム上で長期にわたり同じグループとして活動したプレイヤー同士の相互信頼形成(小林・池田, 2005)
引用文献:
新・心理学の基礎知識 (有斐閣ブックス)
、
社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
KEWORD:
インターネット、社会的リアリティ、CMC
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