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20世紀の著名な心理学者100人

81. ゲイリー・キャノン[W. Gary Cannon]
アメリカの生理学者。「情動」の中枢起源説(キャノン=バード説)や、生活体の対内平衡維持説(ホメオスタシス説)、空腹の末梢起源説(胃の収縮説) などにより心理学に強い影響を与えた。情動の末梢起源説である有名な「ジェームズ=ランゲ説」に対して、情動において「視床」の役割を強調する 中枢起源説を唱えた。また、生活体が生命を維持するために自律系や内分泌系の働きを介して対内平衡状態を維持するというホメオスタシスの考え を提唱した。

82. アレン・エドワーズ[Allen L. Edwards]
カナダの心理学者。マレーの「欲求理論」に基づき、その顕在性欲求リストを取り入れた「質問紙法」性格検査である「EPPS性格検査」の開発や、質 問紙に回答する際、参加者が社会的に望ましい性格と考える方向に回答が歪む傾向が見られることを指摘し、参加者の社会的に望ましい方向への 「自己呈示」傾向を知るための検査として「エドワードの社会的望ましさ尺度(ESDS)」を開発したことで知られる。

83. レフ・セミョノヴィチ・ヴィゴツキー[Lev Semenovich Vygotsky]
旧ソビエトの心理学者。彼の理論の中軸は次の2つである。(1)高次精神機能の「記号」による被媒介性:人間は他の動物と違い、社会的・歴史的に形 成されてきた道具を媒介とすることで自然と間接的な関係を持つ。とりわけ、人間特有の高次精神機能は、心理的道具としての記号である「言語」に よって媒介されていることに大きな特徴がある。(2)高次精神機能の社会的起源:高次精神機能の成立にとって記号(言語)の媒介は必須であり、高次 精神機能は発達過程において2つの水準で現れる。最初は人々の間で精神間機能として、ついで個人内で精神内機能として現れるのである。

84. ロバート・ローゼンタール[Robert Rosenthal]
アメリカの心理学者。専門は「対人行動」・「コミュニケーション」。「実験者効果」に関する研究では、実験者の抱く仮説が参加者に影響し、仮説に 一致する効果となる場合があることを示した。日常場面における同様の現象についても研究を行い、教師の抱く期待を実験的に操作すると、生徒の 「知能指数」が教師の期待に応じて変化すること(ピグマリオン効果)を明らかにした。また、非言語的感受性プロフィール(PONSテスト)も開発した。

85. ミルトン・ロキーチ[Milton Rokeach]
アメリカの社会心理学者。彼の有名な研究としては『イプシランティの3キリスト』に著されたケーススタディがある。他に彼の残した有名な著書とし て「開かれた心/閉ざされた心」概念を提唱した『開かれた心と閉ざされた心』や、『信念・態度・価値』、「価値」を存在の究極的な状態に関わる「目 的価値」と目的価値を実現するための「手段価値」に分類した『人間の価値の本質』などで知られる。

88.5. ジョン・ガルシア[John Garcia]
アメリカの「行動主義」心理学者。「味覚嫌悪(回避)学習」現象の発見で最もよく知られる。この現象は、方法論的には「古典的条件づけ」に含まれる にも関わらず「条件刺激(味覚)」と「無条件刺激(毒)」との時間間隔が何時間も開いていても「条件づけ」が成立する。これは「接近の原理」に矛盾す る事から問題となり、「学習」の法則に、生物学的制約を考慮すべきであるという考え方の一つの端緒となった。

88.5. ジェームス・ギブソン[James J. Gibson]
アメリカの傑出した心理学者の一人でもあり、独創的な思想家でもある。初期には社会心理学の分野にも関わったが、その後は一貫して独自な「知覚」 理論を構築してきた。彼の知覚理論は時代とともに変遷したが、特にその後期においては行為者としての知覚者を強調し、情報は処理される必要はなく、 知覚者により抽出されるだけでよい、という「直接知覚説(生態学的知覚理論)」を提唱し、他の理論や研究者にも多くの影響を与えた。

88.5. デイヴィッド・ルメルハート[David Rumelhart]
リンゼイ、ノーマンとともにカリフォルニア大学サンディエゴ校LNRグループの「認知科学」における最先端の科学者であり、「並列分散処理(PDP)」モ デル推進の中心的人物である。「スキーマ」理論を精緻化したことで知られている。人間のスキーマの柔軟性を記述するためには、スキーマ同士が相互 にインタラクションしなければならないと考え、PDPモデルの提唱につながった。

88.5. ルイス・サーストン[Louis Leon Thurstone]
アメリカにおける心理測定分野の第一人者。コーネル大学で電気工学を学ぶ。エジソン研究所で働いている間に、音響学者感覚心理学に興味を持ち、 シカゴ大学大学院で心理学を学ぶ。彼の心理測定の分野への貢献としては、「知能」の研究における「標準得点」の導入、「因子分析」の新しいモデル の提案、心理尺度構成法の「比較判断の法則」、「態度測定」の手法である「サーストン法」の開発がある。特に、因子分析では、多因子モデルを提唱、 さらに因子抽出法であるセントロイド法や因子回転の基準ともなる「単純構造」の概念を提案した。

