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社会心理学とは
社会心理学は何を研究しているのか?
個人心理学との対比から
心理学の定義
―行動の科学と呼ばれる
では、個人心理学とは?
―環境との相互作用を行う生活体に注目し、生活体の条件が変わるに従って行動がいかに変わるか という問題意識から個人の行動を科学的に究明する学問 e.g., 認知心理学、神経心理学、性格心理学etc……
では、社会心理学とは?
―個人の行動を他者に対する刺激あるいは反応として捉え、他者との相互作用の観点から個人の行 動を科学的に研究する学問
引用文献:
社会心理学用語辞典
会合地盤(Meeting Ground)としての社会心理学(Newcomb, 1950)
―社会心理学は個人心理学と社会学ないし文化人類学の間の会合基盤を提供する存在 ―個人心理学は有機体の生活機能を重要な研究領域とする一方でほとんど文化を問題にしない ―社会学・文化人類学は、人間生活の内に作用する原形質をほとんど問題にしない →両者のアプローチを結びつける場を提供するのが社会心理学
引用文献:
社会心理学用語辞典
社会学的社会心理学と心理学的社会心理学
―社会心理学には2つのアプローチがあるとの指摘
@社会学的社会心理学
―個人と社会の関わりを、社会学に傾斜した立場から解明しようとするもの ―「社会」の立場を強調したデュルケーム的考え方(Durkheim, 1898) ―政治的、経済的、社会的条件がいかに行動を規定するかが問われる →社会過程の分析を重視
A心理学的社会心理学
―個人の行動の追及に主眼を置き、個人の行動を規定する要因の一つとして社会的条件に目を向ける ―「個人」の立場を強調したオールポートの考え方に立脚(Allport, 1924) →心理過程の分析を重視
二つのアプローチの対立
―オールポートは社会心理学の対象は他者の行動によって影響される個人であるとした ―社会的「刺激」の個人に対する影響を適切に研究する方法はよく統制された「実験」 ―集団的概念の安易な使用を「集団の誤謬(Group Fallacy)」として斥けた ―社会学的社会心理学からの反論 1. 社会的事実そのものは個人の意識とは独立で、それに外在する 2. 「集合表象」は個人に対して一種の「社会的拘束」として働く ―集合表象を前提としない純粋な「個人表象」の存在を否定
ヨーロッパの社会心理学とアメリカの社会心理学
―現代のアメリカ社会心理学はどちらかといえば、個人に焦点をあてたアプローチ ―近年のヨーロッパ系社会心理学では、より“Societal”な心理学を発展させようとする動きもある (Himmelweit & Gaskell, 1990) ―個人中心のミクロな分析と社会中心のマクロな分析とをどのような仕方で結合するかは現代でも課題
引用文献:
社会心理学用語辞典
、
現代社会心理学
社会心理学の研究対象
その語源から
―社会的(Social)という言葉は仲間(Socious)から来ている ―何らかの意味で仲間の存在、他者の存在を前提とするような場面での行動が研究対象
オールポートの定義との関わり
―社会心理学とは「他者の現実的、想像的、あるいは含意的存在によって、諸個人の思想、 感情、および行動がどのような影響を受けるかを理解し説明する試み」Allport, 1985 ―個人がどのような影響を受けるかだけでなく、どのような影響を与えるかも研究対象
ミクロ(個人の心理)からマクロ(社会)まで
@個人の心理過程
―自己、帰属過程、態度、態度変容、対人認知etc…
A対人的過程
―攻撃、援助、説得、対人魅力、対人コミュニケーション、対人関係etc…
B集団内行動
―集団の構造・機能、社会的勢力、リーダーシップetc……
C集団間行動
―偏見、差別、協力と競争、取引、交渉etc…
D社会の水準
―集合行動(流言など)、普及過程、消費・購買行動etc…
引用文献:
現代社会心理学
、
心理学辞典
KEWORD:
社会心理学の定義、会合地盤、社会学的社会心理学、心理学的社会心理学
社会心理学の理論的考え方
社会心理学的事象に対する実証科学の必要性
@しろうと理論の蔓延
―社会心理学が研究の対象とする事象は、日常、直接人々が経験して、熟知していることが多い ―生活人として、日常的な観察や経験から既に何がしかの考えを持っている ⇒ しろうと理論(Lay Theory) ―社会的事象に対しては様々なしろうと理論があることが明らかにされている(Furnham, 1951)
しろうと理論と科学的理論
