20世紀の著名な心理学者100人
41. ソロモン・アッシュ[Solomon E. Asch]
ポーランド生まれの社会心理学者。ゲシュタルト心理学者ヴェルトハイマーの影響によって情報の各要素は相互の関連の中で意味づけられるべき
であるとし、社会心理学を個人心理学に還元すべきでないことを主張。「ゲシュタルトモデル」において、「印象形成」における「初頭効果」といった
順序効果や、「中心特性」「周辺特性」のような特定の性格特性の効果を見出した。集団内多数の誤判断が個人の影響に大きく影響するという
「同調」実験を行ったことでも知られる。
42. ゴードン・バウアー[Gordon H. Bower]
アメリカ生まれの心理学者。「記憶」「学習」「行動理論」に関する数多くの研究を行う。特に、アンダーソンとともに「HAM」と呼ばれる理解の
過程に関する理論を打ち出した。また、記憶の「符号化」に関する研究ではイメージの働きについて調べ、文章の記憶に関しては「スクリプト」の
影響について研究を行いモデルを打ち出している。また、記憶に関わる感情や言語についても関心を寄せている。
43. ハロルド・ケリー[Harold H. Kelley]
アメリカの社会心理学者。初期の代表的な研究には、フェスティンガーらと行った小集団内での「コミュニケーション」研究、ホヴランドらとの
「説得」研究がある。また、シボーとの「社会的交換理論」の立場から交渉や「連合形成」などの集団過程を分析した。67年には、規範的な原因
推論ルールに関する帰属の「分散分析モデル」を提出し、認知社会心理学の発展に貢献した。さらに、親密な二者関係における相互依存関係を取り
上げ、依存関係の構造と行為者の「特性」の点から相互作用過程を分析、理論化している。
44. ロジャー・ウォルコット・スペリー[Roger Wolcott Sperry]
アメリカの神経心理学者。「分離脳」手術(交連切開術)を受けた患者の認知機能についての組織的な研究を行って二つの「大脳半球」の機能差を
明らかにした。具体的には、てんかん治療の目的で半球間の信号伝達を行っている脳梁を切断した患者に、片方の脳半球に依存することが知られ
ている作業を行ってもらい、二つの脳半球がそれぞれ独立した機能を持っていることを実証した。彼は、この功績によりノーベル生理学医学賞を
受賞した。
45. エドワード・チェイス・トールマン[Edward Chase Tolman]
アメリカの心理学者。ワトソンの「行動主義」に共鳴、そこから出発したが、「学習」は「サイン=ゲシュタルト」の成立であると「認知」過程の用語で
説明した。「期待」や、確信、「認知地図」など、「内的表象」として浮かぶ体験を用語としてもちいるため、その理論は単なる類推に過ぎないと非難
を受けた。しかし彼は、これらの用語を「仲介変数」として、それに対応する操作的な変数を決め、科学的な形式を整えることによってその難点を
克服し理論を展開しようとした。この認知論的な立場とハルの行動理論の立場との論争を巡って多くの実験が行われ学習理論に寄与した。
46. スタンレー・ミルグラム[Stanley Milgram]
アメリカの社会心理学者。彼がイェール大学時代に行った「権威への服従」の研究は、個人の置かれる状況によっては何人であっても反道徳的行動を
取りうることを示して、数々の賞を獲得した。その後も、彼は都市生活における人間の心理を追及して、卓越したセンスで人の意表を突くような街頭
でのフィールド研究をいくつも行った。
47. アーサー・ジェンセン[Arthur R. Jensen]
アメリカの教育心理学者。精神測定と差異心理学の研究で知られ、なぜ個々人が異なる行動をとるのか、どのように異なる行動するのかに関心を持った。
彼は「氏か育ちか」論争において、「遺伝主義者」の立場を取っており、遺伝子が「知能」や「性格」のような、行動特性において重要な役割を果たし
ていると主張した。また、彼の結論は人種をもとにした差異が知能に影響するとしているとみなされ、大きな論争を呼んだ。
48. リー・クロンバック[Lee J. Cronbach]
アメリカの心理学者。彼は、教育測定・教育評価の研究で知られ、1949年に刊行した『心理テスト要説』はこの分野の標準的テキストとして版を重ねている。
様々な「適正」の人々が環境から異なる処遇を与えられた時、その処遇による結果がその人の適正だけからも処遇だけからも説明されず、両者の組み合わせ
による独特の効果を示すという「適正処遇交互作用」を提唱した。また、テスト項目の「信頼性」の指標として知られ「クロンバックのアルファ係数」にその名
を残している。
49. ジョン・ボウルビィ[John Bowlby]
イギリスの児童精神医学者で「愛着」(アタッチメント)理論の創始者。ケンブリッジ大学で医学を学んだ後に「精神分析学」を学ぶ。戦後はロンドンのタヴィ
ストック・クリニックで治療と研究にあたる。WHOの委託を受けて行った施設児に関する研究の報告書の中で示した「マターナル・ディプリベーション」(母性
剥奪)という概念は大きな反響を呼び、この概念はのちの彼の愛着理論の出発点となった。
50. ヴォルフガング・ケーラー[Wolfgang Kohler]
ドイツ生まれの心理学者。ヴェルトハイマー、コフカとともに、ゲシュタルト心理学の中心人物の一人。彼は、ヒヨコやチンパンジーに「移調」の可能性がみ
られること、チンパンジーが「洞察」を表す行動を示すことなどを明らかにした。物理学の「場」理論にも精通しており、ゲシュタルト性が心的現象ばかりで
