対人関係

対人関係の初期の段階で感じる魅力に影響する要因

単純接触効果(Mere Exposure Effect)Zajonc, 1968
繰り返し接触を経験する対象に対して好意を感じること
　―何度も接触することで情報処理が容易になり、処理の流暢性を無意識のうちに親近感と勘違いするという説が主流
　―知覚的流暢性説(Koriat et al., 2000)
　　 ―反対意見も
モアランドが対人魅力の研究として単純接触効果を実証(Moreland, 1992)
　―4名の女性のサクラをある授業にサクラとして忍び込ませ、出席回数を1-15回で様々
　　に変えておく。学期の終了時に彼女らの写真を受講生に評定させたところ、出席回数
　　の多いサクラほど魅力的だと判断された
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)、 社会心理学 (キーワードコレクション)、 社会的認知研究: 脳から文化まで

近接性(Proximity)
単純接触効果が得られるかどうかは、対象との距離に依存
　―知覚に存在すると、接触機会が増え、好意度が高まる
　―対人関係を築く機会の有無にも繋がる
　―初期の印象がネガティブだった者は接触するほどネガティブな印象になりやすい
フェスティンガーらの実証研究(Festinger, & Shacter, Back., 1950)
　―大学の学生用アパートの入居者を対象にした調査で、住居が近い学生同士のほうが、
　　離れている学生同士よりも、友人関係を形成する確率が高かった
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)、 社会心理学 (キーワードコレクション)

身体的魅力(Physical Attraction)
見た目が良い人に惹かれる
　―見た目が良い人はより性格を持っていると思われがちで、人に好かれやすい
　　―美は良ステレオタイプ(Beauty is Good Stereotype)
　　　―男性でも女性でも起こりうる
　―見た目が良い人は、精神的健康や知的能力も高いと評価される傾向
　　―ハロー効果(Thornedike., 1920)
　―初対面で短時間のうちに魅力を判断する際には重要な要因
ウォルスターらの実証研究(Walseter, Aronson, Abraham, & Rottmann., 1966)
　―新入生歓迎パーティの場で、参加者をランダムに初対面の異性と組み合わせる。する
　　と、事前に実験協力者により評定された身体的魅力が高かった参加者ほど、パートナ
　　ーから好意を持たれ、デートを申し込みたいと思われている割合も高かった
　―ただし、冷たい行動や美を利用した行動をとると、逆に否定的な印象を与える(小野寺, 1994)
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)、 社会心理学 (キーワードコレクション)、社会と人間関係の心理学 (心理学入門コース 5)

類似性 (Similarity)
マッチング仮説(Matching Hypothesis)
自分と同じ態度や関心を持ち、同じ社会的階層に属し、同程度の教育を受けた相手を好む
　―期待―価値説(Expectancy-Value Theory)による説明(Lee et al., 2008)
　　→誰から見ても魅力的な人は満足感(価値)は高いが、拒絶される可能性がある(期待
　　　が小さい)。そこで、適度な満足感が得られる同程度の魅力を持つ人を好む
　―類似した他者はより大きな報酬を自分にもたらすため
　―同じ社会環境で暮らす相手と出会うためのコストが少ないため
　―意見の対立からくる軋轢が少ないため(学習理論で言う罰が少ない)
　―趣味や志向、信条、学歴など後天的な要素には類似性が働く傾向
類似性がネガティブに働く場合
　―自分に自信のない人は類似している他者を敬遠する傾向
類似性→魅力には関係ないとする説
　仮想類似性(Assumed Similarity, Fiedler et al., 1952)
　　―似ている人を好きになるのではなく、好きな人を似ていると錯覚しがちであることも指摘されている
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)、社会心理学 (キーワードコレクション)、 社会心理学がとってもよくわかる本 (イラストで見る!やさしい心理学入門)、社会と人間関係の心理学 (心理学入門コース 5)

相補性(Complementarity)
自分にはないものを持っている人に惹かれること
　―基本的には類似性の果たす役割の方が大きい
　―体重や体格、性格など遺伝子的なレベルで決定される要素には相補性が働く傾向
　　―ただし、性格に関しては社会的に望ましい性格を持つ人が好かれるという「社会的望ましさ説」もある
　―関係の初期〜中期では類似性が、進展すると相補性が好ましさに働く
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)、 社会心理学 (キーワードコレクション)、社会心理学がとってもよくわかる本 (イラストで見る!やさしい心理学入門)、社会と人間関係の心理学 (心理学入門コース 5)

