集団間関係

　外部との境界があり、その成員間に積極的な心理的、または機能的な相互関係や相互行為のある集まり
　　―20代の〜といった「統計的集団」、日本人という「社会的カテゴリー」、「集合」、「群衆」とは区別される
広田の集団の定義(広田, 1963)
　�@対面的熟知性
　　―成員が限られており、名前や行動特徴で外部の人と区別されうる2人以上の集まり
　�A一体感の知覚
　　―成員自身に自分たちが集団を構成しているという一体感がある
　�B目標の共有
　　―成員相互に共通の目標を持つという実感がある
　�C相互活動
　　―成員相互がコミュニケートし合い、影響しあって、欲求や行動の相互依存性がみられる
　�D地位と役割の分化および規範の共有
　　―成員相互に期待が安定し、様式化する。個人の行動に許容範囲や基準を設定する
引用文献:社会心理学用語辞典

シンタリティ(Syntality)Cattell, 1948
　集団は、あたかも個人と同様な個性を持つ存在であり、その集団の個性をシンタリティと呼ぶ
　　―集団の基本的行動傾向の総体
　シンタリティの特性次元(Hemphill et al., 1959)
　　1. 自主性(autonomy): 集団活動が他から支配を受けないで自主的に機能しうる度合
　　2. 統制度(Control): 成員の行動を統制している度合
　　3. 柔軟度(Flexibility): 集団活動が形式や規則に縛られない度合
　　4. 陽性度(Hedonic Tone): 集団雰囲気の愉快さや、成員が明るく活動できる度合
　　5. 等質度(Homogeneity): 年齢や性など成員の類似度
　　6. 親和度(Intimacy): 成員相互の親しさや交友の度合
　　7. 参加度(Participation): 成員の集団活動への参加、専心の度合
　　8. 開放度(Permeability): 集団への加入や脱退の容易さの度合
　　9. 結集度(Polarization): 成員が集団の目標に結集している度合
　 10. 有力度(Potency): 集団が成員の欲求を満足させることによって、成員から重要視される度合
　 11. 規模(Size):　 集団成員の人数
　 12. 安定度(Stability): 成員の移動など、集団の性格が変化する度合
　 13. 分化度(Stratification): 成員の地位や役割の分化の明確さの度合
　 14. 粘着度(Viscidity): 成員相互の間に葛藤が無く、集団がまとまっている度合
引用文献:社会心理学用語辞典

自身が所属する集団のことを内集団(In-Group)、それ以外の集団を外集団(Out-Group)と呼ぶ
　―集団間の関係において重要な心理学的問題とは、「集団間態度」に関するもの
　　―態度の認知的要素: ステレオタイプ
　　―ステレオタイプに加え「好き―嫌い」といった感情的要素: 偏見
　　―ステレオタイプや偏見に基づいた行動: 差別

対立の起源
　―集団間態度でも特に問題となるのは、敵意や対立感情といったネガティブなもの
　　―なぜ集団間に対立が起こるのか?
　実際的利害の衝突(Realistic Group Conflict)Sherif et al., 1961
　　―外集団の存在によって内集団が目標達成できないという状況においては外集団に対する敵意や偏見が生起する
　　　―シェリフのサマーキャンプ実験
　　　　e.g., 利潤を得ることを目的とした企業、勝利を目標としたスポーツ集団etc……

　社会的支配傾向(Social Dominance Orientation)Sidanius & Pratto, 1999
　　―他者を支配するする力を備えた者が高い地位に上るのは当然だという信念
　　　―偏見の強さにつながる

　システム正当化理論(System−Justification Theory)Jost et al., 2001
　　―高地位と低地位の集団という格差がある状態で、人々が格差を肯定し、維持することを望むような心理過程
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

実際に対立が表明されるとき
　偏見が許されない世界での微妙な偏見
　　―一般的に、他者に偏見を向けてはいけないという規範が存在
　　　―直接的には差別されないなど、ネガティブな集団間態度は微妙な形となって表出される
　　　　e.g., 無意識に相手集団との接触を避けようとする行動の増加(Dovidio & Gaertner, 2004)
　　　―偏見を持つことは忌まわしいと思っている人ほどこの傾向に陥りやすい