88.5. マーガレット・ウォッシュバーン[Margaret Washburn]
アメリカの心理学者。心理学分野で初めてPhDを取得した女性でもある。彼女の研究は多岐にわたり、「空間知覚」、「記憶」、「実験美学」、個人差、 動物心理学、「感情」、「情緒的意識」などがある。中でも「運動理論」や「動物の心」の研究で最もよく知られる。彼女の“行動は思考の一部である” という考え方は、人間の認知の発達を説明するために用いられる「ダイナミックシステムアプローチ」の中にも見られる。


88.5. ロバート・ウッドワース[Robert Woodworth]
アメリカの「機能主義」心理学者。ハーヴァード大学でジェームズに学び、1899年コロンビア大学で博士号を取得。彼は、「意識」や心の存在を排除して 「刺激」と「反応」のみによって「行動」を記述しようとする「行動主義」のS-R図式に異を唱え、その間にある有機体内部の「動因」(動機)を考えなけれ ばならないとする、「S-O-R」図式を提唱した。

93.5. エドウィン・ボーリング[Edwin G. Boring]
アメリカの心理学者。心理学において初の歴史家であった。彼の最大の著作は『実験心理学史』(1929)であり、創造的な心理学者の研究を、その時代精神 を背景にしながら生き生きと描いた。他にも多くの理論的、実験的な業績を残し、特に「婦人と老婆」(英名では、嫁と義母)という隠し絵を利用し、視覚 による知覚の研究を行ったことでも有名。学会の組織化、運営にも多大の功績を残し、「ミスター・サイコロジー」と呼ばれた。

93.5. ジョン・デューイ[John Dewey]
アメリカの哲学者、教育学者。知識の手段的価値を強調する「概念道具説」を唱え、プラグマティズムを確立するとともに、自然主義的人間主義、実験主義 の立場にたち、進歩主義教育を推進した。経験についてそれを単に主観的な意識として捉えるのではなく、生活体の能動的、適応的な活動であると位置づけ、 要素主義的な「構成主義」心理学を批判するとともに、心的過程の機能に着目する「機能主義」心理学を主張し、シカゴ学派を形成した。

93.5. エイモス・トヴァスキー[Amos Tversky]
現在のイスラエル生まれの心理学者。「意思決定」、帰納、「類似性」などの問題に数値的、認知科学的にアプローチしてきた。カーネマンと共同で発表し た一連の研究で、ベイズ的アプローチがそのままでは個人の意思決定を記述する事が出来ないことを示したのは有名である。特に「効用」の評価が文脈に よること(フレーミング効果、他の選択肢との組み合わせの効果)、主観的確率が適当に修正されて使えること(加重関数の存在)等を指摘し、「プロスペクト 理論」や、いわゆる「ファジー測度」を用いる累積「プロスペクト理論」を発展させた。

93.5. ヴィルヘルム・ブント[Wilhelm Wundt]
医学と生理学を学んだが、「感覚」研究を介してしだいに心理学や認識論の領域に踏み込むようになった。彼の心理学史上の功績は、ライプチヒ大学の哲学 部に「実験心理学」のための世界最初の心理学研究室を開設したことと、「民族心理学」を精神発達の視点から体系化しなおしたことである。彼の実験心理 学(個人心理学)は対象を直接経験に限る典型的な「意識心理学」で、分析的「内観」と「精神物理学」的実験を組み合わせた固有の方法を持ち、直接経験か ら個人的主観的要素を捨象した間接経験を対象とする自然科学とは峻別されている。

96. ハーマン・ウィトキン[Herman A. Witkin]
アメリカの心理学者。社会・人格・発達心理学の視点から、「知覚」・「認知」・「学習」・「性格」相互の関係を明らかにする実験を行い、「場依存型/場独立型」 という「認知スタイル」(個人差の型)の研究の先駆者となった。すなわち「RFT」を用いて空間的垂直の知覚を分析、対象の判断が環境的文脈と自己の身体 的文脈のどちらを「枠組」とするかで個人の認知スタイルが異なることを発見した。

97. メアリー・エインズワース[Mary D. Ainsworth]
アメリカ系カナダ人の発達心理学者。健全な「愛着」の発達が出来ているか、早期の愛着の質を測定する方法として「ストレンジ・シチュエーション法」を 作成したこと、「愛着理論」を発展させたことで知られる。愛着の形成に際して、養育者を「安全基地」という語を用いて乳幼児が外界と繋がるため、人間 というものに対する信頼感を形成するのに必要な存在であると位置づけた。

98. オーヴァル・マウラー[Orval Hobart Mowrer]
アメリカの心理学者。学習心理学者として新ハル派に位置づけられ、その媒介過程説により、「回避学習」、「罰」、言語行動などを説明した。学習心理学の 立場から、「不安」や「同一視」といった精神分析的概念の再構成を試み、また、「二次性強化説」(自閉理論ともいう)に立脚した「言語獲得」や「模倣」に 関する著作も多い。そのほか、「フラストレーション=攻撃仮説」に関する論文もある。

99. アンナ・フロイト[Anna Freud]
「精神分析」の創始者であるS.フロイトの末の娘で、正統フロイト派に属する。父フロイトがナチスに追われてロンドンに亡命した時に行動をともにし、以後 イギリスを中心に活動する。「防衛機制」論を発展させ、「自我」の健康な働きを強調して精神分析的「自我心理学」の基礎を作る。また精神分析を子どもに 適用して「遊戯療法」を始めた先駆者であり、「児童分析」の在り方を巡って、クラインと激しい論戦を繰り広げた。