生理的喚起
誤帰属効果(Dutton, & Aron., 1974)
　―生理的喚起が高まると、目の前の異性の魅力が原因であると誤帰属する
ダットンらの実証研究(Dutton, & Aron., 1974)
　―峡谷にかかった吊り橋の上で通りかかった男性に、サクラの女性がアンケートを行う。
　　その際、TAT図版(サクラの魅力度評定のため)に回答を求め、女性は電話番号を男性に
　　渡す。すると、サクラが男性の時、固定された橋の上で同様の手続きを行った場合と
　　比較すると、吊り橋上で声をかけられた男性の方が魅力を高く評定し、電話をかける
　　人数が多かった
　　―誤帰属効果はそれほど実践的ではない(詳しくは“原因帰属”の「誤帰属効果」欄を参照)
引用文献:社会心理学 (キーワードコレクション)


魅力と進化
異性間の魅力は、生物的な起源の可能性も指摘されている
　―男性は多産や養育の能力を示唆する身体的特徴を持つ女性に魅力を感じる
　　→胸が大きい女性(Jasie?ska et al., 2004)、横から見た時のウエスト・ヒップ比が0.7の女性(Marlowe et al., 2005)が最も魅力的
　―女性は生活資源を家庭にもたらす体力と財力、誠実さを備えた男性に魅力を感じる
　　→これらの男女の好みは通文化的(Buss, 1989)
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)、 進化と感情から解き明かす 社会心理学 (有斐閣アルマ)

パーソン・ポジティビティ・バイアス(Person Positivity Bias)Sears, 1983
　―人は個人を圧倒的に好意的に評価する傾向がある
シアズの大規模な調査研究(Sears, 1983)
　―評価対象者をUCLAの教員として、14学期、総計30万程度の教員評価データを用いた大規模
　　な調査研究を行った。研究1では中央値5に対して、評価平均は7.22と高得点にずれていた。
　　研究2では、心理学の教授の評価で、7.04だった。研究3と4では、肯定的に評価された教員
　　の割合を算出したところ、97%と92%だった。
引用文献:心理学で何がわかるか (ちくま新書)

その他の対人魅力の要因
　自己開示
　―表面的なところから徐々に内面を示す
　　―タイミングよく、相手の開示に合わせて深める
　好意の表明
　―「好きだ」と言ってくれる人を好きになる(好意の返報性)
　―最初から好意を見せるより、徐々に示す方が効果的(ゲインロス効果)
　場の雰囲気
　―雰囲気のよいところで人に合うと、好意をもちやすい
　―不安が高い状況では、人と一緒にいたくなる
　 　気分(Dutton, & Aron., 1974)
　―興奮しているときは、居合わせた異性が魅力的に見える(刺激の汎化)
　―自信を失った時は、優しくしてくれる人が好きになる(感情的不安定さの効果)
　周囲の妨害
　―周囲から妨害や脅威があると、熱愛が高まる(ロミオとジュリエット効果)
　互いの役割
　―互いの役割のバランスが取れていると、長続きする(互いの役割の相補性)
　―周囲の人と役割がうまくいっていると、長続きする(周囲との役割的適合)
引用文献:社会と人間関係の心理学 (心理学入門コース 5)

他者との社会的関係の土台にある心理的過程は2種類に分類できる(Clark & Mills, 1979)
交換関係(Excahnge Relationship)
　―何らかの資源や利益をやり取りしあっている関係
　　―基本ルールは、交換が公平に行われることや、返報性が確保されること
　　　e.g., ビジネス上の関係など
共同的関係(Communal Relationship)
　―自己と他者の区別よりも、相手との同一視と連帯感、関係への所属と安心感が関心事
　　―重視されるルールは、信頼や相互扶助、必要に応じた資源の分配
　　　e.g., 家族や親族、伝統的な共同体
　→ただし、ビジネス関係であっても共同的関係が必要になる場合などもあり、あくまでも対人関係の心理的な特徴を分類した理論
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)、