　象徴的偏見(Symbolic Prejudice)Sears & Funk, 1991
　　―自分の経済的利害で投票をしたり争点についての意見を持つよりは、政治的なシンボルに対して投票を行う
　　　―政治的なシンボルにはしばしば潜在的に外集団に対する偏見が潜んでいる
　　　　e.g., 「自助努力」と「小さな政府」とを減税によって強調するリパブリカニズムのシンボルが喚起され、減税派が支持されたが、
　　　　　　　その際、調査データの分析によって、投票者たちは、「非効率的な公共サービスをする」公務員や「本来政府が援助せずに
　　　　　　　自助努力すべき」黒人貧困層に対する偏見意識が存在した
　　　―社会的弱者も他人に頼らず自力で道を切り開くべきだといった価値観を持つ人に見られる
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

―外集団に対する態度は、そのすべてが悪感情にもとづくわけではなく、ポジティブなものもある
　―いずれにせよの感情を含むにせよ、外集団への認知は過度に一般化されやすいなど複数の特徴を持つ

　錯誤相関(Illusiory Correlation)Hamilton & Gifford, 1976
　―集団の違いと行動傾向の間に、ありもしない相関関係が錯覚されること
　　―少数派の事例は目立ちやすく、「通常」と異なる行動をすると数多く生起していると錯覚されがちな傾向
　　―仮に集団に占める行為者の割合が等しかったとしても、少数者の行動は特に多いという錯覚を生む

　カテゴリー化(Categorization)
　―人間は、互いに似ているものや人を分類することによって、効率よく情報を処理できる
　　　e.g., 年齢、人種、職業etc…
　　―カテゴリー化によって、カテゴリー内で混同が起きる
　外集団均質性(Out-Group Homogeneity Effect)Judd & Park, 1988
　　―外集団成員に対しては互いの類似性や典型的な属性が目につき、混同されやすい

　判断基準の使い分け
　―偏見を持つことは望ましくないため、判断基準を使い分ける認知方略によって、偏見を維持する
　 　ステレオタイプ内容モデル(Stereotype Content Model: SCM)Fiske et al., 2002
　　―対人認知の基本次元である能力(Competence)と温かさ(Warmth)の使い分けが、偏見の維持に関わることを指摘したモデル
　　　e.g., 女性や老人に対する「能力はないけれど、優しい」といったステレオタイプ
　　　―能力の判断は対象の「社会的地位」に基づき、地位が低いほど「能力がない」と判断される
　　　―温かさの判断は「競争の相手(敵)」か「味方」かに基づき、「味方」は優しいと評価される
　　　　―これらの次元は、各集団に対して怒る感情や差別河野の種類をも規定する
　　　　a. 能力高・温かさ高集団(e.g., 中産階級や内集団)
　　　　　―賞賛の感情が生じ、積極的にも援助しようとするし、困っていれば助ける
　　　　b. 能力高・温かさ低集団(e.g., 富裕層やアメリカ人にとってのユダヤ系、アジア系)
　　　　　―妬みの感情が生じ、困っていても助けないことが多く、危害も積極的に加えようとする
　　　　c. 能力低・温かさ高集団(e.g., 女性や高齢者、子ども、障がい者)
　　　　　―同情の感情が生じ、積極的に援助はするが、出来ることなら無視したいという反応
　　　　b. 能力高・温かさ低集団(e.g., 貧困層、ホームレス、薬物依存)
　　　　　―侮蔑の感情が生じ、積極的に危害を加えようとするし、困っていても助けない
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

―単なる個人の集積を超えた、固有な社会的実体として集団を認識している
　―集団に所属する構成員たちの自己概念にも変化が現れる

社会的アイデンティティー理論(Social Identity Theory)Tajifel & Turner, 1979
　―自己概念の中には、何らかの集団やカテゴリーに自分が所属しているという自覚も含まれる
　　―こうした自己同一視の認知に、誇りや恥ずかしさといった感情的意味合いが加わったものを社会的アイデンティティ―と呼ぶ
　―人は一般にポジティブな自己概念を保つために、ポジティブな社会的アイデンティティを得ようとする
　　→内集団が優れていれば、ポジティブな内集団を誇るような行動が生起
　　→内集団にネガティブな感情を持っていれば、内集団の地位向上や、所属集団から離脱しようとする
　―ただし、いつも同じ集団への所属意識だけが、つねに活性化しているわけではない(“自己カテゴリー化理論”を参照)
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