なく物理的世界にも存在し、広い意味での物理法則が支配する「中枢神経系」と現象世界の間には対応関係が成立するはずであるとする「心理物理同型
説」を展開し、後年「図形残効」などの研究によってそれを支持する証拠を追及した。
51. デイヴィッド・ウェクスラー[David Wechsler]
ルーマニア生まれの心理学者。ベルヴュー病院で心理臨床の仕事をしていた彼は、個人の「知能」を診断的に捉えるための診断性「知能検査」である「ウェク
スラー=ベルヴュー知能検査」を作成。これが、ウェクスラー式知能検査の最初のもととなった。その後は「WPPSI」、「WISC (WISC-R)」、「WAIS (WAIS-R)」
へと発展した。ウェクスラー式知能検査が作成されたことにより、一貫した知能構造理論に基づいて、4歳の幼児から74歳の成人までの知能を測定できるよう
になった。
52. スタンレー・スティーヴンズ[Stanley Smith Stevens]
アメリカの実験心理学者。おもに「聴覚」の研究を行っていたが、その聴覚の「感覚尺度」の研究から「フェヒナーの法則」の感覚量を直接測定する事はでき
ないという前提条件の問題点に気づき、彼独自の考案による「マグニチュード推定法」とよばれる手法を用いて、フェヒナーの法則にかわる「刺激」と「感覚」
(知覚)の間の関係を提出した。それが「スティーヴンスの(ベキ)法則」である。
53. ジョセフ・ウォルピ[Joseph Wolpe]
南アフリカ連邦生まれの精神科医。「行動療法」の創始者の1人。第二次大戦後までおもに「戦争神経症」兵士を対象とする臨床医として活躍。「神経症」の
治療のために「パヴロフの条件づけ」原理を応用する事が出来ると考え、ワトソンらの実験や自らのネコを用いた「実験神経症」の「消去」をもとに、最も広く
知られ応用されている行動療法技法である「系統的脱感作法」を開発した。彼の代表的な著作『神経症の行動療法』は、日本でもその第3改訂版が翻訳された。
54. ドナルド・ブロードベント[D.E. Broadbent]
アメリカの工学心理学者。工学が人間社会の経済的な向上に着実に寄与してきた過程において、工学心理学は人間の心理に対して新しい理論的見通しを提供
しうることを強調した。彼の実験的研究には、「騒音」の能率に及ぼす影響、談話の知覚、「注意」および「ビジランス」(覚醒)の問題などがある。彼が開発
した「二分聴法」(両耳分離法)は、後にカナダの心理学者キムラによって左右「大脳半球」の機能差に関する研究に応用されて以来、知覚の研究に広く利用
されるようになった。
55. ロジャー・シェパード[Roger N. Shepard]
アメリカの認知科学者。非計量データの「多次元尺度構成法」などデータ解析の分野での業績のほか、「聴覚」領域の研究では、音楽における音の高さの五
次元モデルの提唱や無限音階の制作がある。「視覚」領域では、「心的回転」、心的折紙などの「心的イメージ」の研究や「仮現運動」の研究を行い、「錯
視図形」や「反転図形」も多数考案している。彼の研究には、空間表現に対する問題意識が一貫して見られる。
56. マイケル・ポスナー [Michael I.Posner]
アメリカの心理学者。特に認知と神経科学分野で「注意」の研究をしていた。彼は「資格探索」や「読み」、「処理数」のような高次の課題における人間の
注意について研究を行い、「脳損傷」患者に対する視覚実験、「前注意過程」と「注意の焦点化」を発展させた「外発的システム」と「内発的システム」概念
の提唱、「記憶腐食説」の提出などをしている。近年では、幼児や子どもの注意ネットワークの発達について研究している。
57. セオドア・ニューカム[Theodore Mead Newcomb]
アメリカの社会心理学者。彼は、大学のキャリアを通した学生の信念や態度の調査を行い、社会的、政治的信念の発達のために青年期後期の人々の参照集団の
重要性を主張した。「親密化の過程」において、ランダムに振り分けられたルームメイト同士が友達になるのを発見し、「近接性の原理」を提唱した。他にも
「コミュニケーションのA-B-Xモデル」などの研究で知られる。
58. エリザベス・ロフタス[Elizabeth F. Loftus]
アメリカの心理学者。1970年代初期には「意味記憶」からの「情報探索」の研究に従事。その後、「記憶」研究の立場から目撃者証言の信用性に関わる諸要因
の解明に従事する。「事後情報効果」の研究に関しては世界的権威である。彼女は、人間の記憶が現実世界のコピーではなく、積極的に現実世界からの情報を
再構成した結果として生み出される心的機能として捉えている。最近は、抑圧された記憶の本性を解明する研究に着手している。
59. ポール・エクマン[Paul Ekman]
アメリカの心理学者で、顔の「表情」、「感情」研究の第一人者。表情の基本的種類(嬉しさ、驚き、恐れ、悲しみ、怒り、嫌悪、興味)の検討、文化比較を行った。
筋肉レベルの表情の動きを機能的単位であるアクション・ユニットの組み合わせで客観的に評定する方法「顔動作記述システム」(FACS)を開発し、精神医学や犯
罪捜査の分野を含め、多くの研究で用いられている。
60. ロバート・スタンバーグ[Robert J. Sternberg]
アメリカの心理学者。彼の主な関心として、知能、創造性、知恵といった高次精神機能に関する理論の提出、思考スタイル、認知的変容可能性、リーダーシップ、
愛と嫌悪などに関する研究などがある。彼の提出した有名な理論として「知能の鼎立理論」(三頭理論)があり、従来の言語能力や問題解決能力などを重視した「学
校で知的な」人々の側面のみを知能とする捉え方を知能の一面に過ぎないと指摘した。