　交換関係の原理
　1. 満足の基準
　　―交換関係では、自身が投入する資源の量や損失を上回るだけの利益を得ることが求められる
　　　―しかし、利益から損失を差し引いた絶対的な成果の量によって満足感は決定しない
　　　a. その関係から自分がどれほどの利益を得るに値すると考えているか(比較水準)を、成果が上回るほど関係に満足(Thibaut & Kelley, 1959)
　　　b. 現在の関係から別の関係に移った時に得られる満足(代替選択肢との比較水準)を、上回れば現在の関係が続く
　　　c. 関係に投資した量(コミットメント)が関係を続けることに対する義務感、倫理的判断に影響(Rusbult, 1980)
　2. 衡平と公正
　　―どのような交換が「公正」かについてはいくつかの原則がある
　　　a. 平等(Equality)の原則: 関係した者が一律に同等の結果を得ること。共同的関係においてよく採用される原理
　　　b. 衡平(Equity)の原則: 個人の投入量に比例した量の成果を公正だと考えること
　　　c. 手続き的公正(Procedural Justice): 結果の分配の公正さではなく、どのような手続きに基づいたかが公正さに影響すること
　3. 相互依存性
　　―人が利益を得ようと何らかの選択をする際に、他者の利益や損失を左右する場合、後者は前者に対して「依存」の関係にある
　　　―社会的交換における相互依存関係の分析には、2×2の利得行列を用いたゲーム理論の考え方が用いられることが多い
　　　　→囚人のジレンマゲームや社会的ジレンマ状況の説明
　　　　→第三者の視点から見た客観的な利得構造が、当事者にとっての主観的な利得構造と同じであるとは限らないという指摘もある
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)、

　共同的関係と認知過程
　1. 他者への配慮
　　―親密な他者のために自分の持つ資源を差し出す「犠牲を払う」ことが「損失」を意味しないことがある
　　　―共同関係的な対人関係が望まれているとき、人は利益のことを頭に入れておくことを避ける(Clark, 1984)
　　　―犠牲をいとわない態度は、共同的関係が育っていく過程にとって重要な役割を果たす(Lydon et al., 1997)
　　―共同的関係においては、交換の規範はネガティブにも働く
　　　―パートナーが交換規範に従って、受け取った利益へのお返しをしていると感じると、パートナーへの好意が低下(Clark & Mills. 1979)
　2. 自己と他者の同一視
　　―関係の親密さが増すと、相手を自己の一部、あるいは自己を相手の一部のようにみなすようになる
　　　―夫婦や恋人同士の間では、相手に関する認知表象と自己に関する表象の区別がつきにくいほど重なる
　　アロンらの研究(Aron et al., 1991)
　　　―色々な性格特性が配偶者と自分の両方にあてはまるのか、どちらか片方だけにあてはまるのかを
　　　　既婚の学生が回答。次に、コンピュータ画面上に次々に呈示される特性語について、自身にあて
　　　　はまるのかどうかを瞬時に判断する事が求められた。すると、片方にしかあてはまらないとした
　　　　特性語に対する反応時間が長くなった。
引用文献:愛の心理学、社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