自己カテゴリー化理論(Self-Categorization Theory)Turner et al., 1987
　―特定の状況で活性化する社会的アイデンティティーを説明する理論
　　　1. その集団は外集団他者と自己との差異を出来るだけ際立たせる
　　　2. その集団は内集団の仲間との類似性を明確にしてくれる
　　　　→自己の立場を明確にする社会的アイデンティティーを与える集団が内集団として意識されやすい(適度な包含性)
　―最適弁別性理論(Optimal Distinctiveness Theory)Brewer, 1991
　　―少数者しかいない集団も、あまりに多くの人が所属する集団も不快
　　　―いずれの集団も自己同一視の対象から外れやすい
　　　　→適度な包含性(Inclusiveness)の動機的効果により生じる
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

内集団バイアス、内集団ひいき(In-Group Favoritism)
　―成員は互いに内集団の方が外集団よりも人格や能力において優れていると評価する傾向(Ferguson & Kelley, 1964)
　―外集団成員の望ましくない行為は良く記憶しているが、内集団成員の行為は忘れる(Howard & Rothbart, 1980)
　　→ポジティブな社会的アイデンティティ―を求める傾向が原因の1つ(Brewer, 1979)
　最小集団状況(Minimal Group Situation)Tajifel & Turnder, 1979
　　　―自分以外の人とは一切相互作用がなく、どんなメンバーがいるかも知らない、ただ分類されただけのグループ状況
　　　　―内集団ひいきを起こさせる最小限度の条件を明らかにするためにタジフェルたちが用いた実験手続き
　　　　―最小集団状況ですら内集団ひいきが生起する原因を説明するため、彼らは社会的アイデンティティー理論を提出した
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

究極的帰属エラー(Ultimate Attribution Error)Hewstone, 1990
　　―内集団の望ましい行動は内的原因で説明されやすいのに対し、望ましくない行動は外的原因に帰属されやすい
　　　―外集団の行動については逆の傾向が見られる
　　―内集団バイアスの1つの形
　　―偏見やステレオタイプの維持に寄与
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

望まれないアイデンティティー
　　ネガティブな感情を生起させる集団に所属している時の反応
　　1. 内集団の劣っていること次元で他の集団と比較することを諦め、得意分野を探す方略が見られる(Cadinu & Cerchioni, 2001)
　　　―そのような比較次元を見つけることのできた成員は、自己評価を防衛できる(Derks et al., 2006)
　　　―内集団の特異性を発揮できる比較次元がみつかると、特にその点で集団の「まとまり」や一体感を強調した
　　　　認知や判断が生起しやすい(Karasawa et al., 2004)

　　2．低地位に長らくおかれた集団の成員には、失敗の「原因帰属における曖昧さ」が現れる(Major & Crocker, 1993)
　　　　e．g．， 同期の男性社員と比べて明らかに昇進が遅れている女性は、「不当な差別」と訴えたくても「自分の実力不足」の
　　　　　　　　 せいでは」と不安がよぎるといったような原因帰属の曖昧さがあらわれる
　　　　―内集団の仲間が受ける差別には敏感でも、自分の受けている差別は認めたがらない傾向もある(浅井, 2006)
　　　　―ことあるごとに偏見や差別を指摘する人は「うるさい人」として嫌われる傾向があることが原因(Kaiser & Miller, 2001)
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

集団間では、どのような感情がどのような心理プロセスで生起するのか

集団の接触
―自己と異質な性質を持つことが予想される外集団との接触そのものが不安を生起
　―不安感情は簡便な情報処理を促しやすく、ステレオタイプ的認知が活性化しやすい
　　→ステレオタイプによって、さらに不安が喚起される可能性
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

集団への認知と感情
　感情の認知的評価理論(Cognitive Appraisal Theory)Lazarus & Smith, 1988
　―情動はその原因となる出来事が、どのような状況で起こったと解釈されるか次第で変化する
　　―特に「事態が自分にとって好ましいかどうか」「原因は他者・自己・状況」のいずれにあるかといった状況認知が、影響を持つ
　　―個人のモデルだが、集団においても同様で、集団の場合は、内・外集団の力関係なども評価に加えられる
　　　e．g．， 集団の間に利害の衝突が起こった場合、原因が外集団の側にあると解釈され、内集団の
　　　　　　　 方が強者であると認知されれば「怒り」という情動が内集団に生起するが、内集団の方
　　　　　　　 弱者であると認知されれば「恐れ」が経験されるだろう(Stephan et al., 2009)
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

集団への同一視と感情
　集団間情動理論(Intergroup Emotion Theory)Mackie, et al., 2000
　―集団同一視が強いほど、集団の一員としての情動が増大する過程をまとめた理論
　　e．g．， 「麻薬使用への法的制裁強化」に対する賛成、反対の集団に参加者を分け、相手集団に抱く感情を測定
　　　　　　 自分の側の意見集団に強く同一視するほど、反対集団に怒りを強く感じるようになる

