20世紀の著名な心理学者100人
21. クラーク・レナード・ハル[Clark Leonard Hull]
アメリカの心理学者。ハルの説は基本的には「ワトソン」の影響を受けた「S-R理論」である。ハルは人間の行動をシンプルな「刺激(S))に対する「反応(R))と見なすの
ではなく、刺激に対する反応を規定する『媒介変数』を設定することで人間の複雑な行動を理解することができると考えた。ハルは『行動の原理』の中でS-R理論を改良
した「S-O-R理論」を提示しているが、この理論における『O(有機体)』が刺激・反応に影響を与える媒介変数になっている。
22. ジェローム・ケイガン[Jerome Kagan]
アメリカの心理学者。彼の研究は種々にわたっているが、その主な関心は「個人差」研究にあった。著名なものに、絵のマッチング検査によって「熟慮型・衝動型」の
いずれかで分類される「認知スタイル」研究、「自己意識」、デイケアが幼児に及ぼす影響、気質問題などが挙げられる。また、「動機づけ」理論のなかで、環境の統制
を求める要求や動機を「熟達動機」と呼び、その存在を指摘した。
23. カール・グスタフ・ユング[Carl Gustav Jung]
スイスの精神科医で分析心理学の創始者。フロイトとは相容れない独自の見解を『リビドーの変遷と象徴』に著したことで彼とは決別する。その後、ユング独自の「分
析心理学」を確立した。フロイトの関心が「神経症」にあった一方で、ユングのそれは「精神分裂病」にあった。ユングは「無意識」を個人的無意識と人類に普遍的な
「集合的無意識」に分け、無意識の内容として抑圧された性的なものだけでなく、創造的なものをも認めた。また、「内向―外向」などの態度の型の類型も行っている。
24. イワン・ペトローヴィチ・パブロフ[Ivan Petrovich Pavlov]
ロシアの生理学者。食物消化の神経機構の研究によって、ノーベル生理学医学賞を受けた。また、唾液分泌に関する研究中、条件反射の現象を発見した。彼は、刺激
置換説をとなえ、条件反射は無条件反射の複製としたが、この考え方は今日ではあまり支持されていない。パブロフの研究は、ロシアのみならず、20世紀初期からの
アメリカの「行動主義」心理学の発展に大きく貢献した。
25. ウォルター・ミッシェル[Walter Mischel]
アメリカの心理学者。彼の研究は多岐にわたるが、有名なものとして「マシュマロ・テスト」を用いた「満足の遅延」研究と、特性論批判に関する研究がある。満足の
遅延とは、すぐに得られる価値の少ない「報酬」よりも、より価値のある報酬を得るまで欲求充足を遅延させる行動であり、彼は「自己制御」体系として満足の遅延を
捉えた。また、個人の行動は状況的手がかりに強く依存していることを示し、従来の特性研究に「一貫性論争」を招いた。のちに、この論争は心理学に「相互作用説」
という新たな立場を引き起こし、多くの研究に影響を与えることとなった。
26. ハリー・ハーロウ[Harry F. Harlow]
アメリカの心理学者。アカゲザルを対象にして多くの実験的研究を行ったことで有名。自らが考案したウィスコンシン一般テスト装置(WGTA)を用いてアカゲザルの学
習実験を行い「学習セット」という概念を提出した。その後、彼はアカゲザルをニンゲンの愛情形成を考えるための有効な動物モデルと考え、研究を進めた。子ザルに
とって母親は温もりを与えてくれる存在であり、そのような母親が「愛着」の対象であり、「安全基地」として機能する事を「代理母親」模型を用いた実験で明らかにした。
27. ジョイ・ギルフォード[Joy Paul Guilford]
「精神測定法」の研究、特に「知能」の因子構造について独自のモデルを提案した事で知られるアメリカの心理学者である。彼の構造理論では、扱う情報の内容、必
要とされる情報の操作、情報処理の所産、の三つのカテゴリーの組み合わせ120種により知的処理を表現できると考える。情報の操作には「拡散的思考」という概念
