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心理学の社会への応用と貢献


心理学を学習する学生にとって、あるいは一般の人にとって、「心理学は何をやっているの?」という疑問の次に多いであろう質問は、おそらく「心理学を勉強して何の役に立つの?」といった疑問でしょう。
ここでは、現在手に入る資料から分かる範囲で、心理学が社会にどのように貢献しているのかを10個に分けてご紹介します。

@メンタルヘルスとの関わり

心理学の社会貢献という意味では、最もイメージとして強いのが誰かのメンタルケア、メンタルキュアをするという役割でしょう。 むしろ、心理学の社会貢献といえば、これだけしか思いつかないという人も少なくないと思います。臨床心理士に代表されるようなカウンセラーとしての心理学もここに該当します。

Aコンサルティングとの関わり

意外と多いのが、コンサルタント業とのかかわりです。心理学では古くから産業心理学などがこの領域に関わっていましたが、この場合は、心理学だけでなく、脳科学や、人間工学といった他の「人間を扱う学問」的知見との相互作用が必要になります。
国内ではメディアなどで何度も取り上げられたことのある「大阪ガス 行動観察研究所」などが有名です。出版されている本も複数ありますが、特に『ビジネスマンのための「行動観察」入門 』』は、分かりやすくお勧めです。


B司法との関わり

心理学が司法に関わるとき、その関わり方には大きく分けて2つあります(細かく分類すればたくさんあります)。一つ目は、一般にもよく知られる精神鑑定です。被告の精神状態や責任能力を問うため、精神科医や心理学者、家裁調査官が鑑定を行うことがあります。
しかし、もう一方に関しては、日本では意外と知られていません。それが目撃証言の妥当性の判定です。特に認知心理学の記憶分野などが司法とよく関わっています。私たちは誰かを見たという時、何かを見たという時には、状況によって様々なバイアスがかかることが知られており、それが目撃証言に深刻な影響を与えることもあるのです。 実際、こうした目撃証言の妥当性をうかがうため、日本弁護士界が心理学者に目撃証言の判定を依頼する事も少なくありません。こうした分野に関して紹介している本としては、この分野の第一人者である厳島ら著の『目撃証言の心理学』などがあります。


ただ、いきなりよく分からない分野にお金を使うのはちょっと…という方もいらっしゃるかもしれません。そういった方には、まず海外のこの分野における第一人者であり20世紀の心理学者100人にも選ばれたエリザベス・ロフタスの動画の視聴をお勧めします。以下に動画へのリンクを張り付けておきます。
エリザベス・ロフタス 「記憶のフィクション性」

Cデザインとの関わり

これも心理学が社会に利用されている例の1つです。心理学は、学問レベルでもそうですが、実際的なレベルでも工学との関わりが強い分野です。例えば、心理学的知見をベースにウェインシェンクという研究者はアプリやWebのインターフェースをデザインすることを提案し、『インタフェースデザインの心理学 ―ウェブやアプリに新たな視点をもたらす100の指針』という著書を執筆しています。

実際に、こうした書籍をもとにWebデザインを考えている企業もあります。
説得力がグンと上がる!UIデザインの心理学

他にも、こうした工学系の方から強い支持を得ているのがギブソンの提唱した「アフォーダンス理論」であり、それをもとにしたデザイン論です。近年では、Appleに代表されるように直感的に利用できる「ユーザビリティ」を強く意識したデザイン論が注目されてきています。
これに関しては心理学の方では以前から多くの関連書籍が出版されており、この分野の第一人者である認知科学者ノーマンの『エモーショナル・デザイン』や最新の『未来のモノのデザイン』などは建築家や技術者に広く愛されています。


そして、これも多いのがパーソナル・スペースや群集行動を利用した空間のデザインです。こうした社会心理的知見は以前から空間について考えることの多い建築家などに広く利用されてきました。現在では、もっとマクロなレベルの動きを捉えるため、シミュレーションなど情報工学的な分野が多く活躍しています。