　集合的罪悪感(Collective Guilt)Doosje et al., 1998
　―自分は直接の当事者ではないにもかかわらず、過去において内集団が犯した行為について抱く罪悪感
　　―集団への同一視が強いほどかえｄって防衛的になり、罪悪感を否定する傾向を見せる
　　―内集団が被害者になった場合を想起すると、自分たちの加害行為に対する罪悪感が軽減(Wohl & Branscombe, 2008)
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

ステレオタイプ脅威(Stereotype Threat)Steele & Aronson, 1995
―ステレオタイプを、その集団の成員が意識すると、実際にそれを裏付けるかのようにパフォーマンスが低下する現象
　―これが原因でますます努力の意欲をなくし、さらに成績低下を招くといった悪循環の可能性
　―逆に、「大丈夫、出来る」という確証を与えると、成績が回復する可能性を持っている(Martens et al., 2006)
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

集団間関係の研究の1つとして「どうすれば偏見や差別を解消できるのか」という問いがある

様々な偏見・葛藤の低減モデル
接触仮説(Contact Hypothesis)Allport, 1954
　―偏見は相手集団に対する無知から生起するのだから、集団間の接触回数を多くして知識をえさせれば、偏見はなくなるという仮説
　　―実際には敵対する集団同士を近づけると、かえって紛争が激化する場合もある(Sherif, 1961)
　接触仮説が成立する条件(Amir, 1969)
　　1. 地位の対等性; 接触する成員同士は、共同作業にあたる同僚のような対等の地位関係であることが望ましい
　　2. 協力的関係; 限られた資源を争うような競争的依存関係ではなく、ともに活動することが双方の利益になる協力的関係が必要
　　　 ―協力の結果は成功で終わる必要がある
　　3. 反ステレオタイプ的情報; 接触した相手が、ステレオタイプを破る様な特徴をもっていることが、偏見解消の前提
　　4. 典型性; 反ステレオタイプ的な情報を見せる成員がその集団にとって典型的な成員であること
　　　 ―例外的だと認識されれば、集団全体に関する印象は好転しない → サブタイプ化(Subtyping)Johnston & Hewstone, 1992

シェリフのフィールド実験(サマーキャンプ実験)Sherif, 1961
　―集団間葛藤の実態をリアルに例示したフィールド実験
　　―集団の葛藤が始まる段階・葛藤が激化する段階・葛藤の収束の段階を描き出した好例として知られる
　1. 葛藤の段階
　　―競争的な相互依存関係の集団では容易に敵対意識が生まれやすい→ 「実際的利害の衝突」の提唱につながる
　2. 葛藤が激化する段階
　　―敵対する集団同士を単純に近づけるだけでは、かえって逆効果になる→ 「接触仮説」の成立条件を検討する実験につながる
　3. 葛藤の収束・対立の解消
　　―両方の集団が協力できる場合には、外集団に対する態度が飛躍的に向上→「上位目標」(Superordinate Goal)の重要性を提唱

拡張型接触効果(Extended Contact Effect)Wright et al., 1997
　―自分の友人の中に、仲の良い外集団の知り合いを持つものがいることを知ることで、集団に対する印象が良くなる現象
　　―自身が外集団と友好的な接触を経験する必要は無い
　―集団間の不安を低減させると同時に、外集団成員に対する自己開示を促進し、態度の改善にもつながる(Turner et al., 2007)

脱カテゴリー化(Decategorization)Brewer & Miller, 1984
　―「女性で、高齢者で、研究者で……」と交差するカテゴリー情報が多く与えられると、ステレオタイプの影響は低減するという仮説
　　―個々のカテゴリーの情報的価値が希薄化されるため
　　―カテゴリー間の境界を目立たなくするのが難しい場合には、脱カテゴリー化は難しい

共通内集団アイデンティティー・モデル(Common Ingroup Identity Model)Gaertner & Dovidio, 2000
　―互いの差異を認めたうえで、同じ共同体に属しているという一体感を育て、再カテゴリー化することで協力関係を築くというモデル
　　―脱カテゴリー化が難しい状況でも実行できる
　　―個別の集団アイデンティティーが高揚することによって分裂が起こるような状況では適用が難しい

―いずれのモデルが主張する過程にも制約条件がついてまわる
　→それぞれの集団が置かれた個別の状況に応じて、より実効性の高そうなモデルを採用する必要性
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)