―しろうと理論は科学理論と一致する事もあるが、大概において不十分で正確性を欠く ―科学的理論と対立する事もある →社会心理学は、社会心理学的現実を正確に捉えるための科学的な実証方法に、依拠しなければならない
A後知恵バイアスの弊害
―社会心理学的事象は日常性と熟知性によって実証結果を待つまでもなく「分かりきったこと」とも感じられる ⇒後知恵バイアス(Hindsight Bias)Fischhoff, 1975 ―日常的な事象として人々が豊富な知識を持っていればいるほど、後知恵バイアスは生起しやすい ―豊富なしろうと理論によって説明されるため ―しかし、しろうと理論は社会心理学的現実を反映していない可能性もある →社会心理学は、バイアスを避けるため客観性を担保する科学的な実証的方法に依拠しなければならない ただし…
しろうと理論の有用性
―しろうと理論は正確さを欠くが、研究のとっかかりを与えるという点で有用 ―しろうと理論による解釈は、科学的理論によって相対化され、実証的研究によって制限され、否定されうる
引用文献:
心理学研究法5 社会
理論的背景の多様性
社会心理学的理論の多様性
―社会心理学的現象を現象を説明するための理論は多岐にわたる ―ニューカムの述べるように、個人心理学と社会学や文化人類学とが出会う場を提供しているため(Newcomb, 1950) ―主要な説明理論としては以下の通り
1. 動機づけ理論
―人々の欲求や動機が、日常の知覚や態度や行動に影響すると考える ―個人にこれらの動機づけを喚起させる社会的状況や対人関係を特定することに焦点をあてる e.g., 達成動機や親和欲求、承認欲求などの理論
2. 学習理論
―人々の現在の行動が、過去の経験に依存していると考える ―学習の三つのメカニズムである「連合」「強化」「観察学習」を通して獲得された習慣が原因と考える e.g., 社会的学習理論など
3. 認知理論
―現在の行動が、人々が現在の状況をどのように知覚、解釈しているかに依存すると考える ―知覚や解釈は、様々なバイアスを持っており、主観的に構成されたもの ―このバイアスの性質が現在の特定の行動を生じさせると考える ―ゲシュタルト心理学の流れをくむ e.g., 社会的認知理論など
4. 意思決定論
―様々な行動選択肢の損得を、合理的に比較考慮して、最小の損で最大の得をもたらす行動を選択すると考える ―動機づけや認知バイアスによって合理性を欠いた選択を行うことも視野に入れる e.g., 期待価値理論など
5. 相互依存論
―お互いに個人の思考や感情や行動が相手の行動の結果に依存すると考える ―個人の行動の分析ではなく、複数の個人の相互作用を扱う e.g., 社会的交換理論など
6. 社会・文化理論
―人々の文化的、社会的な背景が、思考や感情や行動を規定すると考える ―社会・文化理論は、特定の集団の中の特定の社会的文脈の中で生じる行動を説明する事に長ける
引用文献:
心理学研究法5 社会
理論の統合か中範囲の理論化か
―社会心理学が扱う事象の範囲は極めて広い ―どのひとつの理論をもってしても、全ての範囲を視野に収めることはできない
理論の統合
―動機づけ理論と認知理論に対する古典的な考え方を例に ―事象の説明に、動機づけ理論と認知理論のどちらが妥当かを決定しようとする研究(Tetlock & Levi, 1982) ―動機づけの生起や効果に認知が関わるし、認知は動機づけによって方向づけられる →どちらが正しいかとは結論づけられない ―最近の考え方 ―ある社会心理学的事象を説明する際に、異なる理論的伝統を持つ概念の両方を用い、相互関係を明らかにする ―理論的統合によって、それぞれの伝統が視野に収めてきた社会心理学的事象の範囲が結合し、広がる
中範囲の理論化
―説明しようとする社会心理学的事象の範囲を限定して、その範囲の中では最も妥当な理論を確定する ―社会心理学的事象全般を統一的に理解しようとしない ―特定の社会的行動やトピックに焦点を合わせ、上述のいずれかの理論的枠組みの中で説明しようとする
引用文献:
心理学研究法5 社会
KEWORD:
社会心理学の方法論、しろうと理論、後知恵バイアス、社会心理学の説明原理の分類
社会心理学の発展と広がり
新しい社会心理学
@文化心理学
―文化の違いが、人々の心理過程にどのような影響を生み出すのかを研究する分野 ―「心の普遍性」の前提を「完全には」受け入れない点が特徴的で、従来の社会心理学理論と反する e.g., 文化的自己観、思考スタイル研究etc……
文化心理学ヘの批判
―文化心理学の理論はどのような文化差が存在するのかという事実を「記述」しているが、文化差が なぜそもそも生じているのかという原因を「説明」していないという批判。(山岸, 1998) ―山岸はその代替案として、「適応」という概念を用いて文化差の原因を理論化する事が可能だとしている