D教育との関わり

心理学と教育は昔から切っても切り離せない関係にあります。教育との関わりに関しては、間接的な関わり方と直接的な関わり方の2つがあります。間接的な関わり方というのは、教師の育成です。教員免許の取得には、何らかの心理学に触れることが必須になります。
一方、より直接的な関わり方としては、教育現場へのアプローチがあります。知能テストや教育評価などは、心理学が教育に利用されているその最たる例でしょう。他にも学習環境のデザイン、授業の仕方、動機づけ、学習成績の向上などもこの分野の貢献として挙げられます




E経済との関わり

最近多いのがこの経済との関わりです。特に、心理学が経済学と関わる時には、「行動経済学」と名前を変えることもあります。経済学が従来暗黙の内に想定してきた合理的な人間モデルだけでは説明できない経済活動の存在が知られるようになってから、こうした心理学の知見が取り入れられるようになりました。 この分野の最も有名な研究者としてはノーベル経済学賞を受賞した、ダニエル・カーネマンなどがいます。
ダニエル・カーネマン 「経験と記憶の謎」

日本の事例ではありませんが、こうした行動経済学の知見は、マーケティングに広く利用されており、例えば、値段の設定に心理学的知見を活かした事例の紹介として『値段の心理学 ―何故カフェのコーヒーは高いと思わないのか―』などもあります。 この本を読んだ後では、値段1つ決めるのにもこんなにたくさんのことを考えなければいけないのかと驚きを抱くことでしょう。


F健康との関わり

日本ではあまり多くありませんが、海外ではダイエット、禁煙、禁酒、脱ドラッグ依存セミナーなどのコーチングで心理学が強くかかわっています。日本では医師が関わることの多いこうしたセミナーも、臨床的なレベルに至る前の健康志向的な指向が広まるにつれて、 心理学に携わる人が実践に参加することも多くなっています。


G地域との関わり

犯罪抑止、ポイ捨て防止、環境問題といった地域をよりよくしようという試みから、現在はやりの地域振興まで、ここには様々なものが含まれます。有名なものとしては、青色街頭による犯罪抑止の試みがよく知られていることでしょう。実際のところ、青色ランプに犯罪抑止効果があったかどうかは現在では疑問視されていますが、 心理学が社会とかかわった実例には違いありません。他にも、規範的メッセージを使った環境問題への配慮を促す試みなどが報告されています。最近、話題になったのが自己客体視を利用した放置自転車対策の施策です。こうした地域との連携が今心理学では注目されています。
“目力看板”が効果発揮も「景観損なう」「怖い」の声  神戸の放置自転車対策

他にも、観光や地域振興との関わり方としても心理学が注目されています。『観光の社会心理学』は「心理学が観光に活かされた例」ではありませんが、「観光を心理学から分析した例」として豊富な事例をもとに紹介する良書です。


H政治との関わり

心理学は政治と関わることが少なくありません。日本では、諸外国に比べて影響力が大きくありませんが、政治家のスピーチから法律の決定、兵隊の雇用、警察の捜査まで心理学は広く、そして深く関わっています。歴史的にもアメリカで行われた入隊時の知能テストや、航空機内での能力テストなどは 心理学を専攻した方ならば必ず聞いたことがあるでしょう。政治と心理学は切っても切り離せない関係にあります。


I恋愛との関わり

日本では、恋愛と心理学というと、心理学専攻の方であれば「またか……」という感想を抱かれるかもしれません。そのぐらい国内には「不真面目な」恋愛心理の本やテクニック本が売られています。 ですが、海外では夫婦間の関係を取り持つためのコーチングを心理学者が行っていたりと、「真面目な」試みが行われています。NHKの動画でその試みの一端を見ることが出来るので興味のある方はぜひ(有料です)。
NHKスペシャル 女と男 最新科学が読み解く性 第2回 何が違う?なぜ違う?


いかがでしたでしょうか?ここでは、古くから知られていたもの、現在国内外で注目されているものだけを集めましたが、交通心理学や看護心理学など、他にも心理学は様々な場面で活躍、応用されており、枚挙にいとまがありません。 意外と触れたことのない、心理学と社会の関わりについてご紹介できていれば幸いです。