対人関係の中でも、特別に親密で深い関係は、「愛情」という特殊な感情をもとに成り立つ
　―愛情の対極にあるのが葛藤関係

愛情を構成する要因
�@愛着スタイル(Attachment Style)Bowlby, 1969
　―幼少期に接した養育者の態度や別離などの経験が、成人した後の対人関係への志向性を方向づけると想定したモデル
　―バーソロミューらが発展させ、他者と自己それぞれに関する認知表象を愛着スタイルの基礎とした(Bartholomew & Horowitz, 1991)
　　1. 他者は概して、自分が援助を必要とするときに助けてくれるものであるという期待や信念(他者評価)
　　2. 自己が他者からの援助を受けるにふさわしい人間であるという感覚(自己評価)
　　　―この2つの要素の組み合わせによって、計4つの愛着スタイルが構成される
　　　a. 安定型
　　　　―自己評価も他者評価も高い
　　　　―自立心が高い、良好な関係を築く、他者への敬意を払う
　　　　―「社会的スキル」の高さ、他者に対する寛容な態度との関連(Milklincer & Shaver, 2005)
　　　b. 没頭型
　　　　―自己評価が低く、他者評価は高い
　　　　―他者からの需要を求める、他者を理想化する傾向、感情の起伏が大きい
　　　c. 離脱型
　　　　―自己評価が高く、他者評価は低い
　　　　―関係の意義を軽視、感情抑制的、自立心を強調
　　　d. 畏怖型
　　　　―自己評価も他者評価も低い
　　　　―他者からの拒絶を恐れる、他者への不信感、個人的不安定性
　―安定型の愛着スタイルの特徴
　 　　パートナーに対して共同関係的な応答性を示す可能性が平均的に高い(Simpson et al., 1992)
　　　1. パートナーに助けを求めるために自分の脆弱性を見せやすいため(Simpason et al., 1982)
　　　2. 自分のパートナーの共同関係的な応答性を知覚しやすいため(Collins & Freeney ,2004)
引用文献:愛の心理学、社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

�A愛の分類
　リーの類型論(Lee, 1973)
　　―愛の類型に色相環に模す考え方を用い、エロス、ルダス、ストーゲイの3つの一時的な愛のスタイルを「3原色」として配置
　　　―3原色を混ぜ合わせると二次的な等和色である、プラグマ、マニア、アガペーが生まれる
　　エロス(Eros)
　　　―情熱的で性愛的な愛。強い身体的魅力、強い情動、容姿の好み、関係の代替不可能感が中心核
　　ルダス(Ludus)
　　　―ゲーム感覚で深くは関わらない愛。主たる属性は、パートナーを騙す欺瞞コミュニケーション
　　　　※大学生はこのラブスタイルに関する質問項目にはほとんど同意しないが、実際にはルダス的な振る舞いをする
　　ストーゲイ(Storge)
　　　―友情。控えめで仲間のような気持ちの友愛のスタイルでエロス的感情とは異質
　　プラグマ(Pragma)
　　　―実利的で計算高い。望ましい属性を持つ人(家柄に合う、良い親になりそうetc…)が最適のパートナー
　　マニア(Mania)
　　　―偏執狂的。快楽と苦痛が交互に現れる愛。マニア的な愛は多くの場合上手く終わらない
　　アガペー(Agape)
　　　―愛他的で惜しみなく与える。自己犠牲的な愛。恋愛においては、まばらにみられるのみ
　　―リーの類型論の特徴
　　　a. 愛の幅広い個人的な定義の許容範囲を広くとることが出来る
　　　b. 恋愛とは何かという常識的な見方におおむね合致する
引用文献:愛の心理学

　愛の三角形理論(The Triangular Theory of Love)Sternberg, 1986
　　―愛を構成する要素として、親密性、熱情、コミットメントの3つをあげ、これらを頂点とした三角形によって愛を分類
　　　―すべての要素を含む愛から、2種類の要素からなる愛、1種類の要素からなる愛を分類し、計7つの愛の形と愛の無い状態を想定
　　1. 親密さ(Intimacy): 愛し合う関係における親しさや繋がりを持っている感覚。絆を持っている感覚の感情
　　2. 情熱(Passion): 愛し合う関係におけるロマンス、身体的魅力、成功による関係の達成、それらに関連する現象に至る動因
　　3. コミットメント(Commitment): 短期的には、あるパートナーを愛すると決める事、長期的には愛の維持のため関与し続けること
　　　―それぞれの構成要素は分離可能だが、相互作用し影響を与え合う
　　　完結した愛(Consummate Love): 親密性、熱情、コミットメントの全てを含む愛
　　　友愛(Companionate Love): 親密性とコミットメントを備えた愛
　　　恋愛(Romantic Love): 熱情と親密性を備えた愛
　　　愚かな愛(Fatuous Love): 熱情とコミットメントを備えた愛
　　　好意(Liking): 親密性のみを備えた愛
　　　空しい愛(Empty Love): コミットメントのみを備えた愛
　　　心酔状態(Infatuation): 熱情のみを備えた愛
　　　愛ではない状態(Non-Love): いずれの要素も備えていない状態
　　―愛の三角理論の特徴
　　　a. 直感的に分かりやすい
　　　b. 愛を単純に分類するのではなく、愛の量とバランスによって愛の性質を説明した
引用文献:愛の心理学