が含まれ、これは「創造性」として独立に取り上げられることが多い。
28. ジェローム・シーモア・ブルーナー[Jerome Seymour Bruner]
アメリカ生まれの心理学者。「知覚」と「欲求」や「動機づけ」との関連を研究し、認知過程に欲求が関与していることを明らかにした。これは「ニュールック
心理学」と呼ばれており、代表的な研究として裕福な子どもと貧しい子供では貨幣の大きさの知覚が異なっていることを明らかにした。その後、彼の研究は「思
考方略」の研究や、教育の方法へと拡大した。彼の理論は「ピアジェ」と「ヴィゴツキー」の立場を統合することをめざし、「表象」様式の「発達」を支えるも
のとして、外部世界の情報を知るために3種類の表象化があると提案している。
29. アーネスト・ヒルガード[Ernest R. Hilgard]
アメリカの心理学者。第二次大戦以前は、「学習」と「動機づけ」の研究に力を注いだ。マーキスとの共著『条件づけと学習』が1940年代に刊行された。戦後は特に
痛みを抑制するための「催眠」の研究を行い、スタンフォード催眠感受性尺度をWeitzenhofferとともに発展させ、催眠に関する書物を著した。『Atkinsons &
Hilgard’s Introduction to Psychology』に代表されるような一般心理学の教科書に加え、『Conditioning and Learning』『Theories of Learning』といっ
た学習理論の優れた解説書を記した。
30. ローレンス・コールバーグ[Lawrence Kohlberg]
アメリカ生まれの心理学者。コールバーグの「道徳性発達理論」は、表面的な道徳的行動や知識の内容ではなく、道徳的判断の背後にある認知的な構造に焦点をあ
てたもので、道徳性を正義と公平さと規定した。コールバーグは、ピアジェの認知発達的考え方を引き継ぎ、子どもでも自分なりの正しさの枠組みをもっており、それ
に基づいて道徳的な判断をすると考えた。その正しさの枠組みは発達とともに質的に変化するものとして、3水準6段階の発達段階説を提唱した。
31. マーティン・セリグマン[Martin E. P. Seligman]
アメリカの心理学者。いかなる能動的行動もいっさい「嫌悪刺激」の回避に役立たないという経験を通して無気力が「学習」されること(学習性無力感)をイヌを用いた
実験から明らかにした。その他、種によってある行動の学習されやすさ(準備性)があることを確認した研究、あるいは、人における帰属過程の研究など、「実験心理学」
から臨床、社会心理学に及ぶ数多くの研究で知られる。
32. ウルリック(アーリック)・ナイサー[Ulric Neisser]
アメリカの心理学者。人間の文字認識や「視覚的探索」の実験に取り組み、1967年『認知心理学』で、情報処理過程として人間の「認知」を捉える立場を明確に
打ち出した。この著作の中で用いられた「アイコン」や「前注意過程」などの概念は広く使用されるようになった。『認知の構図』では、ギブソンの影響のもと、
「知覚」や認知の研究における「生態学的妥当性」を強調した。『観察された記憶』では、記憶研究における生態学的妥当性の必要性を論じた。これらのほか、
記憶、「心的イメージ」、「選択的注意」に関する実験的研究も行っている。
33. ドナルド・キャンベル[Donald Campbell]
アメリカ生まれの心理学者。彼の研究領域は、哲学、社会学、文化人類学、政治学にも及ぶ広範なものであった。心理学においては、クックとともに「準実験法」
とは、「独立変数」の操作や、各条件への参加者の無作為割当などが欠けている場合であると説明している。また、従属変数の変化の原因が独立変数の操作に帰せ
られる度合である「内的妥当性」や実験結果が当該の実験状況に限定されることなく一般化しうる度合である「外的妥当性」といった概念を導入したことでも知ら