文化心理学のおすすめ書籍
文化心理学〈上〉心がつくる文化、文化がつくる心 (心理学の世界 専門編)
下巻と合わせての購入をお勧めする。文中の冒頭にも書いてあるように「文化心理学を楽しく学べる」書籍。 内容も平易な上、文化心理学の考え方などをきっちり紹介されているので、初学者のみならず全ての人にお勧め。
A進化心理学
―「自然淘汰」の結果、環境に適応的な遺伝子を持つ個体が集団内に増えるという考え方に基づいて人間の心を説明 ―現在の人間が持つ心は適応的な性質を持つため自然淘汰の中で生き残り、結果的に現在まで受け継がれたものと想定 ―「社会状況における人間の心理や行動」もまた、先祖たちが獲得してきた、適応的なメカニズムということになる ―進化心理学の特徴は、生物としての人間という視点を提出している点 ―人間が動物と連続性のある存在であり、心は恣意的に作られるものではないという主張
近接因と究極因
―従来の人間科学・社会科学は、主に近接因に着目してきた ―研究対象となる心理や行動を生み出す直近の状況要因や心理現象のこと ―進化心理学は、究極因に着目 ―そもそもなぜ特定の心理・行動現象が存在するのか、それはより多くの遺伝子を残すうえで一体どのように役立ってきたのか
進化心理学への批判
―合理的な「適応」によって人間行動が規定されているという考え方自体への批判 ―人間のこころは、人が生まれた後に、社会や文化の影響を受け手形成されるものだと指摘 ―しかし、進化心理学は文化の影響を否定していない ―むしろ人間は、進化の結果、文化を受け入れ、変革してきた ―様々な文化差を説明するためにも、「適応」の概念を導入する事が有効であるとの主張もある(山岸, 1998)
進化心理学のおすすめ書籍
進化心理学自体の入門書としては、『進化心理学入門』が進化心理学の考え方まで紹介されており、お勧め。
進化心理学入門 (心理学エレメンタルズ)
社会心理学との関わり、社会構造との関わりについて学習したい場合は、『進化と感情から解き明かす 社会心理学』がお勧め。最新の考え方や理論も紹介されている。
進化と感情から解き明かす 社会心理学 (有斐閣アルマ)
引用文献:
よくわかる社会心理学 (やわらかアカデミズム・わかるシリーズ)
社会心理学の学際性
―近年、社会心理学は政治学や経済学、経営学など、従来関わりの深かった分野だけでなく、多くの分野との関わりが深くなっている ―ここでは、それらの一部について読書案内をする
社会言語学との関わり
社会化階層や構造によって言語使用や言語コミュニケーションが変化するとする社会言語学との関わりが近年強くなっている。 海外では『Journal of Language and Social Psychology』のような言語の社会心理学に関する雑誌まで出版されている。
言語の社会心理学 - 伝えたいことは伝わるのか (中公新書)
ことばの社会心理学
道徳や倫理といった哲学との関わり
最近では、道徳や倫理といった哲学分野の領域であった概念を科学的に実証する試みが増えている。科学哲学と呼ばれるこの 分野の論文は『Journal of Personality and Social Psychology』など権威ある雑誌にも数多く掲載されている。紹介している 書籍の著者は、この分野の代表的研究者でもあるジョナサン・ハイト。
社会はなぜ左と右にわかれるのか――対立を超えるための道徳心理学
臨床心理学との関わり
近年では、社会心理学の知見を臨床心理学に活かすばかりでなく、臨床的知見を社会心理学にも取り入れようという試みがある。 臨床社会心理学と呼ばれるこの分野に関する書籍は増加傾向にあり、臨床的手法と社会心理学的手法を合わせた研究なども考案されている。
はじめての臨床社会心理学―自己と対人関係から読み解く臨床心理学
神経科学との関わり
潜在的態度への関心が高まるにつれて、またfMRIなどの新しい測定法が現れるにつれて、社会心理学と神経心理学が急激に関係を深 めている。平易な書籍は出版されていないが、ハンドブックや研究法に関する書籍などでは既にその重要性が指摘されている。
心理学研究法5 社会
社会的認知研究: 脳から文化まで
他にも、司法との関わりなども叫ばれており、続々と研究も発表されているが、まだ「体系立てられて」説明されている書籍が無いので、 ここでは割愛する。
KEWORD:
社会心理学の学際性、文化心理学、進化心理学、臨床社会心理学、言語の社会心理学、神経科学、実験哲学
→社会心理学の用語一覧へ