　バーシェイドの分類論(Bersheid, 2006)
　　―それぞれが異なる行動と関連しており、それぞれが異なる原因から発生した愛を4つに分類
　　　―特定の関係においてはそのすべてもしくはいくつかを一時的に体験することもある
　　愛着の愛(Attachment Love)
　　　―内容の詳細は本ページの“愛着スタイル(Bowlby, 1969)”を参照
　　　―その進化的起源は、幼児が生き延びるために保護者に接近したところに居続けようとする欲求の中に存在
　　　―この愛の直接的な行動の原因は「脅威となる状況」で、特徴的な行動は保護者に近い場所に身を置くようにさせる行動
　　慈愛(Compassionate Love)
　　　―他の人物の安寧を気に懸け、その安寧を促進する行為が含まれる愛
　　　―進化的起源は、保護と世話を受ける立場の者たちが長い進化を経て残り、同じように、弱い者や苦痛を助けるシステムが残った
　　　―直接的な行動の原因は「他の人物が苦痛の状態にあることの知覚」でターゲットは苦痛を感じている人物
　　友愛(Companionate Love)/好意(Friendship Love)
　　　―自分に褒賞をくれる人物に好意を抱き、自分に罰する人物を嫌う
　　　―進化的起源は、賞―罰の原理、特に学習の理論の基礎である基本的な動機づけの原理と同じ
　　　―特徴的な行動は、見慣れた人、自分に似た人、自分を好いてくれる人、身体的な魅力のある人を好きになること
　　　　―対人魅力のある人物との相互作用は何らかの利益があるため(詳細は同ページの“対人魅力”参照)
　　ロマンティックな愛(Romantic Love)
　　　―性的な欲望がこのタイプの愛に関連づけられることが多く(Bersheid & Regan, 2005)、他の3種類の愛と識別する要件
　　　―進化的起源は、性的な欲望によって繁殖をすること
　　　―共時的な行動の原因は、身体的魅力があること、異性が手に届く状態だが、直接的な行動の原因はまだ理論化されていない
　　　―特徴的な行動は、その人物と性的な交渉をもつという動機をもって、ある異性の後を計画的につけまわしたりする
　　―バーシェイドの分類論の特徴
　　　a. 従来述べられてきた複数の「愛」の分類を１つの分類にまとめたこと
　　　b. 行動の予測を目的としているため、進化的遠因だけでなく、行動を引き起こす近因、特徴的行動を明らかにしている点
　　　c. 愛の分類論の中でも新しいこと(ひょっとすると一番重要な特徴？)
引用文献:愛の心理学

葛藤と破局
　―愛情によって結ばれた関係は時に葛藤によって崩壊する時もある
　�@葛藤の原因
　　1. 外的環境の変化(Bolger et al., 1989)
　　　a. 子供の誕生や高齢者家族の介護といった家族環境
　　　b. 急激な経済状況の変化や転職といった突発的要因による強いストレス
　　　c. コミュニケーション不足etc……
　　　―相手への「理想化」が高すぎると、関係がうまくいかない
　　　―適度な理想化をし、相手のプラス面を見出せると、関係が長続きしやすい(Murray & Holmes, 1997)
　　2. 個人差要因
　　　愛着スタイル(Simpson et al., 1996)
　　　　―没頭型や畏怖型の人は問題に直面した際に、不安やストレス、相手に対する怒りを生き起こす
　　　　―離脱型の人は、相手を支援するような態度を示さないために関係が冷めてしまう
　　3. 役割信念
　　　性役割信念(Denmark et al., 1985)
　　　　―特に男女関係で生起する問題
　　　　―性役割分担が心理的負担や、上手くできなかったときに相手を責める言動につながる
　　4. 問題に対する理解の違い
　　　　―相手の失敗の原因を内的原因に帰属すると幸福感が低下しやすい(Fincham et al., 1990)
　　　　―外的要因に帰属するカップルでは、相手に対する信頼感を及ぼす
　　　　―長期的で責任を伴う関係(e.g.,夫婦)においては、認識の一致が、関係の在り方に重大な影響を及ぼす(Neff & Karney, 2004)
　�A葛藤を解決するカギ
　　1. 問題の所在を明らかにし、十分な話し合いを行い、外的原因を適切に認識する
　　2. 相手の失敗を許す態度
　　3. コミットメントを強く持つこと(Rusbult et al., 1991)
　　4. 自身を犠牲にしたり行動を改めようとする傾向
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