れる。
34. ロジャー・ブラウン[Roger H. Brown]
アメリカの心理言語学者、社会心理学者。「生成文法」理論を背景とする「言語獲得」の研究を行った。三人の子どもの詳細な「発話」記録を検討し、これらの子
どもが獲得する「形態素」には一定の順番があることを示した。このことから、言語獲得に際しては、統語的・意味的な「累積的複雑度」が存在すると主張した。
また、言おうとする語が分かってはいるがなかなか出てこないという心的状態(喉まで出かかる現象)を実験的に研究したことでも知られている。
35. ロバート・ザイアンス[R.B. Zajonc]
ポーランド生まれのアメリカの社会心理学者。代表的な研究として、社会心理学の古典的研究テーマであった「社会的促進」現象をハルとスペンスの「動因理論」
によって統合的に説明したものがある。また、対象への接触回数が増すと好意度も増加するという「単純接触仮説」を提唱し、「対人魅力」の研究にも貢献した。
このほか、「知能」水準と家族数、「出生順位」との関係についての研究もある。
36. エンデル・タルヴィング[Endel Tulving]
エストニア生まれの心理学者。タルヴィングは、この数十年間、常に世界の「記憶」研究者をリードし続けている。彼は「主観的体制化」、「符号化特定性原理」、
「エピソード記憶」と「意味記憶の区分」、「複数記憶システム論」など、これまで多くの新しい概念を提唱している。定年後は、トロント市内の老人医療研究所で
大脳生理学的アプローチによる記憶研究に没頭している。
37. ハーバート・アレクサンダー・サイモン[Herbert Alexander Simon]
アメリカの政治学者であり、心理学、工学、計算機科学、経済学などの研究、教育に従事。1978年に「経済モデル論」によってノーベル経済学賞を受賞。アメリカ
科学アカデミー会員。研究テーマはコンピュータ・サイエンスから心理学、組織論、経済論に及ぶ。中心テーマは、人間の「意思決定」や「問題解決」過程のモデル化
であり、そのモデルは「認知科学」の基礎をなしている。
38. エイヴラム・ノーム・チョムスキー[Avram Noam Chomsky]
アメリカの言語学者。「生成文法」の創始者。それまでの分類主義的な言語学を変革し、理論モデルに基づく厳密科学としての「言語」研究の道を拓いた。人間が
言語を話し、理解できるのは、脳内に音と意味を結びつける離散的な計算システムである「文法」があるからであるとする「チョムスキー理論」は、言語学のみならず、
言語に関する「認知科学」的研究に革命的発展をもたらした。急進的な自由主義思想家、社会運動家としても知られ、アメリカ政府の政策を批判した数多くの著作がある。
39. エドワード・ジョーンズ[Edward E.Jones]
アメリカの社会心理学者。特に「帰属過程」を中心テーマとし、デイヴィスと共に提唱した「対応推論理論」に加え、ハリスとの「基本的帰属のエラー」の発展、
ニスベットとの「観察者―行為者バイアス」の発展研究などで知られる。他にも知覚者とターゲットがどのように相互作用するのかを調べるため「対人知覚」の研究
に従事し、「自己呈示」研究における「取り入り」の重要性を主張した。
40. チャールズ・オズグッド[Charles Egerton Osgood]
アメリカの心理学者。最初の研究関心は人間の「学習」・「知覚」の研究であったが、「刺激」と「反応」の表象媒介過程の理論による「セマンティック・ディファ
レンシャル法(SD法)」という方法を考案し、「態度測定」「社会調査」などに広く用いられている。他にも、利害が対立する関係の中で交渉する時の敵対意識や緊張
関係を和ら和らげるためのストラテジーとして「GRIT」を提唱したことで知られる。心理言語学を始め、文化人類学や国際間の平和問題にも関連をもった活動を行った。