対人関係の中では、互いに依存するだけでなく積極的に他者を助ける行為が現れる
　―自分の利益にならない援助、犠牲を払ってまで行われる援助の原因を知ることは、人間性の本質を知る上で重要な課題
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

生物学的要因
進化心理学の視点
　―互恵的利他行動(Reciprocal Altruism)
　　―他者の利益になる行動(利他行動)をとることが結果的に集団の生存にとって適応的
　　　→自分と遺伝子を多く共有する他者ほど助けやすくなるはず(Hamilton, 1964)
　　　→血縁関係の近い親族に対するほど、生死に関わる危機的状況であるほど、利他行動は行われやすい(Burnstein et al., 1994)
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

社会意識
集団や社会において共有された「規範」が援助行動を促進する
　―「衡平」の原則が顕在化すると、投入量以上に利益を得ているほど、利他行動で埋め合わせる傾向(Scumitt & Marwell, 1972)
　―社会的弱者に対しては「平等」の原則が顕在化すると、利他行動が選択されることも
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)

援助の諸段階を考慮したモデル
意思決定モデル(Latane & Darley, 1970)
　―人が援助に至るまでの過程を5段階に分類したモデル
　　�@何か深刻なことが起こっているという認識
　　　―必ずしも明確な援助要請が伴わない場合もあり、解釈は援助者にゆだねられる
　　�Aそれが危機的状況だという認識
　　　―自分以外の「平然とした」傍観者の存在が危機的状況であるという認識を妨げる → 集合的無知(Pluralistic Ignorance)
　　�B自分に助ける責任があるという認識
　　　―周囲に居る他者の数が多くなるほど「責任の拡散(Diffusion of Responsibility)」が生起し、援助が抑制される
　　�Cどうやって助ければよいかを自分は知っているという認識
　　　―自分が正しい知識を持っているという確信が無ければ援助は抑制される
　　�D援助しようという決断
　　　―「下手に騒いで愚かだと思われたくない」といった考えが援助を邪魔する事もある
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)、現代の認知心理学〈6〉社会と感情

援助を動機づける認知
ワイナーの帰属理論による援助行動へのアプローチ(Weiner, 1995)
　―援助に値するかどうかという「評価的判断」を原因や責任の帰属という観点からの分析
　―他者に対して経験する感情や行動意図は、他者の行為が原因帰属の3次元上でどのように位置づけられるかによって決まるとした
ワイナーの帰属理論の概要(Weiner, 1986)
　―ワイナーは、様々な社会的場面で原因帰属が後続の感情や行動に及ぼす影響について、原因帰属の「次元」の点から整理した
　　―原因帰属の次元とは、様々な領域で帰属される具体的な原因に共通する特性を記述するための次元
　　―「原因の所在(内的―外的)」「安定性(高―低)」「統制可能性(高―低)」の3次元が同定されている(詳細は“Weinerの原因帰属”へ)
　特に「統制可能性」の次元は、援助行動において重要な次元
　―統制可能性の高い原因に他者の苦境が帰属されると、怒り、非難、制裁行動、援助の拒否につながる(Weiner, 1980)
　―統制可能性の低い原因に帰属されれば、同情や援助行動が向けられる
引用文献:現代の認知心理学〈6〉社会と感情

利他的動機か利己的動機か
純粋に利他的な動機が存在するかという問いは、観点によって意見の別れる問い
　―たいていの援助は、周囲から賞賛され、良い評判を得るといった利益を得られるため → 利己的動機?
　―共感が強く働く状況では、援助行動のかなりの部分が利他的動機で説明できる(Batson et al., 1981) → 利他的動機?
　　→そもそも人は自分の行動の理由を自分で必ずしも正確に把握していないため、客観的に「真の」目的を判断するのが困難
　　　→今後も議論が必要
引用文献:社会心理学 (New Liberal Arts Selection)、現代の認知心理学〈6〉社会と感情